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↓『ぼくの生きかた』(島田紳助著、KTC中央出版、2001)より引用(02)
一昨年の七月に、次女はアメリカ行きを決めた。
映画のCGをやりたい、という夢をずっともっていて、それにはアメリカで勉強するのがいちばん早い、ということがわかったからだ。
「アメリカへ行って勉強したいんです」
そう言われたとき、ぼくは思わず言った。
「アメリカへ行って勉強したい? ふん、詭弁を言うな。そんなもん、誰が聞いたって、おまえが正義やないか。勉強するなと親は言いにくいやろう。もっと気持ちよう言え。二千万円くださいって。言いにくいやろう? はよ言え。二千万円くださいって言え。おまえ、二千万やで。二千万!…」
「二千万、ください」
「もっと大きい声で言え!」
「ごめんなさい。二千万円、ください!」
最初から、お金は出すつもりだった。でも、覚悟を決めさせてやろうと思ったのだ。
次女は英語が苦手だったので、まずTOEFLのスコアを取ることが先決、ということになった。
彼女はほんとうに「This is a pen」から始めた。それが、七月中旬だった。「十二月までに500スコア取らないといけない」とがんばっていた。
「4か月半しかないぞ」
「でも、それだけないと、あかんねん。まず、アメリカで語学の学校に入って、二年以内に600にして、アメリカの四年制大学に編入するから」
十月頃になると「頭に入らへん。覚えられへん」と泣いていたけど、十一月の試験で470とって、十二月には500を超えていた。
一月になって、TOEFLのスコアが取れたから、受験勉強をする、と勉強を始めて、二月に立命館大学に合格した。本人いわく、勉強をしておいて、ムダなことはないらしい。
なぜ、自分の娘がそんなに勉強好きになったのか、ぼくにはわからない。人間としての教育はしたつもりだが、勉強しろとぼくが言ったことはない。
(中略)
ゴールデンウィークから六月の出発まで、彼女はずっと、いい子でいた。
それまで、英語の学校だの、塾だのと、走り回っていたから、なるべく家族といっしょにいようとしてくれているようだった。
買い物に行ったり、草むしりしたりしていた。
「もう行くなよ、おまえ」
ぼくは、そう言いそうになって、いつも、飲み込んだ。
(中略)
「また、いつか暮らそう。これで、最後とちゃうからな」
それは、ぼくの二割の気持ち。
夢をかなえたら、次女はそのまま、アメリカで働くことになるだろうと思う。
ほんとうは、八割、それでいいと思っている。
次女のために、ノートをつくった。
たとえば「カレーライスのつくり方」。
ルーを入れる前に冷凍することとか、保存のコツを入れて。
そうや、インスタントラーメンを食べるときに、「こうしたら、まだ体にいい」というコツも書いておいてやろう。うどんも、乾麺は売ってるやろうから、ダシの取りかたやな。チゲ鍋とかちゃんことかは、ちょっと無理かなあ……。
そして、最後に……、こんな約束を書いた。
『アメリカに行く約束』
一、遊びに行くんじゃない。自分の夢の実現のために努力し続けること
一、才能あるものは、ひとつでも、欠点、35点以下があってはいけない。健康管理、人間関係も才能のひとつである。
一、うまくいかないときに、他人や環境のせいにする人間は、幸せになれません。
一、うまくいかないときは、いつも「もういいや」と居直ること。「そうだ。辞めるならもう一度、思いっきりやってやろうとまた居直ること」です。
一、友だちは 日本にいっぱいいます。友だちをつくるためにそこにいるんじゃない。戦いに行くのです。
一、ギブアップも勇気です。そのときは、日本に帰ってきなさい。そしてまた、違う戦いをすればいい。
いつも、笑顔で待っています。
世界中が、ゆか(次女)の敵になっても、私たち家族は、味方です。
ぼくは次女を見送らなかった。次女もそれでいいと言った。
空港で泣くのは恥ずかしいから。
↑(引用ここまで)
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…紳助氏がアメリカに行く娘に渡したノート。特に、最後の『アメリカに行く約束』は、胸に響きます。
『健康管理、人間関係も才能のひとつである』。
『他人や環境のせいにする人間は、幸せになれません』。
『友だちをつくるためにそこにいるんじゃない』。
別にアメリカに行くのではなくても、学校へ行ったり、就職したり、習い事をはじめたり、新しい趣味を持ったり、…我々の生活すべてに通ずることなんだと思います。
要は「覚悟ができているか」ということ。
…私が思うに、ダラダラ過ごしている奴は、本当に多いです。
中途半端な覚悟しか持てない奴が、本当に多いと思います。
「やる」って言ったらやれよ。
「私、がんばってます」と言う。その「がんばり」がちっぽけな奴が、本当に多いです。
仕事も、恋愛も、ロクに続けられない奴が、多すぎます。
「石の上にも三年」って言葉知らんのか?
「自分なりに」がんばってるって?
その、「自分なりに」のレベルが、低すぎるやろ。
「みんな、そんなに強くない」って?
違う。それはただ、自分に甘いだけです。
…でも、仕方ないのかもしれません。
今の日本は、別に本気になってがんばらなくてもそれなりに食っていけるから。
自分を向上させなくたって、別に生きていられます。
別に、死にゃしないのです。
そういうダラダラした奴が増えていくのも、当然の流れなんだろう、と思います。
がんばってる奴と、ダラダラした奴の能力差は、ますます離れていく時代なんだろうなぁ。。
それだけに、紳助氏が娘たちに日頃から「覚悟を決めさせる」、「中途半端なことをしたら、叱る」といった訓練(教育)をちゃんとしてあげていることが、素敵に思え、また、そんな彼女たちをうらやましくも思うのです。
「何をするのも、本人の自由」、「がんばらなくたっていいんだよ」。
そんなヌルいスローガンを掲げた家族や恋人や学校などの人間関係に、「えせ自由主義」の匂いを感じては胡散臭く思うのは、私だけでしょうか?
