「キャリア教育」とは何か?
   まず、「キャリア教育」とは何か?ということからお話しします。「キャリア教育」とは、次のような教育のことを言います。
一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育 (中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」平成 23 131)
   更に上記定義の冒頭にあるように、キャリア教育の目的は、「一人一人の社会的・職業的自立」です。つまり、人間が一人の社会人として、自立して社会生活を送ったり職業に就いたりすることです。学力だけ高くても、自立した社会人でなければ社会では生きていけません。また、中学校や高校などで部活動に取り組んでいた時に、素晴らしい成績を収めることができた場合でも、実績のある優秀な監督の指導を受けていた子どもほど、先の“自立した社会人の基盤となる能力や態度”が身につかないということは十分考えられます。なぜなら、子ども達は監督の指示に従って言われるがままに行動していることが多いからです。そういう場合は、たとえ全国優勝したとしても、社会人になった時には、その成績は何の役にも立ちません。子ども自身が「自立した社会人の基盤となる能力や態度」が身に付くような活動をしなければ意味がないのです。
 
「キャリア教育」を支える4つの能力や態度
   では、その「自立した社会人の基盤となる能力や態度」とは何でしょうか?それが以下の4つの能力や態度です。
人間関係形成能力
(他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り、協力・共同してものごとに取り組む力)
情報活用能力
(学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して、自己の進路や行き方の選択に生かす力)
将来設計能力
(夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する力)
意思決定能力
(自らの意思と責任で、よりよい選択・決定を行うとともに、その過程での課題や葛藤に積極的に取り組み克服する力)

「キャリア教育」の実際
 ちょっと分かりにくいのもありますね。私が個人的に、「キャリア教育にふさわしい活動」として考えているものの一つに学校での部活動があるので、それを例に「キャリア教育」の“実際”をお話ししたいと思います。
   例えば、子どもが中学校の部活で「野球部」に所属しているとしましょう。その際には、「甲子園出場」「県大会ベスト4」等の“目標”を立てるでしょう。この時が「③将来(目標)設計能力」を身につけるチャンスになります。しかし、指導者が目標をトップダウンで一方的に決めてしまっては、子どもにこの能力は身に付きません。なぜなら、子ども達自身が考えていないからです。そこで、まずは、選手一人ひとりが自分たちの目標を考える必要があります。そのうえで、各自が考えたものを出し合って話し合い、子供達同士で全体の目標を決めます。更に、その目標を達成するためにはどのような練習をする必要があるかを子供たち一人一人が考えて、「これなら目標が達成できそうだ」と言う目標達成の見通しを立てます。これも「③将来(目標)設計能力」を育む活動です。
 また、これまでに行われてきた「自分で目標や方法を考える」場面では、「④意思決定能力」が育ちますし、「どんな練習方法を取り入れればいいかを考える」場面では、子ども達は本やインターネットで調べたり、先輩から聞いたりしながら活用できそうな情報を探します。この場面では「②情報活用能力」が育ちます。
 また、部活動では、複数の部員が所属していることが多いです。しかも、その部員達はバラバラに活動しているのではなく、共通の目標に向かって協力し合います。その共通目標の実現のためには、部員一人一人が自分勝手に活動することは許されません。自分の“エゴ”を我慢したり、皆で協力し合ったり、友達の良さを認めたりしながら活動することが求められます。その中で「①人間関係形成能力」が育まれるのです。

家庭での「キャリア教育」
ここまでは、学校での部活動を例に「キャリア教育」の実際について考えてきました。一方で、部活動のように複数の構成員が存在しない家庭内では、どのようにすれば「キャリア教育」を行うことができるのでしょうか?
   その場合は、本サイトで紹介している「見守り4支援」が効果的だと思います。例えば、朝に子どもが家族の力を借りずに一人で起きるという課題場面を考えてみましょう。この課題解決を任せられた子どもは、まずは「どうすれば自分だけで起きることができるか?」という“方法”を考えるでしょう。そのために、毎日自分で起きているという友達に聞いたり、インターネットで調べたりするかもしれません。これは「②情報活用能力」を育む機会です。その後、調べたことを基に、こうすればきっと自分で起きることができるだろうという見通しを立てます。これが「③将来(目標)設計能力」の育成に繋がります。ここでは仮に、“目覚まし時計を二つ枕元に置く”という方法を考えたとしましょう。次に、自分が考えた見通しを実行に移します。ところが、朝になって目覚まし時計の音が鳴ると、寝ぼけながら二つとも止めてしまい、また寝てしまいます。そこで、この方法はよくないと“判断”します。そこで、今度は二つのうち一つをベッドから離れた場所に置いてみてはどうか?と“工夫”します。すると、今度はさすがに、離れた時計を止めるために起き上がってベッドから離れなければならないので、なんとか一人で起きることができました。このように、課題が解決するまでの試行錯誤の過程で、「判断する」「工夫する」という行為が、自分自身で考えて決定するという「④意思決定能力」の練習になります。
   問題は、「①人間関係形成能力」です。「人間関係能力」の育成に最も大きな影響を与えるのは、親との間に安定した「愛着」を形成することです。ちなみに、課題解決を自分に任せられた子どもに、親との「愛着」を形成するチャンスがあるとすれば、どうしても自分では解決できない問題が発生した時に親に相談する時くらいです。その時に、「どうしたの?」と優しい口調で受け止めたりアドバイスを送ったり、どんなことで困っているかを熱心に聞いたりと、「安心7支援」の愛情行為で接することはもちろん大切です。しかし、親子間の「愛着」の形成は一朝一夕でできるものではありません。乳児期に母親がたとえ夜中であっても身を粉にして子どもの養育に当たり続けてきたように、日常的・継続的に「愛着7」で接する以外に方法はないのです。

“親の過干渉”は子どもの「キャリア教育」を妨害する
    既にお気付きかもしれませんが、「キャリア教育」を支える4つの能力や態度のうち、「②情報活用能力」「③将来設計能力」「④意思決定能力」の3つについては、課題解決活動を自分の力で頑張った子どもだけが身に付けられるものです。親から常に干渉を受けている子どもの場合は、自分が進むべき道を自分の代わりに考え判断して示してくれる親にそれらの力が身につくことはあっても、自分自身に身に付くことは絶対にありません。親の過干渉が如何に自立できない大人を生んでしまうか、よくお分かりいただけたのではないでしょうか。