【今回の記事】

【記事の概要】
「はやく、はやく」と追い立てていませんか?

はやくしなさい。いつまで食べてるの? 学校に遅れるよ!」「はやく着替えなきゃダメでしょ! またお友達を待たせちゃうでしょ」「もっとはやく勉強を始めなきゃダメでしょ」「はやくお風呂に入りなさい。また寝るのが遅くなるよ」――。このように朝から晩まで「はやく、はやく」と子どもを追い立てていませんか? 子どもはなかなか時間どおりに動いてくれないものですね。でも実は、叱らずとも子どもが時間を守って動けるようになる簡単なやり方があります。それが「模擬時計」です。

   幼稚園年長のA君を育てているBさん。A君は何をやるにも時間のかかるマイペースな子で、特に時間がかかるのが朝食です。放っておくといつまでものんびり食べています。幼稚園バスに間に合わないので、Bさんは毎日「はやくしなきゃダメでしょ」としかっていました。そんなある日、私の本(上記記事サイト参照)を読んで模擬時計という方法を知ったそうです。

   100円均一で卓上アナログ時計を買ってきて、その時計の横に画用紙に描いた時計の絵、つまり「模擬時計」を貼りました。その模擬時計の長い針と短い針は食べ終わる時刻を指しています特に大事なのは長い針です。そして、A君に「本物の時計の長い針が、時計の絵の長い針のところにくるまでに食べ終わるんだよ」と言いました。そして、その2つの時計をセットでA君の目の前に置きました。目の前にありますから、A君は朝食を食べながら自然にその2つを見比べることができます。本物の針がどんどん動いて、食べ終わるまでの残り時間が減っていくのが目の前でわかります。残り時間が減っていくスピードがわかるのです。すると、どれくらい急げばいいかということが実感としてわかるのです。「まだ時間がある」とわかればゆっくり食べます。「あと少ししかない」とわかれば急いで食べます。なんと、この模擬時計のおかげでちゃんと時間どおりに食べ終われるようになりました

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   この模擬時計は応用範囲が広くて、いろいろな場面で使えます。Cさんの家ではリビングの壁の大きなアナログ時計の回りに同じ大きさの模擬時計を4つ貼ってあります。1つは朝の着替えが終わる時刻を表していて、「着替え完了」というタイトルも書いてあります。登校のために家を出る時刻を表す模擬時計には「出発」と書いてあります。学校から帰って宿題を始める時刻の午後5時30分を指す模擬時計には「宿題」と書いてあります。入浴の時刻を指す模擬時計には「お風呂」と書いてあります。

   また、帰宅後の宿題についても効果があったそうです。本物の時計の針が5時20分、5時25分、と進んでくると、子どもも「もうすぐ宿題やる時間かあ。イヤだなあ」「あと5分だあ」などと言いながらも、何となく心の準備ができるらしいとのことです。そして、5時30分になると諦めがついて、「しょうがない、やるか」という感じで取り掛かるそうです。このように「見える化」されていると、完全に無視することができないのだと思います。「見える化」されていないと、時間がどんなに過ぎても気にならないのですが……。

【感想】
   この視覚効果を生かした「見える化」は、本来、視覚が得意な自閉症スペクトラム障害(ASD)の子供に対して考えられた「環境の構造化(ASDの子供にとって理解しやすいように周囲の環境条件を整えてあげる事)」と言われるサポート方法の一つです。しかし以前からお話ししている通り、健常者も大なり小なり自閉症スペクトラムの傾向を持っているので、健常の子供にもこの「見える化」が効果を発揮するのです。まさに自閉症指導は、ユニバーサルデザイン(障害の有無に関係なく、全ての人が使いやすいようにデザインすること)の考え方に基づくサポートです。

   さて、この模擬時計による時間の「見える化」にはどんな効果があるのでしょう。もちろん、記事中にもある通り、「◯◯まで、あとどの位の時間があるか?」という事が子供にとってわかりやすくなるという効果はその通りです。何と言っても、本物の時計と模擬時計の長短の針の形を比べさえすればいいのですから、時計が読めない子供でも取り組む事ができるのです。
   その他には、なんといっても、親が「早くしなさい!」と注意を繰り返さなくても子供が行動できるようになるという点です。親(特に母親)が毎日のように子供に「早くしなさい!」と注意をしていると、親子の愛着形成に不可欠な親の「安全基地」としての機能が失われ、逆に「今度はいつ怒られるだろう」という警戒心を生む「危険基地」になってしまう恐れがあります。精神科医の岡田氏によれば、この事が、将来不安定な人格(愛着スタイル)を子供に身に付けさせてしまい、当人の人間関係能力、自立心、身体的健康にまで悪影響を及ぼし、その事が元で、離婚や家庭の崩壊虐待やネグレクト結婚や出産に対する抵抗感ニートや引きこもりなど社会へ出ることへの拒否、非行や犯罪等をはじめとする様々な問題を引き起こす危険さえあるとされています。
   しかし、この実践をすると、親の「安全基地」としての機能が維持されるだけでなく、親から言われなくても自分でできた」という子供のがんばりを生み、それを親が褒めることによって、子供の自己肯定感が高まるとともに、更に強固な愛着が形成され、子供の一生に好影響を及ぼすという好循環が作り出されるのです。
   なお、これだけ環境が整えられているので、高い確率で子供は実行に移すことができます。そのため、もし稀に守れない時があっても叱る必要はありませんできた時に褒めてあげれば必ず生活習慣は定着します。あまり無いとは思いますが、「親がせっかく準備した実践だから」という思いから、できた時には「できて当然」とばかりにあまり褒めず、できなかった時だけ厳しく叱るような接し方をしていると、子供はこの模擬時計への取り組み自体嫌うようになるので注意が必要です。
   ぜひ、試してみてください。