日大アメフト部において、特定の選手が理不尽な理由から精神的に追い込まれ過度に厳しい指導を集中的に受ける「ハマる」という指導。内田前監督は「自分にはこの指導法しかなかった」と述べているとのこと。その内田氏や井上コーチに対して「指導者の資格無し」というバッシングが飛んでいます。

   それでは、良き指導者に求められる資質とはどんなものなのでしょうか?今回はその事について考えてみたいと思います。


   私は、指導者の資質には大きく分けて3つの面があると思います。それは
技術指導面
人間指導面
「(子供と指導者との)人間関係作り面
です。この3つの側面において、どのような指導を行うのが良い指導者なのでしょうか?

「技術指導面」について
   何らかの技術を子供に伝える場合、ある効果的な方法があります。それは、旧帝国日本海軍の連合艦隊司令長官を務め、最終的な階級は元帥海軍大将という山本五十六氏の名言やってみせ 言って聞かせて させてみせ、ほめてやらねば 人は動かじ」に即した次の4段階を踏むことです。
①どうすればいいかを具体的に分かりやすく話して教える
②望ましい行動の仕方を、指導者がやって見せる
③子どもにやらせてみる
④うまく出来たらほめる

   視覚から得られる外部情報は全体の8割にも及ぶと言われます。そこで、まず技術の“概観”を分かりやすく話して伝えた後、その技術を実際にやって見せるのです(②を先にやると、どの点に注意して見ればいいかが分からないため、①の後に行う方が良いと思います。場合によっては、①と②を同時に行う方がより効率的な場合もあるかもしれません。)。これで、子供はどのようにすれば良いのかがハッキリと分かります。その上で、実際にやらせてみせて、上手に出来た場合に褒めます。「やり方がはっきり分かり褒められる」、私の31年間にわたる教師としての指導経験上でも、この指導方法が最も子供に効率的に伝わる方法だと思っています。

「人間指導面」について
キャリア教育」という言葉があります。これは、「一人一人の社会的・職業的自立に向けて、一社会人として必要な基盤となる能力や態度を育てる教育」のことです。この教育においては、育てるべき能力があります。それは次の4つです。
①「人間関係形成能力」
(他者の個性を尊重し、自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニケーションを図り,協力・共同してものごとに取り組む力)
②「情報活用能力」
(学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して,自己の進路や行き方の選択に生かす力)
③「将来設計能力」
(夢や希望を持って将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する力)
④「意思決定能力」
(自らの意思と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程での課題や葛藤に積極的に取り組み克服する力)

   日大アメフト部の選手達は、絶対的な指導者の下で、①自由な人間関係は制限され、②アメフトについての技術情報はコーチから一方的に与えられ、自分の力で探す経験は皆無だったでしょう。更に③大会での優勝に向けてのステップも監督やコーチからのトップダウン、④その為、あらゆる面において自分の意思で決定するという学習をすることも無かったに違いありません。
   指導者は、“結果”だけを追い求めるのではなく、目標の達成までの“過程”の中で意図的にこれら4つの力を育て、一人前の社会人として通用する人間にしてやらなければなりません。

◯「人間関係作り面」について
   指導者と子供との人間関係を“信頼”に基づく良好なものにするということは、相手と“心の中の絆”で繋がること、即ち“愛の絆”、つまり「愛着」を形成することであり、そのための愛情行為(例愛着7」)が必要です。
   内田前監督の前に日大アメフト部を長きに渡り指導し、選手達から「オヤジ」と敬愛されていた故・篠竹元監督は、選手達と麻雀をしたり一緒に風呂に入ったりすることによって「愛着7」のような愛情行為を選手に施していたそうです(「その中では、篠竹氏は、子供たちと視線を合わせたでしょうし、選手たちに笑顔で接したでしょうし、選手達に親しく声をかけたでしょう。また、風呂場では選手達の背中を流してあげたり流してもらったりとスキンシップを図っていたかもしれませんし、麻雀をしながら選手達の話を聞くなどしたことでしょう。それらの行為そのものが、子供との間に「愛着(愛の絆)」を形成するための愛情行為「愛着7」、正にそのものだったのです。」〜5月27日投稿記事より)。
「愛着」は母子間において考えられることが多いですが、「愛着」は生後の環境によって形作られるものなので、子供は人生経験を重ねながら、母親以外の様々な大人や友達との間に「愛着(愛の絆)」を形成します。子供は「愛着(愛の絆)」を築いた相手を「この人は信頼のおける人だ」と認識して、自分にとっての「安全基地」と捉えるようになります。そこには、不安や余計な緊張は存在しません。その大人の前では、伸び伸びとベストのパフォーマンスができるのです。
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   なお、保護者の方々も“我が子の指導者”です。子育ての中で留意するべきことは同じです。「技術指導面」の“山本五十六式”指導方法は、特にお手伝いの指導場面で活用できます。