「承認(尊重)の欲求」が満たされると、最後に、「自己実現の欲求」を満たしたいと考えます。
   これは、その名の通り、自分らしく満足のいく姿で生活を送りたいと思う欲求です。マズローはこの欲求について「人がなるところのものに、ますますなろうとする願望、人がなることのできるものなら何にでもなろうとする願望」と述べています。
   この欲求を満足させてやるには、大人が気をつけたい事が二つあると思います。
   一つは、子どもに対して、その子ならではのよさを認めてやることです。私が以前担当していた特別支援学級に、M君という知的障害の男の子がいました。そのM君は、とてもよく気がつく子どもで、私たち大人が忘れているようなこともしっかり覚えていて、自分から進んで「プリントを職員室から持ってきます。」等といつも進んで行動していました。私は、そのM君によく、「さすがはM君。よく気がついたね。ありがとう。」と言っていました。その子の表情から察するに、おそらく、「ぼくのいいところはよく気がつくところだ」と自覚していたように思います。それは、とりもなおさず、その子が「よく気がつき人の役に立つ』、これがぼくらしく生きている姿だ」と認識していることと捉えることができます。この認識こそが、自己を実現している姿と言えるのではないでしょうか。
   しかし、子供が自分の良さや価値に自ら気づくという事はとても難しいことです。それに気づかせてあげることができるのは、その子供のことをよく見守っているあげている親や教師をはじめとした大人しかいません。その子の個性の中でひときわ輝く面を見つけて「さすがは◯◯くん、……がすばらしい!」と褒めてあげてください。
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   大人が気をつけたい事の二つめは、精神科医の岡田氏が危惧するように、子供のする事にいちいち口を挟んだり、子供に大人の価値観を押し付けたり、と必要以上に子供に干渉しないことです。親の干渉にあうと、子供は自分に自信が持てなくなり、自分らしさ発揮出来なくなります。子供に必要以上に干渉せず、任せて見守る「自立4支援」の大切さが改めて分かります。

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   これまで5種類の欲求を紹介してきましたが、どの欲求にせよ、それぞれの欲求が満たされないと、その子どもの中にはストレスが溜まります。すると、どこかでそのストレスを発散してバランスを取ろうとします。
   因みに、国立教育研究所の滝氏によれば、学校の中で起きるいじめの原因として一番可能性が高いのは、加害者児童の「不適応原因説」、つまり「彼らのおかれた状況に起因するストレス情緒不安の現れ」とする結論に至っています。(滝1996