------------
↓『鋼のメンタル』百田尚樹著、新潮新書、2016)より引用(10)
↓『鋼のメンタル』百田尚樹著、新潮新書、2016)より引用(10)
少し前になりますが、あるテレビ番組の企画会議中、それまであまり会議で発言しなかった三十代初めのディレクターが、突然よく意見を言うようになりました。
また以前にはそんなことはなかったのに、企画案も積極的に出すようにもなりました。
私は彼が所属する制作会社の上司に、彼に何があったのだと訊きました。
すると上司は嬉しそうに言いました。
「前とは全然違うやろ」
「うん。お前が何か言うたんか」
「何も言うてへん。あいつはこの前、自己啓発セミナーに行ったらしくて、それですごく感銘を受けたらしい」
「そのセミナー受けて変わったんか」
その上司は頷きました。
「次の日、本人が、自分は生まれ変わりましたって言うたから、最初は本気にせえへんかったんやけど、ほんまに仕事態度がまるっきり変わったんで、びんくりしてるんや。あいつはええディレクターになるわ」
上司は上機嫌で、これから他の若いディレクターたちもどんどん自己啓発セミナーに送り込むと意気込んでいました。
私はしばらく注意してそのディレクターを見ていました。
たしかに仕事に対する態度が前とは変わっていました。
驚いたのは以前は猫背だったのが、背筋がぴんと伸びていることでした。
私は「へー、人間って気持ちが変わると姿勢まで変わるんや」と感心しました。
ところが二週間も経たないうちに、彼の会議での積極的な態度は急速にしぼんでいきました。
同時に、伸びていた背筋もだんだん丸くなっていきました。
そして翌月にはもうすべてが完全に元通りになっていました。
私は、やっぱりな、と思いました。
なぜなら人間というものは簡単には変わらないと思っていたからです。
極端な言い方をすれば、「一日で変わったものは一日で元通りになる」のです。
もっとも彼の場合は元に戻るのに二週間かかりましたが、実質はあまり変わらないでしょう。
↑(引用ここまで)
-----------
私が大学で心理学の授業を受講したとき、初回の授業で先生が「”性格”とは”行動パターン”のことだ」と言っていたのを今でも覚えています。
人の「性格」というと、どこかアナログというか、「心」や「気持ち」などの曖昧なものといったイメージを持っていたのですが、人間は「こういうときには、こう行動する。こういう場面に出くわしたら、こう行動する」という「行動パターン」をそれぞれ持っていて、多少軌道修正しながら、そのプログラムを書き換えていく、という内容でした。
確かに、自分自身の「行動パターン」を思い起こしてみれば、朝起きてから出かけるまでのルーチンワークだったり、他人と会話しているときに「相手がこう言って来たら、だいたいこんなリアクションをする」「自分の中での定型文」のようなものがあったり、けっこうパターン化されていることに気づかされ、妙に納得したことを覚えています。
そう考えると、百田氏が『一日で変わったものは一日で元通りになる』と断言するのも頷けます。
人にはそれぞれ、それまでの人生で積み上げてきた「行動パターン」が脳内にプログラミングされており、たとえば、あまり人前で話をしてこなかった人には「人前で堂々と話す」「おもしろおかしくしゃべる」プログラムが定着していないはずです。
それが、本を一冊読んだり、それこそ「自己啓発セミナー」に一日通ったりしただけで、数十年来プログラミングしつづけたその人の「行動パターン」が急に変わるなんてことは、まずあり得ないでしょう。
そういう意味で私は、百田氏同様「人は簡単には変わらない」と豪語することにしているのです。
それはもちろん私自身にも言えることで、私が経験してきていない、訓練してきていないことは「行動パターン」にはなっていないでしょうし、どちらかというと「苦手なこと」に分類されていることも多くあるはずです。
しかし、手前味噌ではありますが、「周囲の人に対して声かけ・気配りをして歩く」ことだったり、「聞く人に配慮した話し方をする、できる限りおもしろおかしくしゃべる」ことだったり、拙いながらもこうして「文章を書く」「一度決めたことを長く続ける」ことだったり、そういうことに関しては、日常的に訓練していることですから、私の「行動パターン」として、かなり定着していると思うのです。
それは、同年代の友人なんかに久しぶりに会うと、強く実感します。
そいつがどんな「行動パターン」を構築して生きてきたのか。
「相手への気配り」や「しゃべり方」をどのくらい訓練して生きてきたのか。
「こいつ、なかなかの訓練をしてきたな、やりよるな」と感心させられることもありますが、「こいつ、数十年間何して生きてきたんや、ヌルいなあ」と思わされることも多いです。
…もちろん私自身も評価の対象でしょうから、「自分のパフォーマンスが、同年代と比べてどうか」という緊張感はありますが(笑)。
あなたの「行動パターン」はどうですか?
久しぶりに同級生なんかに会ったとき、「いいパフォーマンスをしていた奴」の話を、是非お聞かせください!