【今回の記事】

【記事の概要】
   うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格。ベストセラー『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』の著者・杉山奈津子さんが、今や3歳児の母。日々子育てに奮闘する中で見えてきた“なっちゃん流教育論”をお届けします。
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   私が息子を育てていくうえで、これだけは絶対に言わない、と決めている言葉があります。それは、「勉強しなさい」です。「宿題をしなさい」「予習をしなさい」という勉強関連の言葉も同様です。「宿題は終わったの?」という確認もしないつもりです。
 親が「勉強しなさい」と言うと、子どもが「今やろうとしてたのに、そう言われてやる気をなくした」と言い返すシーンは、誰にでも心当たりがあるのではないでしょうか?親としては「ああいえばこう言うんだから」とご立腹でしょうが、実はこの子どもの反応は人間として正しいのです。
 心理学の分野に、「心理的リアクタンス」という用語があります。人間は、自分の行動を自分で決めたいという欲求をもっています。そのため、何か行動を強要されると頭の中で「嫌だ」というスイッチが押され、別の行動を取ろうとするのです。たとえ自分にとってプラスの提案でも(そもそも勉強だって、自分の学力を上げるためのプラスのものです)、「嫌だ」と押されるようにできているので、相当に頑強な作りのスイッチなんだと思います。
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 実際に、心理的リアクタンスが働いているケースに出くわしたことがあります。私は大学生で、アルバイトで家庭教師をしていました。そこで会った小学5年生の生徒は、まだ小さいのに、「人生に疲れた」と言っていたのです。詳しく話を聞けば、私とは別に、プロの家庭教師(なんと時給1万円!)にも教わっているというのです。そのうえで、進学校の中学受験に特化した有名な塾、プラスして数学のみを鍛える塾に通わされていました。余談ですが、テニスまで習わされていました。
 親からしてみれば、「完璧なエリートコースへの道を用意してあげたから頑張るのよ!」といったところでしょう。「将来は医者にしたい」と話していました。
でも、それに反して肝心の子どもにまったくやる気がないのです。小学生にして、勉強を含め全てに対してのモチベーションがかなり低い。そして、やる気のなさを具現化したように、これだけ勉強の態勢を整えても実力テストでとんでもなく低い点数をとってきました。
 子どもに対して、親があまりにもあからさまに「勉強頑張って」という態度をとってしまうと、もし勉強で悪い点をとったときに「期待裏切った自分は親から愛されなくなってしまう」と不安になってしまいます。もし頑張っても点数が伸びなければ、「親にとって自分は価値のない人間だ」と感じ、無気力になります。まさに、彼はその段階にいたのだと思います。親による過度な勉強推奨は、子どものやる気を奪い取るだけです。
 親に求められるのは、もし勉強ができなくても、「どこを間違えたの? 一緒に考えてみようか?」といった、悪い点数だろうが自分は見放さないという態度です。「勉強ができないイコール失敗」ではないのです。「勉強のやる気をなくすイコール失敗」なのです。やる気さえあれば、もし最初は点数が低くても、今後どんどん挑戦していくことができるのですから。継続して挑戦する力があれば、努力の蓄積により大きな結果を作り出せるのです。
 また、家で勉強しなさいと強制する「宿題」に関しては、デューク大学のクーパー氏によって、「意味ないどころか悪影響」というとんでもない研究結果が出されました。長年調査しても、宿題をやって勉強能力が向上した、頭がよくなったという科学的な証拠がまったく証明されないのです。特に小学校、中学校で、宿題を強要しようとすればするほど、顕著に勉強のモチベーションが下がるという……、まさに心理的リアクタンス。
 クーパー氏によると、宿題は「高校生になってからやっと、少し効果が出てくる程度」なのだそうです。ただ高校時代は大学受験があるので、単に宿題と受験勉強の範囲が重なって効果が出てきた、くらいではないかと思います。
はっきりいってしまえば、「勉強しなさい」「宿題をやりなさい」くらい不毛な言葉はないのです。も説得が面倒くさくて骨が折れる子どもも不快なうえにモチベーションが下がる
 子どもの頃は、「勉強しろ」なんて言わなくても、勝手に好奇心でいろんなものを学ぼうとします。うちの息子も、絵本を見ながら「これなんて読むの?」と何度も何度も尋ねてきます。「グレープジュース」と書いてある文字を指さして「これはね、ブドウジュースって読むんだよ」と嬉しそうに教えてくれます。「完全にブドウの絵を見て言っているな……」と心では思いつつ、間違いを正すより、とにかく字を覚えようとする気があることを褒めまくっています。勉強は「勉を強いる」ものではなく、「勉を強めるもの」と捉えましょう。

【感想】
   バイトの家庭教師、プロの家庭教師、進学校の中学受験に特化した有名な塾、数学のみを鍛える塾、そしてテニスまで習わされている子供。正に過干渉の極みですね。また、「小学校、中学校で、宿題を強要しようとすればするほど、顕著に勉強のモチベーションが下がる」と言うデューク大学のクーパー氏による指摘。改めて自立4支援」のサポートの大切さを感じました。
   
   では、どうすれば良いのでしょうか?
「急がば回れ」という諺がありますが、親が「急ごう」と思ってあれこれ口を挟んでも結局子供はやる気を出しません。私の経験上、回り道のように感じるかもしれませんが、“やらないことを叱らず、やったときだけ褒める”というサポートの方が確実に効果が現れると感じています。
   やらなかった時でも、特に親が注意しなくても、子供は不利益を被ります。それは、翌日の学校での宿題調べで自分だけ目立ってしまったり、未提出が続けば先生に叱られたりする事です。以前からお話ししてきましたが、人間は実際に不利益を被らなければ、本気で自分の行動を改めようとはしません。子供にとっては、先生に注意されたり、友達に「今日もやってこないのか?」等と馬鹿にされたりすることの方が、親から注意されるよりもたまらなく嫌なのです。
   そういう絶対に避けたい不利益を被った時の“やる気は、家の人から何度も注意されてシブシブやった時の何倍も強いものがあります。シブシブやって宿題を提出すると、先のような嫌な不利益を被る事はありませんから、提出できたとしても“シブシブ”の態度は変わる事はありません。
   側も、子供が学校で被って来る不利益に任せていた方が、毎日注意する煩わしさ無駄なストレスを溜める事も無くなります。
   
   それでも、例えばゲームに夢中になって、その日に先生から注意されたことを忘れている等、どうしても気になる時は、「明日また先生から注意されないといいね」などの様な「諭す(先の「自立4支援」の一つ)」言い方で不利益を思い出させると「あっ、そうだった!」と自ら行動に移すことでしょう。