ナオミを初めて目にしたのはいつごろのことだったのだろう。
私が医療メーカーに勤めて3年目のころであったのは
間違いないのだが、目をとじて深く記憶を遡っても思い出すことが
できない。
いわゆる一目惚れという類のものではなかったのだろう。
しかし、私はナオミを愛していたはずだ。
一気に燃え上がる炎のようにではなく、
まるで太陽が地平線から顔を出し、辺りをゆっくりと
その光で照らし出すように
ゆっくりと しずかに そして確実に心惹かれていったのだった。
最後には太陽が沈み暗闇が訪れる事も知らずに・・・・。
*
3年目の夏、神戸の三宮にあった営業所の閉鎖により、ナオミは
大阪の長堀にある私の通う営業所へ異動となった。
それまでも1年後輩であるナオミとは同じプロジェクトで仕事を
する事や仕事帰りに若手有志で飲みに行くことなどがあり
気心の知れたものだった。
「吉見さん、今日からよろしくお願いします」
休憩室でタバコを吸っていた私に
ナオミは少し緊張した顔で話しかけてきた。
昨年、入社したばかりで仕事にも、人間関係にも慣れ
さぁこれからという時期に初めての転勤ともなれば無理も無い。
「こちらこそ宜しく」
「でも知ってる顔も多いやろし神戸から大阪の近場の転勤で
よかったなあ。同期の子もいるし」
閉鎖された神戸の営業所から他県へ転勤していった者も
多数おり、何も知らない土地へ行く事を比べたら
今回の彼女の異動はちょっとしたクラス替えの様なものだ。
「そうなんですけど、こっちは年配の方も多いんでやっぱり
緊張しますよお」
「しかも、こっちの所長は数字に厳しいっていうし」
やや困った顔で鼻にしわを寄せながら彼女は笑って答えた。
確かに この営業所には神戸の営業所にはなかったはずの
【目指せ!GOAL TO 900億】と書かれた今期末までの
目標が営業所長の背後に高々と張り出されていたのだった。
それを思い出し私も苦笑せざるを得なかった。