【今回の記事】
【記事の概要】
   埼玉県新座市で昨年8月、生後約2カ月の次男に揺さぶる暴行を加えて死亡させたとして、傷害致死の罪に問われた、母親で当時19歳だった女(20)の裁判員裁判の判決公判が1日、さいたま地裁で開かれ、高山光明裁判長懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑・懲役4年)を言い渡した。
次男のことは今までもこれからもずっと大好き。こういうことをしてしまって本当にごめんという気持ちでいっぱい」。当時19歳だった母親(20)は公判で、涙ながらに後悔と反省の言葉を述べた
 公判で明かされたのは、家族4人の家事、育児を一手に背負った未成年の母親が、誰にも相談できないままストレスをため込み、泣き止まない次男思わず感情をぶつけてしまったことだった。日常的な虐待の事実はなかった
 母親は午前4時ごろに起きて夫の弁当を2食分作り午後7時ごろに夫が帰宅する前に夕食を準備掃除洗濯に加え、乳児2人の世話を一人でこなしていた両親とは疎遠な関係で、夫の父は子どもを預かってくれることがあったものの、体調が悪いため頼りきれなかったとした。とはけんかが多く、一方的に強く言われていたという。
 当日は長男の1歳半検診があり夕方に帰宅。雨でぬれた洗濯物の処理と夕食の準備に追われる中で次男が泣き出し、「焦り、疲れがあった。何をしても泣き止まずいらいらしてやってしまった」と泣いて認めた。今後は「夫との関係を良くして、両親を頼って協力したい」と誓った。
 高山裁判長は判決後、「二度と起こさないために夫との関係が一番大事。しっかりと話し合っていい関係をつくって」と説諭。家事については「何でも完璧にやる必要はないあまり気を張らずもう少し子育てを楽しんで」と述べた。罪の意識にとらわれ過ぎることを心配し、「次男はあなたを決して恨んでいないと思う。長男を温かく育てて」と語り掛け、目元を拭った。黙って聞いていた母親も目元を拭っていた。

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【感想】
   日常的な虐待の延長としての暴行死のニュースは良く耳にしてきましたが、この家庭では日常的な虐待はありませんでした。しかし、夫との仲が良くなく、親とも疎遠でした。
   しかし、このような「日常的な虐待はないが、夫との仲が良くなく、親とも疎遠という家庭は珍しくないのではないでしょうか?そして、育児ノイローゼや産後うつのような精神状態になるお母さんも沢山いるはずです。

   判決後、高山裁判長は次のような言葉を母親に語りかけました。
夫との関係が一番大事。しっかりと話し合っていい関係をつくって
   さて、夫や両親との人間関係を修復しようという時に、相手を目の前にして、表情が曇りがちになったり、語調が強くなったりしてしまっては、また険悪なムードが漂ってしまうでしょう。
   家族との“絆”を回復するということは、“家族”で繋がれた“”、つまりは家族間の「愛着(愛の絆)」を回復することです。精神科医の岡田氏は、「映像メディア、パーソナルメディアの爆発的な普及によって家族同士のコミュニケーションやスキンシップが奪われたために、家族間の愛着の崩壊に拍車がかかった」と指摘しています。つまり、愛着7」のような「愛着(愛の絆)」を形成する愛情行為である、相手を見て微笑んだり、穏やかな口調で話しかけたり、相手の話を聞いて共感したりする行為が家族の間でも必要になるのです。そのように、どちらかが“大人”になり、相手を尊重する言動を心がけると、「売り言葉に買い言葉」にならず、もう一方の気持ちも穏やかになるものです。
   なお、「愛着」は生まれてからの環境によって形成される後天的なものなので、一度崩壊した「愛着(愛の絆)」も回復させることが十分可能です。

   また、高山裁判長は次のような言葉もかけました。
あまり気を張らず、もう少し子育てを楽しんで
しかし、あまり気を張らない」とはどうすることでしょうか?また、「子育てを楽しむ」ためにはどうすればいいのでしょうか?実はかなり抽象的な表現です。

   まず、「あまり気を張らない」とは、何でも完璧にやる必要はない」という裁判長の言葉通り、「家事や育児の全てを自分がきちんと世話しなければならない」と完璧主義に走らないということだと思います。
   以前私は、「子供は失敗する生き物であり、そのありのままの姿を受け止めることが子供の意欲を高める」という記事を投稿しました。しかしそれは、生まれて初めて子育てに当たる母親にとっても同じです。全てが初めてのことばかりですから、失敗をするのも当然です。そのように母親自身が自分のありのままを受け止めることで、プレッシャーやストレスが軽減するのではないでしょうか?
   何よりも、育児だけでもとても大変な仕事ですが、それに加えて家事までこなすということは至難の技です。特に、「愛着」形成に最も適していると言われる1歳半までは、「愛着7」の①に「乳幼児期(特に1歳半まで)に親が子どもの近くにいて、子供の表情に反応して養育に当たる」とあるように、お母さんは育児に専念して、家事は出来るだけ旦那さん等の協力を得てやってもらうのが望ましいです。「愛着」形成は子供の一生の人格形成に影響を与える営みですから、その為の環境作りは重要なのです。
   特に、今回の事例を通して、いわゆる「ワンオペ育児(ワン・オペレーション育児=育児と家事を全て一人でこなすこと)」は、母親を精神的に追い詰め、このような事態を招く恐れも十分考えられるのだという事を社会全体で共通認識し、「ワンオペ育児」をさせない社会環境づくりを進める必要性を私達が自覚しなくてはならないと感じました。

   また、「子育てを楽しむ」ためには、子供が自分になついた自分が褒めたら子供が伸びたりする経験をお母さん自身がすることが大切だと思います。
   まず、子供との距離を縮めるためには、やはり親子間の「愛着(愛の絆)」を回復させることが必要です。そのためには「愛着7」で接することが大切です。一定の効果が現れるまでは大人の「愛着7」に対する強い自覚が必要になりますが、その後は子供の方から勝手に近寄ってきます。まだ自力で動けない乳児でも、お母さんに対して笑顔を示します。
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子供との距離が縮まったら、じゃれあって、「愛着」形成をする上で最も効果があるとされる“スキンシップ”を図りましょう。子供は目を輝かせてお母さんを見つめたり、嬉しさのあまり「やさしいお母さん大好き!」と言ったりするようになるかもしれません。
   更に、幼児期になると、「愛着7」の「子どもを小さなことから褒める愛情行為(「愛着の話 No.70 〜⑥子どもを小さなことから褒める(その1)〜」〜その5)」によって、子供はどんどん良い行いをします。はじめのうちは、「愛着(愛の絆)」で繋がっている大好きなお母さんから褒められるのがとにかく嬉しいのです。そんな子供の姿を見れるのは、まさに“お母さん冥利”に尽きるでしょう。
   
   最後になりますが、当時まだ二十歳にもなっていなかった今回の事例の母親は一生懸命がんばったと思います。私は先日「『愛着』で結ばれた母親を後追いする子供の気持ち」についての記事を投稿しましたが、今回の事例の次男さんも大好きなお母さんを必死で呼んでいたのかもしれません。「次男はあなたを決して恨んでいないと思う」という裁判長の言葉通り、一生懸命だった大好きなお母さんの事を亡くなられたお子さんは許してくれるでしょう。
   次男さんのご冥福を心からお祈り致します。