感情をコントロールできない暴力幼児が増えている
   この10年間で、小学校1年生のクラス内での暴力は約14倍になったというある調査結果が出されました。原因は、感情のコントロールが苦手な子どもが増えていることではないかと言われています。
   調査で明らかになった子どもの暴力の特徴は以下の4つです。

.「なんとなくムカつく」だけで手が出てしまう
「どうして叩くの?」と聞くと「なんとなくムカつくから」と答えた子がいます。何かをされたわけではないけれど、「なんとなく相手が気に入らない」ことが暴力の理由になるのです。
.自分の感情をうまく言葉にできない
   自分の心の中の苛立ちやモヤモヤをうまく言語化できず、感情がいきなり行為になって表れてしまいます。「ムカつく」「ばかやろう」「死ね」などの暴言を吐くのも、自分の感情に整理がつけられないためです。
.手や体の一部が触れることを嫌がる
   友達の手や体が触れることが我慢できず、払いのけたり叩いたり。家庭内でのスキンシップが不足している子どもに多いパターンです。
.自分を棚に上げてー人のことを責める
   小学校の荒れているクラスの子どもには、「みんなルールを守らないんだから自分も守らなくていいだろう」と考える「他責タイプ」が多く見られます。
感情のコントロールを教える支援
   では、小さいうちから感情のコントロールを教えていくには、具体的にどんな関わり方をしていけばいいのでしょうか?教育問題に詳しい白梅学園大学の増田修治先生は次のように指摘します。
親に「〜しなさい」と命令されてばかりだと暴力的になる傾向に
「なんとなくムカつく」「ウザい」。こうした感情には、自分とは違う価値観を持つ相手のことを受け入れられないという問題が隠れています。「ムカつく」「ウザい」を連発する子どもたちには、親から「○○しなさい」と命令されて育った傾向があります。親から価値観を受け入れてもらった経験がない為に、自分も誰かの価値観を受け入れることができないのです。
どこが悪いのかどうすればいいのかを大人が丁寧に伝える
「暴力をふるう子どもの親」は、「子どもだから許されるでしょ」と考える傾向にあるようです。例えば、わが子が公共の場で走り回っても知らんぷり、よその人に乱暴な口を利いても注意しないなどです。もちろん子どもですから、未熟さゆえに間違えてしまうことはあります。その度に、その行動のどこがいけないのか、どうすればいいのかを教えていくのが大人の役目。その姿を見て、自分の感情や行動をセーブできる子どもが育っていくのです。
 
子どもとの「愛着」が必要不可欠
 先の子どもの暴力の特徴として挙げられたのは、以下の4点でした。
.「なんとなくムカつく」だけで手が出てしまう
.  自分の感情をうまく言葉にできない
.  手や体の一部が触れることを嫌がる
.  自分を棚に上げてー人のことを責める

 これらは、明らかに
“愛着不全”の症状です。自閉症スペクトラム障害(ASD)の症状とも似ていますが、この10年間で、小学校1年生のクラス内での暴力は約14倍になったという変化を考えると、先天的な障害のそれではないと考えられます。これ程の増加は、精神科医の岡田氏が指摘している、共働きという家庭環境や、スマホ等のSNS端末の個人所有の増加による“脱愛着(人と人との繋がりの弱体化)”の進行によるものと考えるのが自然です。特にスマートフォンの個人普及には、この10年の間にも更に拍車がかかっています(下記グラフ参照)。

  “愛着不全”ということは、母子との間に形成されていない「愛着(愛の絆)」を形成することによって症状は改善します。その方法は「
愛着7」のような愛情行為であり、それらを日常的に心がけて接することが大切です。上記記事あるように「親に『〜しなさい!』と命令されてばかりだと暴力的になる」傾向にありますから、「愛着7」のような穏やかで肯定的な接し方が大切になるのです。このことについては、我が国の愛着研究の第一人者である岡田尊司氏も、「子どもを“愛着不全”に陥らせる最大の要因は、現在多くの家庭で行われている“子どもに対する否定的・支配的な養育”である」と指摘しています。
 また、文科省が平成26年度に行ったある調査によると、「公立小学校で暴力行為をした男の子は女の子の13倍いた」という結果が得られたそうです。このことから、「男性は女性に比べて“キレやすい”特性を持っている」ということが分かります。これは、「バソプレシン」という攻撃性を持った男性特有のホルモンの働きによるものだと考えられています。本来人間は、抱っこ等スキンシップのような愛情行為を受けると、別名「幸せホルモン」とも呼ばれる、人を優しい気持ちにさせる「オキシトシン」というホルモンが脳内に分泌されます。このホルモンがキレない子どもを育てるのですが、先の男性特有の「バソプレシン」というホルモンが、この「オキシトシン」の働きを鈍らせてしまうのです。この 攻撃性を緩和させるには、「オキシトシン」そのものの量を増やすことによって、相対的に「バソプレシン」の割合を小さくする(多量の「オキシトシン」で「バソプレシン」をうすめる)必要があるそうです。つまり、もともとキレやすい特性を持つ男の子を安定した精神状態に保つためには、「オキシトシン」の分泌を促す「愛着7」のような愛情行為をより意図的に施す必要があるのです。

子どもの拠り所になる「ソーシャルスキル」の指導
    先の増田先生の指摘する「その行動のどこがいけないのか、どうすればいいのかを教える」ということは“正しい「ソーシャルスキル」”を教えることです。

   具体的な指導の大まかな手順については、以下のようなことが望ましいと思います。
子供の気持ちや言い分を聞いてそれを受け止める。
自分がしたことが良いことだったかそうでなかったか、またその理由を考えさせる。
どんな行動をとっていれば良かったのかを考えさせる。
正しい方法が分かったら褒める。
  この中で一番大切な事は「①」での子供の気持ちの受容です。これを穏やかな言い方で子供に話しかけます。子供は、自分の気持ちを分かってくれない大人には心を開かないので、「どうしてあんな事をしたの?!」という厳しい言い方をすると、子供は貝のように口を閉ざしてしまいます(詳しくは「子どもとの「愛着」が、人間社会を生きていくうえで必要不可欠なソーシャルスキルを身に付けさせる」参照)。
   また、ソーシャルスキルを指導する場合に一番大切なことは、子供が問題行動を起こしたその時に直ぐ教える“即時指導”です。時間が経ってから指導しようとしても、その時の場面状況が子供の頭から薄れてしまっているからです。

3つの行動パターンの中の正しい行動
   また、トラブルがあった時に、子どものとる行動は、主に次の3パターンに分かれます。
A 嫌なことがあったら友達に対して怒る
B 嫌なことがあっても我慢する
C 怒らないで自分の気持ちを友達に言葉で伝える
 「A」は、もちろんよくありません。そもそも感情的になるからトラブルに陥るのです。「B」は、表面的なトラブルは起きませんが、被害を受けた子どもにストレスが溜まりますし、問題の根本的な解決には至りません。“正しいソーシャルスキル”は「C」です。落ち着いて自分の気持ちを相手に伝えることで、友達も本人の気持ちや立場を理解することができます。上記の「どんな行動をとっていれば良かったのかを考えさせる指導の際に、この「C」タイプに一貫して教えることで、子どもにも正しい行動の仕方として定着します。

絵カードによる視覚を通した指導
    また、時間のある時で子供の気持ちが安定している時にも、以下の“絵カード”を使ってソーシャルスキル指導ができます。
ソ-シャルスキルトレ-ニング絵カ-ド」(AC3種類有り)
これは、3枚で1セットになっている絵を見ながらのクイズ形式(「何をしているの?」「この後どうなった?」「どうしていれば良かった?」)になっているので、“クイズ紙芝居”のような感覚で、親子で楽しみながら学ぶことができます。