【今回の記事】

【記事の概要】
読書感想文に自由研究──そんな毎年悩まされる“夏休みの宿題”の数々をターゲットに、新たなビジネスが誕生。なんと宿題を代行してくれるというのだ。毎夏200件超の依頼がくるなど、大盛況ぶりをみせている“宿題代行サービス”の実態に迫ってみた。

自由研究の工作代行は今年3万円に値上げしました。1日がかりで大変なんですよ」
 そう明かすのは『宿題代行屋Q』代表の板津知直さん。7人体制で毎夏、200件以上をこなす。6月から依頼が入り始め、7月下旬には手いっぱいで受け付け終了。読書感想文の依頼が最多で、自由研究は全体の3割ほど。観察や研究レポートなら5~6枚で1万5000円。学校で1学期に習った内容を尋ね、先生受けがよさそうな、発展学習につながるものを提案する。
 納品後は子ども本人が書き直すことが条件だ。
「小学3年生から中学3年生くらいの母親からの依頼が9割です。“時間の無駄”“宿題の量が多すぎる”など、高学歴でお受験志向の母親からの相談が圧倒的に多いですね」
 前職が塾講師だった板津さんは、こんな疑問を抱いていた。「朝9時から夜22時まで塾に通い、その後で学校の宿題。私立の場合、毎日やっても間に合わない量で、無駄な宿題が多すぎる。本当に全部やらせる必要があるんでしょうか」

宿題代行MK』の持丸恵太さんによれば、「最後は子どもに書き直してもらうのがベストですが、手書きの50音を送ってもらい、その字をまねて仕上げるときもあり、さすがに多少の後ろめたさはありますね」

【感想】
   以前投稿した記事の中で、今年の夏の甲子園に出場した下関国際(山口)の野球部監督が、「野球と勉学の両立は無理」「『一流』というのは『一つの流れ』。例えば野球ひとつに集中してやるということ」と述べていた事を紹介しました。この「勝利至上主義」を掲げる監督さんの考えは、邪魔な学業を排除して野球一筋に取り組もうと言うものでした。
   これに対して、今回の記事で取り上げた宿題代行サービスに依頼をした高学歴でお受験志向の母親達は、邪魔な学校の宿題を排除して受験勉強一筋に取り組もうと言うものです。つまり野球と勉強と言う相対するもののように見えますが、受験志向の親達も「勝利(合格)至上主義」であることには変わりありません。
   また、「宿題の量が多く時間が足りない」と嘆いている親御さんがいるという事ですが、記事中の前職が塾講師だったという板津さんが言うように、子供が朝9時から夜22時まで塾に通うという生活をしていれば、学校の宿題をする時間が無くなるのは当然のことだと思います。これも「勝利(合格)至上主義」の考えが生み出す結果でしょう。

   親は自由研究を最も邪魔だと考えているようですが、これは、「子供が自分自身の興味・関心に基づいて考え判断し結果を追い求め続ける」という自由研究の意義を正しく認識していないことの表れです。今の企業が採用する学生に対して求めている力、決して偏差値の高い大学の学生の「知識」ではなく、「自主性」「コミュニケーション力」「ねばり強さ」であるという、まさに自由研究の意義と一致するという現実を考えれば、自由研究を排除してしまうことがいかに本末転倒ということが分かるかと思います。
   最も依頼件数が多いと言われる読書感想文にしても同じです。本を読み豊かな心を養うための課題を邪魔だと認識している親は、おそらく読書感想文に限らず、子供に家の手伝いなどもさせず、受験のための知識を身に付けさせることだけに躍起になっているのではないでしょうか?
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   最も気になるのは、親が代金を支払って学校や担任に対して嘘をつく行為を行なったことについて、子供たちはどのように受け止めるのかどのような気持ちで新学期を迎えるのか、という事です。記事中の代行業者によれば、「最後は子どもに書き直してもらうのがベストですが、手書きの50音を送ってもらい、その(子供の字をまねて仕上げるときもある」とのこと。親は、自らの判断によって代金を支払うだけで学校には行きませんが、子供は学校に行きます。そして、「不正」という負い目を背負いながら「先生にばれるのではないか?」「いつ呼び出されるだろう?」という不安な気持ちの中で学校生活を過ごさなければならなくなるでしょう。そんな子供の気持ちを考えず、親自身が邪魔だと判断した学校からの課題を排除する行為は、まさに精神科医の岡田氏の危惧する「親による子供の支配」と言わざるを得ないでしょう。

   代行業者でさえ感じると言う「後ろめたさ」を子供にも抱かせてはなりません。本当は子供も、正々堂々とした気持ちで新学期を迎えたいはずなのです。