【今回の記事】
【記事の概要】
①6月、世界卓球選手権男子シングルスで、13歳(当時)の張本智和選手ベスト8に入り、世界を驚かせた。若くして頭角を現すジュニア世代の選手はどのように育ってきたのか。ともに元プロ選手という両親(元世界選手権中国代表だった母・凌と、中国の国体男子ダブルスで3位になったことのある父・宇)に話を聞いた。
   両親ともに元プロ選手という卓球一家なら、どんなスパルタ?英才教育?と想像してしまう。そう話すと、宇は右手と首を横に振って笑い飛ばした。妻なんて、いまだにトモ(智和)は卓球で生きていかなくてもいいと思ってますよそれはいったいどういうことなのか。

   小学生時代は、テストの点数はほぼ100点。凌と宇は、海外遠征も夏休みなどに絞り、学校を休ませなかった文武両道を貫かせる母の姿勢は、連日の快進撃で日本に張本フィーバーを巻き起こした世界選手権期間中でも変わらなかった。ドイツから「勝ったよ」と張本が電話で報告すると、凌はこう返した。良かったね。ところで、今日は勉強しましたか?帯同していた宇は「ドイツに来てまで?って呆れた」と思い出し笑いする。 
   凌も宇も、わが子の卓球に熱中するあまりプレッシャーをかけてしまう親の姿や、スパルタ指導でつぶれる子どもたちを、中国でも日本でもたくさん見てきた。私は小学生から卓球の学校に通ったけれど、何十分も歩いて自分で通っていた。でも、日本はそんなに遠くなくても車で親が送り迎えする。自分の子がかわいいのはわかりますが、過度に世話を焼かれる子どもにはそれが重圧になる」(宇)凌は張本の卓球の戦果にほとんど一喜一憂しない。卓球を教えたのは小学校低学年くらいまで。そのあとは夫に託し、自分は早々と手を離した
   ナショナルチーム男子監督の倉嶋洋介は、張本家の「子育て力」をこう分析した。智和の武器は学ぶ姿勢頭の良さだと思う。両親のおかげで学習習慣ができているため、卓球でも未知のことを学ぼうとする意欲が高い
   3年後、張本は高校2年生で東京五輪を迎える。日本中が熱狂するなか、母はいつも通り息子に言うだろう。
「今日は勉強しましたか?」

(夏の甲子園開催前の記事)13日に登場する下関国際(山口)は、創部52年で春夏通じて初の甲子園。坂原監督の野球論とは――。
「(自主性をうたう進学校について)そういう学校には、絶対負けたくない。僕ね、『文武両道って言葉が大嫌いなんですよね。あり得ない」
「(野球と勉学の両立について)無理です。『一流』というのは『一つの流れ』。例えば野球ひとつに集中してやるということ。文武両道って響きはいいですけど、絶対逃げてますからね。」
自主性というのは指導者の逃げ。『やらされている選手がかわいそう』とか言われますけど、意味が分からない。(初戦で対戦する県立高の)三本松さんの選手、甲子園(球場)でカキ氷食ってましたようちは許さんぞと(笑い)。炭酸もダメ。飲んでいいのは水、牛乳、果汁100%ジュース、スポーツドリンクだけ。買い食いもダメ。携帯は入部するときに解約。」

「初めて中村(今年の夏の甲子園大会でホームラン6本という新記録を立てた選手)を見たのは中学2年の頃でした。プレーはすごかったが、『野球だけうまかったらええんや』という感じでしたね。周囲への態度にそれが表れとった。髪形も学校で注意されそうな感じでね。スター選手がいるチームではよくあるんです。指導者も注意できないヘソを曲げて、いなくなられたら勝てないですから」中井監督がこう振り返る。
   入学直後こそ「洗濯機の使い方もわからなかった」が、寮生活の中で掃除、洗濯、食後の片付けなど、親に頼りきりだった事を行うようになると、次第に自分のことだけでなく周囲にも目が行くようになった。今、中村はベンチ入りできなかった選手たちへ感謝を口にしている。

【感想】
   卓球ナショナルチーム男子監督の倉嶋氏は、記事の中で次のように述べています。
智和の武器は学ぶ姿勢頭の良さ
両親のおかげで学習習慣ができているため、卓球でも未知のことを学ぼうとする意欲が高い
   たとえスポーツの世界でも、考えられない選手は伸びないとよく聞きます。その発端は「知的好奇心」のなだと思います。それを張本君は学業で身に付けたのでしょう。つまり、分からないところをそのままにしておかないからこそ、テストで「ほぼ100点」はとることが出来たのだと思いますし、毎日取り組む学習によってその思考の習慣が身に付き、ナショナルチーム男子監督が学ぶ姿勢頭の良さ」と特筆する彼の武器が生まれたのではないでしょうか。

   それとは逆に、文武両道を「指導者の逃げ」と毛嫌いし、「野球だけに徹するのが一流」と主張する下関国際高校の監督。選手を徹底的に管理する手法は、先の、卓球の張本君に小学校低学年くらいまでしか卓球を教えず、その後は夫に託し、自分は早々と指導から手を引いた張本君の母親のそれとは対照的です。下関国際高校の選手達はかき氷など以ての外」という監督からのトップダウンで行動させられていますが、本来なら自分たちの目標のために、「飲み物は何がいいのか?」「携帯電話は必要か?」等を自分自達で考え判断して活動するからこそ、“競技中の思考力”(卓球ナショナルチーム男子監督の倉嶋氏が重視する「学ぶ姿勢と頭の良さ」と同義)も身に着くのだと思います。
   因みに、張本君と母親との距離感は、あの将棋の天才藤井聡太四段と両親の距離感と共通するものがあるように思います。それは、側から「見守る」という距離感です。

   更に、勝つこと自体が目的になると、技術の高い選手が優先されることになります。そうすると、子供達は無意識のうちに自分の“心の成長”よりも“技術の向上”に躍起になるでしょう。今年の甲子園で6本のホームラン記録を打ち立て日本中を沸かせた広島広陵の中村選手でさえ、その監督をして「(中学2年の頃は)プレーはすごかったが、『野球だけうまかったらええんや』という感じでしたね。周囲への態度にそれが表れとった。指導者も注意できないヘソを曲げて、いなくなられたら勝てないですから」と振り返っています。記事中の下関国際の監督の発言にも、他校を尊重”しようとする意識が不足しているように感じます。監督自身が日々“技術”を優先して考えるうちに、その言動が自ずと“礼”を失したものになってしまうのでしょうか?残念なことです。
   
   結果的に、私立の下関国際高校は県立の三本松高校に9対4で破れています。三本松高校はその後東東京代表の強豪である、やはり私立の二松学舎大附属高校にも勝利し、結果的にベスト8にまで勝ち進みました。
   かたや、母親の徹底した文武両道主義によって育てられた卓球の張本君は、世界卓球選手権男子シングルスで、13歳にしてベスト8に入る活躍を見せています。
   広陵の中村選手も、中学時代は自分の技術の高さを鼻にかけていたようですが、高校に入り、それまで全て親に頼りっきりだった身の回りのことを自分でやるようになってからは、次第に自分のことだけでなく周囲にも目が行くようになり、今やベンチ入りできなかった選手たちへ感謝を口にするようになったと言います。彼の今年の甲子園での活躍の裏には、こうした“心の成長”があったのでしょう。

「勝利至上主義」と「文武両道」。最終的には、自分のことは自分で行い、同時に自分自身で考え判断することを学んだ子供の方が成果を収めることができるのかもしれません。まさに「急がば回れ」と言ったところでしょうか。

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