「ごめんなさい」の強要
   子どもは多くの友達と遊びます。時には、相手の友達に対して迷惑をかけたり危害を加えたりすることもあると思います。その場面を目にした親御さんの中には、そんな我が子に対して「『ごめんなさい』は?!」と、まずはとにかく友達に謝らせようとする方もいらっしゃるようです。
   しかし、そんな時の子どもの様子はどうでしょう?素直に心から謝っているでしょうか?中には、どこか不満げな表情を浮かべて、渋々謝っている子どもはいないでしょうか?口では「ごめんなさい」と言ってはいるものの、心の中では実は心から反省していないこともあるような気がします。

“他者”との関係を円滑なものにするために
   子ども達は、その一生を人間社会の中で生きていくことになります。“他者”との関係を円滑なものにするうえで大切なことは、互いに「承認の欲求」や「尊重の欲求」(心理学者A.マズローによる)を満たし合いながら生活することです。「承認の欲求」を満たすには、相手から「ありがとう」を言われること、更に「尊重の欲求」を満たすには、他者から迷惑な行為を受けたときに「ごめんなさい」を言われることが大切です。

子ども達が苦手な「ごめんなさい」
   特に、これらのうち子どもが苦手としているのが「ごめんなさい」のようです。なぜなら、友達に迷惑をかけた側の子どもにも自分なりの言い分やプライドがあり、それが子どもを意固地にさせてしまい、素直に「ごめんなさい」の言葉が出てこない時があるためです。しかし、素直に「ごめんなさい」が言えない子どもは、それがきっかけになり、それ以後、その相手の友達から悪い印象を抱かれてしまうことになってしまいます。つまり、「ごめんなさい」が言えることは、子どもが社会を生きていくうえで最も大切な“ソーシャルスキル”であるといえます。

   更にそれだけでなく、お母さんから自分の気持ちも聞かれず「ごめんなさい」を強要されたことによって、「お母さんは自分の気持ちを分かってくれない」という気持ちが湧き、母親に対する信頼感が薄れ、親子間の「愛着(愛の絆)」に傷がついてしまうことにもなりかねません。

心からの「ごめんなさい」のために
 では、どのようにすれば、子どもが素直に「ごめんなさい」が言えるようになるのでしょうか?
  特にお勧めなのは、「“共感”から始める」という方法です。“注意”から始めると、子供は心を閉ざしてしまい、大人の言葉を受け付けません。しかし、“共感”から始めると、子どもは大人に対して心を開き、素直に反省することができます。
   その手順は以下の通りです。
子供の言い分を穏やかに聞く
  相手の友達がいない別室で、「(穏やかな聞き方で何があったの?」と穏やかな口調で聞きましょう。“険しい表情”で聞くと子供は心を閉ざします。
聞いた話に“共感”する
  そうか、あなたは……がしたかったんだね
子どもの行動の是非について考えさせる
  「(優しく諭す言い方で)でもね、あなたがした事は良いことだった?良くない事だった?」(①、②のように始めると大抵「良くないことだった」と素直に認めます。)
迷惑をかけた相手に謝らせる
  ◯◯ちゃんに悪いことしちゃったね。『ごめんなさい』を言えるかな?」(大抵「うん」と言います。)
きちんと謝れるかな?お母さん見てるから、『ごめんなさい』しておいで」(大抵素直に言えます。ここでは特に、“お母さんの見守り”が効果を発揮します。素直に言えた時には「きちんと謝ることができたね。えらかったよ。」と褒めてあげましょう。この“ほめ言葉”で「人にきちんとあやまることはいいことだ」という記憶と、「ダメな自分のこともお父さん(お母さん)は好きでいてくれる」という気持ちが残ります。

子どもの気持ちと「愛着」で繋がることで、子どもを”真の反省“に導く
「叱る」というよりも「反省に導く」というイメージのこの方法。以前「『愛着』の維持のために①~子どもが問題を起こした時の関わり方~」の項で、「子どもが問題行動を起こしら、まず始めに『何があったの?』と子どもの気持ちを聞きましょう」とお話ししました。今回の支援方法の「①子供の言い分を穏やかに聞く」は、そのことと同じです。今回はその中でも、友達に対して迷惑をかけた場合の事例であると言えます。
   更にその後、その子どもの気持ちに“共感”することで、子供は「お父さん(お母さん)は自分の気持ちを分かってくれた」と思い、親に対して心を開くので、「『ごめんなさい』の“強要”」という“力”に頼らず、子どもを”真の反省”に導くことができるのです。この「子供の気持ちと繋がろう」という親の気持ちが、他でもない、親子間の「愛着(心の絆)」の力によるものです。

問題を起こした子どもの気持ちに共感することが「無条件の愛」を保証する
   以前、「子どもに対する『愛着』の欠如が『いい子症候群』の子どもを生む」の項でもお話ししましたが、子どもが「お父さん(お母さん)は自分がよくできた時だけ好きなんだ」と認識するのは「条件付きの愛」です。しかし、今回の“共感”による指導をすることで、子どもが「ダメな自分のこともお父さん(お母さん)は好きでいてくれる」と認識するのは、子どもに「無条件の愛」で接したという証であり、子どもが問題を起こした時でも親子間の「愛着(愛の絆)」は強くなるのです。