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↓『ぼくの生きかた』(島田紳助著、KTC中央出版、2001)より引用(03)


次女の本命が現れたのは、アメリカへ行く直前のことだった。
地方から大阪へ出てきてTOEFLへ通っている男の子がいる、というから、ぼくは興味をもって、言った。
「うちへ呼んでこいや。メシ食わしてやるから」

やってきたのは、十八歳の男の子だった。二日間、いっしょにいた。
うちの次女と同じように、自分の夢を見ていた。アメリカで勉強しようとしていた。でも、ロサンゼルスではなく、インディアナ州へ行くのだという。
「君は、何をするねん? 何をしに、アメリカへ行くねん?」
「エージェントをやりたいんです」
と、彼は言った。
「エージェントのような仕事をできないかと思って、アメリカで勉強するんです」
「なぜ、インディアナ州なんや?」
「安いんです。ロスに行ったら、学費も高いし、寮費も高い。勉強の内容的にはロスもインディアナへ行くのもそう変わらないとわかったし、そっちへ行こうと思って……」
彼は、神社の息子だった。
「兄弟も多いし、そんなに豊かでもないから、インディアナへ行ったら、年間百万円でやっていけるんです。だから、そこで五年間、とりあえず勉強しようと思っています」

すべて、ぼくが想像したのとは、違う答えだった。
「どこへ行くねん」
「とりあえずアメリカへ」
「なんのために?」
「……なんとなく」
そういう受け答えを想像していたぼくは、びっくりした。そして、感動した。

二日間、箕面の猿山へ行ったり、魚釣りをしたりして過ごした。
十八歳の青年といることが、こんなに楽しい、誇らしい気持ちになるなんて、思わなかった。

彼が帰ってから、長女がぼくに告げた。
「あの子、ゆかとつきあってるねん。おっとうとママにはまだ言うてへんし、つきあってると言っても、つきあいだしたばっかりで、しかもロスとインディアナに別れてしまうから、きっともうそんなに会うこともないって。でも、今度いつか、どこかアメリカで会うことができたら、会いたいって」

ぼくは、次女にメールを送った。
「何の問題もないよ。あの子は、素晴らしい子や」
ほんとうにそう思った。自分が十八歳のとき、あそこまでものを考えていただろうか。
世の中、情報が行き届いた。ぼくらの子どもの頃、アホの小学生が「医者になりたい」って言っても、誰も笑わなかった。
でも、今は、笑われる。「おまえ、この成績では無理や」と、はっきり否定される。
だから、情報で挫折する子どももいると思う。でも、情報を得たことで、選択肢を広げていける子どもも多くなったのだと思う。

だらだらしたやつも、がんばっているやつもいるのだろう。でも、その差がかなり激しくなっていることは、事実だと思う。
成績そのものでなく、志の優秀な男を見つけてくれたことを、ぼくはうれしく思った。


↑(引用ここまで)
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…『世の中、情報が行き届いた。ぼくらの子どもの頃、アホの小学生が「医者になりたい」って言っても、誰も笑わなかった。でも、今は、笑われる』。


今は、夢を持ちにくい時代なのかもしれません。


情報過多。


大人は若者に、夢を持て、夢を持てと言います。


紳助さんの次女が連れてきた彼氏のような人に感動できるのも、それが、難しい時代だからなのかもしれません。


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