【今回の記事】

【記事の概要】
   子育てに自信のあるママなんて、どこにもいない!家庭教師・塾講師、東大生・早大生を育てた母であり、子育てセミナーを主催する楠本佳子さんに教わる連載コラム「能力をのばす子育て」。33回目は「気を付けたい子どもへの口調」について。
「~しなさい」は怒られている!?
   あるお母さんが、お子さんに「お母さんの似顔絵を描いて」と言うと「あ!じゃあ怒った顔。」と言われてビックリしたことがあるそうです。「どうして?」と聞くと「お母さんはいつもいつも怒り顔」と言います。しかし、私(楠本)の印象はいつも温和で優しい素敵なお母さん常に穏やかで、人の話も「うん、うん」とあいづちををうちながら聞くような人です。怒った姿を想像できませんでした。でも、家の中では少し違ったようです。やはり優しいだけではありませんでした。だからと言って、お母さんが常に怒っていたかというとそれも違うのです。お母さん自身は子どもとの会話の2割程度しか怒っていないと思っています。それに反して子どもは8割お母さんが怒っていると受け取っています。例えばお母さんは「~しなさいという言葉を怒って言っているつもりはありません。しかし、子どもにはそれは怒り口調聞こえるようです。

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気が付かないうちに口調が変わっているのかも
   また、私(楠本)がある家に遊びにいった時、子どもが「今日、何曜日だったっけ?」とお母さんに聞くと「水曜よ。そんなのもわからないの!」と小学校6年生の子どもに向かって言っていました。私と話している口調と全く違います。一瞬の豹変ぶりに驚いてしまいました。思わず「“水曜よ”だけでいいじゃない。」と話すとお母さんも笑っていました。他の家庭でも、私(楠本)と話しているときと、振り返って子どもと話すとき、ガラリと口調が変わっていたことがあります。これをお母さんに話してみると「そんなに変わった?」と全く気が付いていません自分で気が付いていないのですから、子どもが「怒ってばかり」と感じていることにさえ気が付いていないのでしょう。
多少の気を遣うのは家族も同じであるべき
   他の人と話すときと子どもと話すとき、言葉や口調がかなり変わってしまう人が多いようです。お母さんは気が付いていないけれど、子どもは他の人と自分とではお母さんの話し方が違うのに気が付いています。だから自分に対しては、いつも怒ってばかりいると感じるのかもしれません。他人に気を遣うのを、少し家族にも気を遣う方に回してください。親子は何歳になっても親子です。一生付き合わなくてはいけないのです。せめて外と家の中、言葉や口調を極端に変えるのはやめましょう子どもはしっかり見ています。あまりにも口調が違うと、子どもも自分が蔑(ないがし)ろにされている、大事にされていないと感じてしまうことがあります。

【感想】
   お母さんとすれば、「家庭外の人は尊重するべき」という規範意識があり、言葉づかいも気を使っているのだと思います。それ自体は正しい考え方です。
   しかし問題は、“家庭外の人”と“家庭内の人”とのお母さんの言葉づかいがかなり違うということに子供が気づいているということです。上記記事では、お母さんは両者に対する言葉づかいが違っていることにも気がついていないようですから、更に、そのことに子供が気がついているということなど知る由もないでしょう。
   更に、他の人と自分とではお母さんの話し方が違うのに気が付いている子どもは、「お母さんは私には言葉づかいが乱暴」という先入観を持っているかもしれません。しかも、親が子供に対してよく使う「~しなさいという言葉は本来命令調です。親はその気持ちがなくても、「私には言葉づかいが乱暴」と思い込んでいる子供にとっては命令されているように聞こえるのかもしれません。

子供に穏やかな口調で話しかける」というのは「愛着7」の中の重要な愛情行為です。また、「自立4支援」には、「子供に注意する時は“諭す”言い方で言う」というサポートが含まれています。両者に対する自分の言葉づかいが違っていることに気がついていないお母さんは、認識を新たにして、家族に対する言葉づかいを変えるよう努力した方がいいでしょう。

   具体的に言うと、先の「~しなさい」という“命令調”の言い方は出来るだけ避けて、「〜しようね」等の“語りかけ調”の表現がいいと思います。
「早くご飯を食べなさい
早くご飯を食べようね
印象がだいぶ違いますよね。
   また、以前投稿した「愛着の話 No.65 〜③子どもに穏やかに声をかける〜」では、次のような言葉づかいも紹介しています。
「うるさい!」⇨「お母さんの話聞こうね
「はやくしなさい!」⇨「〇〇に遅れるからがんばろうね
「何回同じことを言わせるの!」⇨「さあ、次言われたらもう〇回目だよ。がんばろうね。
「もうあなたのことなんか知りません!(子供を見捨てる)」⇨「あなたはやればできる子よ。お母さんが見てるから頑張ってごらん。(子供を信じる)」
(「……しよう」「がんばろう」のように子供に“穏やかに語りかける”イメージ)

   お母さんの言い方が“語りかけ調”の言葉づかいになると、お母さんの“表情”も変わってきます。以前に【問題】このお母さんは何と言っている? 〜注意する時の親の表情は?〜」という記事を投稿しました。この中では、某食品会社のCMを題材に次のように述べています。
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「このお母さんは子供に何と言っているでしょうか?3択です。
A「美味しいね」
B「今日はお手伝いがんばったわね」
C「ほら、お箸の持ち方直そうね」
答えは「C」です。「A」と「B」は、子供の気持ちを“受け止める”場面。「C」だけが子供に“指導する”場面です。『指導するのに微笑むの?』と首をかしげる方もいらっしゃるかも知れませんが、私の経験上、一度目の注意の仕方は、このように“微笑んで諭す”言い方の方が、子供が素直に注意を受け入れる上で効果的だと確信しています。一度言って直そうとしない時は、“真剣な表情”に変えて『もう一度言うよ。お箸の持ち方直そうね。』と言えば殆どの場合直します。“怖い顔”をして叱るのは、それでも直そうとしない時で全く遅くありません。」

   本来、子供を“受容”すべき「母性」を持っているはずのお母さんに対して、子供が「いつも怒っている」と感じているのは、子供の発達上好ましくありません。なぜなら、困ったことが起きても、お母さんに相談できなくなってしまうからです。
   いじめを受けても親に相談せず自らの命を絶つ子供が多いのは、お母さんに対して子供が抱いている“印象”が影響しているのではないでしょうか?また、現在母親に対して子供が抱いている不満は、思春期に訪れる第二反抗期で“過度”の反抗となって親に跳ね返ってくることが殆どです。その時に親が対応を間違えると、子供のその後の人生を大きく変えてしまう事にもなりかねません。