【今回の記事】

【記事の概要】
   精神疾患の認識がない人を説得して医療機関に移送し、自立支援を行っている押川剛さん(48)。これまで移送してきた1000人以上の事例の中から、両親を“奴隷”のように扱い、自宅にたてこもった男性のケースを聞いた。【毎日新聞経済プレミア】
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学歴信仰と親のプレッシャー
父親は皮膚科の開業医で、母親もクリニックで事務として働いていました。長男(当時25歳)は高校を中退後、高校卒業程度認定試験に合格したものの、大学受験に失敗。受験勉強をしなくなってからも「俺は浪人生だ」と言い張って自宅にひきこもるようになりました。その後、両親を包丁で脅して自宅から追い出し、母親には暴力もふるっていました。両親は賃貸マンションで暮らし、長男は父親名義のカードを奪って、それでも金が足りないとたびたび無心していました
両親にも問題がありました。高学歴の父親はクリニックを継いでほしいと期待し、有名大学への進学を暗に長男に求めていたようでした。長男は『三流大学に行っても意味がない』と難関私大の医学部を目指し、そして失敗しました。また母親には「自宅を取り戻したい」という思いが強い割に、長男を救いたいという親心が感じられませんでした
結局、問題の原因は何だったのか。
子供が親を奴隷のように扱う家庭に共通するのは、親自身が子供を支配するような子育てをしてきたことです。虐待や暴力などの目に見えやすいことばかりでなく、このケースのように、学歴信仰や肩書、見栄えのいい生き方など、親の価値観を子供に無理に押しつけることも同様です。特に、両親が不仲だったり、父親が子育てに無関心だったりして、幼少期に母子が密着しやすい家庭で起こりがちです。」

【感想】
父親が子育てに無関心」だったために幼少期に母子が密着」することになり、息子はそれ以後母親と共に過ごす時間が多くなった。そのために息子は母親による過干渉的支配的養育の悪影響をまともに受けることとなってしまった。
   いわゆる「母子分離」という発達課題についての問題である。このことについては、「愛着の話No.8〜二、三歳で高まる母子分離不安〜」の中で詳しく述べている。それまでは母親に受容されていた子供を母親から離す役割を持つ「父性」の働きが、父親が子育てに無関心だったために機能せず、その結果「母子分離」が成し遂げられなかった。この様に、子供がお母さんから離れられないでいる状態を「母子融合」と言い、これ以後母親による子供の支配が始まってしまうのだ。
   また、「高学歴の父親はクリニックを継いでほしいと期待し、有名大学への進学を暗に長男に求めていた」。その価値観の押し付けが息子にとっての精神的な負担となった。高校を中退していながらも、難関の医大を受験しなくてはならない状況に追い込まれた。しかし、当然受験には失敗。それまでのストレスを抱えきれなくなった時に息子の反撃が始まった。

   しかし、これら「父親が仕事で忙しく、育児や子育てに関われない」「親の後継ぎや就職種を子供に期待する」ということは、どの家庭でも起こりうることではないだろうか?少なくとも、精神科医の岡田氏は「母子融合」後の母親による支配的養育はどの家庭でも起こりうる事態だと憂慮している。
   父親には、母親には無い「父性」という働きがある。その働きが失われると「母子融合」に陥り、いずれ母親による“支配”に耐えられなくなった子供の反抗が始まり、この一家のような取り返しのつかない事態に追い込まれる事にもなりかねないのだ。父親の存在とはそれ程大きいものなのである。

   以前私は以下の記事を投稿している。やはり息子の母親に対する反抗事例である。
この記事では、およそ以下のような内容を述べている。
「(散らかった自分の部屋に断りなく入って掃除した母親に対して怒り、壁に穴を開けてしまった中3息子の)『お母さんが悪いんだよ』というような理不尽な言い分のいいなりになり、「正義」を崩してしまうと、その後は子供の天下になり、遅かれ早かれ『学校に行きたくない』というわがままに走り出します。ここが大きな分かれ道なのです。
   なおこの記事では、親が子供の理不尽な言い分のいいなりにならないようにする為の心構えについての専門家のアドバイスも紹介している。参照頂ければ幸いである。

   しかし、世の中には「母子分離」の時期より前に離婚する夫婦もあると思う。その場合は「父性」の働きは得られない。しかし、そんな場合でも母親による過干渉的、支配的養育に陥らないようにする為の心構えとして「自立3支援」(国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ石川尚子監修)による養育をお勧めする。この支援を意識しながら子育てをしていけば、子供は親に対するストレスをさほど感じる事なく自立への道を進んでいけるに違いない。

   しかし、反抗期は基本的にどの子供にも現れるものである。その際には子供にどの様に接すればいいのかを以下の記事で紹介している。合わせて参照頂ければと思う。