(前回の続きです)
今回は、私が実践して効果があった子供達に差別意識を生まない発達障害指導の在り方を紹介します。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
“感覚過敏”とは、外部から受ける刺激に対する感じ方の度が過ぎる特質のことです。千葉大学の若林先生の考案した自閉症スペクトラム指数を図る50問の質問紙によれば、33点以上だと障害域と考えられますが、健常者でも0点の人はいません。つまり“鈍感”と言われる人であっても感じ方が“鈍い”だけであって「0」ではないのです。ですから、全ての人に共通していることは、「“感じる感覚”を持っている」ということです。これが“指導観”の第一歩です。
次に大切な事は、「音を感じる」「寒さを感じる」「高さを感じる」等、「感じ方」には様々な種類があるという事です。加えて、「大きな音に感じやすい(大きな音や声が怖い)」「寒さに感じやすい(寒がり)」「高さに感じやすい(高所恐怖症)」と言うように、何に“感じやすい”かは人によって異なります。つまり、感じやすさのタイプは違っても、誰でも“何かしらの怖い感覚”を持っているのです。これが“指導観”の第二歩目です。
更にここで大切なことは、「大きな音や声が怖い」「寒がり」「高い所が怖い」等の感覚は、子供でも理解できるということです。「感覚過敏」「自閉症スペクトラム」等と言う専門用語を使って説明すると、「よく分からないけど自分達とは違う友達」という差別的な認識しか出来ませんが、それらの子供のわかる言葉や感覚を使って説明をすると、「自分達にもある感じ方を◯◯君も持っているんだ」という仲間意識が生まれるのです。これが“指導観”の第三歩目です。
では、以上のことを踏まえた上で、私が実践した指導方法をご紹介します。
①各自の“感覚過敏”を考える
「お化けがこわい」「寒いのは苦手」「高い所がこわい」等、各自の「◯◯がこわい」「◯◯が苦手」を考えさせ、全員分黒板に板書する。複数選択大歓迎!
②ASD児の“感覚過敏”を教える
「みんなと同じように、A君(ASD)にも怖いものがあります。それは『大きい声や音』(その子の実態に応じて提示、複数可)だそうです。」
③ASD児の“感じやすさ”の度合いを知らせる
「A君の場合は、“こわい気持ち”がみんなの何倍も強いのです。どれだけ強いかというと、例えば、高い所が苦手な人が、東京スカイツリーのてっぺんに立たせられるようなもの(子供達「えー?!」「かわいそう…」)」
「どんな気持ちになると思う?(子供達「気持ちがおかしくなる」「気がくるう」)」
④ASD児の行動の訳を知らせる
「そうです。A君が時々みんなに迷惑をかける行動をするのは、とてもこわい大きい声や音に出逢った時に、気持ちがおかしくなってしまうから」
⑤ASD児についてのお願いを伝える
「そんな『大きい声や音』が怖いA君の為にみんなにお願いがあります。」
「A君に話しかける時は優しく丁寧な話しかけ方をしてあげてほしいのです。
「A君が間違った行動をしている時も、『どうすれば良いのか』を優しく丁寧に教えてあげてください。」
⑥ASD児だけが特別ではない事を教える
「(黒板を振り返って)でも苦手だったり怖かったりすることがあるのはA君だけはありません。みんなでお互いの苦手な事に気を配ってあげながら生活しましょう。」
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さて、この指導の中で子供達に伝えるべきは、発達障害の子供の障害特性(②や③)だけではありません。④、⑤、⑥の指導が大切になります。
④ASD児の行動の訳を知らせる
それまで子供達は、「どうしてA君は、あんなことをするんだろう😓」と思っています。そこで、子供達に分かる表現(上記では“スカイツリー”の例)で、「気持ちが狂いそうなパニック状態に陥ってしまう為に、正しい行動が出来なくなっている」ということを教えてやると子供達は納得するのです。
⑤ASD児についてのお願いを伝える
障害特性だけを教えても、具体的な接し方まで教えなければ、所詮は“絵に描いた餅”です。指導が現実の生活の中で生かされる事はありません。A君が『大きい声や音が怖い』という特性を持っているなら、どのように接してあげるのが良いかまで教えて初めて、子供達の交流が好ましいものになるのです。
⑥ASD児だけが特別では無い事を教える
これが、発達障害児に対する特別意識を生まない為に最も大切な指導になります。A君だけがみんなから特別な配慮を受けるべき“社会的弱者”ではなく、他のみんなも同様に、大なり小なり“苦手さ”や“怖さ”を持っており、友達として気遣ってあげることが大切だ、という事を教える事で、A君との仲間意識が生まれ、ユニバーサルデザインによる生活環境を作ることができるのです。