愛着スタイルは、様々な対人関係に影響しますが、特に、子どもが親になった時に授かった我が子との関係において、てきめんに表れやすいそうです。「似た者親子」と言う言葉があるように、数多くの研究によっても、親の人格=「愛着スタイル」(「安定型愛着スタイル」「回避型愛着スタイル」「不安型愛着スタイル」「恐れ・回避型愛着スタイル」)が、子どもの性格=「愛着パターン」(「「安定型」愛着パターン及び「回避型」愛着パターン」「「不安型」愛着パターン及び「混乱型」愛着パターン」)に大きく影響することが裏付けられています。つまり、例えば、回避型愛着スタイルの親に対して、子ども回避型愛着パターンを示しやすいのです。このことは、実は予想以上に深刻な問題です。親は、何十年もかけて今の自分の人格=愛着スタイルを形成してきています。ある意味、自分に染みついた“心の癖”とも言える「愛着スタイル」を直すということは並大抵なことではないのです。しかし、その壁を超えない限り、わが子にも自分の愛着スタイルが移ってしまうのです。
   繰り返しになりますが、「育て直し」をするということは、それまで“心の癖”になっていた、子どもに対する親の接し方を変えるということです。例えば、子どもを叩いたり子どもに怒鳴りつけたりする事はもちろん、子どもに対する怒りを伴う表情トゲのある話し方も変えるという事です。どのような接し方に変えればいいか、ついては、本稿第三章(「愛着の形成の方法 〜根拠ある愛着形成方法の確立を目指して〜」)の中で紹介していますが、今まで自分の中に染みついてきた“子供への接し方”を直すということはとても難しい、ある意味“修行です。
   私が在職中に担当していた自閉症の子ども達は、とても不安意識が強く感覚過敏なため、ちょっとしたことでパニックになることもあり、指導がとても難しいです。それ以前担当していた通常学級でしていたような強い叱り方もできませんし、説明の仕方が通用しないときもありました。始めの頃は、それまでの私の「」を直すのが大変でした。しかし、私たちは教育のプロですから、「難しいから指導できない」「難しいから問題を子どものせいにする」というわけにはいきません。覚悟を決めて必死に自分の“癖”を直しました。
   お母さん方は教育のプロではありませんが、我が子のことについては子ども達の一生の指導者なわけですから、ある意味私たち以上の努力根気が求められるのかもしれません。しかし、根気をもって「愛着7」のような適切な愛情行為で支援し続ければ、必ず子ども達に響きます

   また、愛着不全を抱えた人が良くなっていく過程においては、その傷が深いほど、自分を支えてくれる人に甘えようとする一方で、反抗的になったり困らせたりするのが目立つようになる時期があります。わざと無視したり、怒りを示したりすることもあります。目の前の大人が本当に信頼できる人かどうか試したり自分のことをもっと見て欲しいと思っているのに、相手の関心が十分に自分に向けられていないことに腹を立てたりしているのです。
   しかし、その時期が回復の過程において、最も重要な場面だといえます。この時、支える側が腹を立てて拒否的になったり、否定的な反応を返したりしたのでは、元の木阿弥になってしまいます 。支える側が反抗することを許容し、受け止め、それに動揺せず、その子を呼び寄せて優しく抱きしめる等してあげて、その気持ちを認めてやることが大事です。そのことを通して、子どもは、「この人は自分の全てを受け止めてくれる人だ」という安心感信頼感が持てるのです。

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