地図

葛西君との自慰有り漂流生活が始まって早1ヶ月。
日ごろの行いの悪さが災いしたのか、
反逆天使を容赦なく罰するゴッドのごとき海流は
僕らの船を陸地と縁遠いところに連れていったみたいだった。

海産物しか摂取していなかったため、
そろそろビタミン不足による壊血病とかも気になり始めていた。

光栄のシュミレーションゲーム「大航海時代」で
「これだけ船に食料を積めば大丈夫か」とコペンハーゲンを発ち、
北周りで日本に行こうと思ったら
ロシア北部の不毛っぷりに食料が底をついて壊血病発生、
シベリアあたりで餓死、みたいな失敗をよくやった。
極寒の海上で餓死って、
乗組員たちの心情いくばくのものか。 つらすぎる。




漂流3週間目ぐらいから、
僕にも葛西君にも漂流の背後に潜んでいた、
絶望という名のシニカルなお友達ができていた。

「絶望とか言ったらおおげさだから、
 ゼッちゃんって呼ぶことにしようぜ。」

「俺たち、ゼッちゃんとともだちんこだね。」

「そうだね。
 ゼッちゃんは人生のいろんなところで
 やってくるよね、実際。

 中学生の時、オナリングを覚えたのはいいけど
 その虜になっちまって昼も夜もやってた。

 ある日、すっかり両親は寝ただろうと思って
 吉岡君から借りたスーパー写真塾を見ながら
 シコリングしてたら、いきなりオカンがドアをガチャ、だよ。
 ゼッちゃんが来たよね。

 オカンも、
『それ終わったら、早よ寝るんやで』って
 ドア越しに言いよるわけや。
 翌朝、朝食を食べずに学校に行きました。」


「やりますねー竹内君。
 俺もねー中学ん時、夏休みの研究に使うって言って、
 親に顕微鏡を買ってもらったわけですよ。

 好奇心旺盛なヤングボーイが
 拡大して見てみたいものっていったら、
 分かりますよね?
 共感しますよね?
 太古より我ら人類が受け継ぐDNAっすよね。

 とにかく飯島愛さんの裏ビデの力を借りて
 放出したザーメンマンをスポイトで吸出し、
 スライドガラスに垂らし、カバーガラスをかぶせて
 プレパラートを作ったわけですよ。
 それはもう京大医学部並みの手際の良さですよね。

 で、
 顕微鏡を覗き込んでみたら、
 どうしたことか
 俺のDNA、全然動かないんです。
 動かざること山のごとし。

 どうしたことかと思いますよね。
 俺の種は役立たずか、とか。
 それともオカズが飯島愛さんだったから
 動けないのか、そんなバカな、とか。

 けどね、水をかけたら動いたんですよ。
 驚きましたね。
 神の思し召しかと思いましたよ。
 あなたは神を信じますか?僕は信じません。

 それはいいとして

 やっと蠢いたDNAが愛おしくて、
 そのままにしておいたんです。

 ここでゼッちゃんきました。

 翌日が学級登校日で午前中だけ学校に行って帰宅したんですが、
 昼飯を食べようとテーブルの前に座ってたら、
 オカンに差し出されたのは白米の乗った茶碗ではなく、
 白濁液を挟んだプレパラート。

『ヒロシ、あんたは何を研究したいんや。』

 オカン、顕微鏡で俺のDNA見たっていうことか、、、。
 その図を想像するとこみ上げて来るものがありましたよ。ナハナハ。」

「その好奇心が世を変える発明に繋がるかもですよ。」

「いや、めっちゃ文系に進学したし!
 あー思い出すだけで恥ずかしい!死にたい!

 股間だけくりぬかれて死にたい!」

葛西君はイカ釣り用の釣竿を持ち、
船底にガリガリとこすりつけた。

するとしばらくして煙が巻き起こり、
船底と釣竿が燃え始めた。
ゼッちゃんがきた!

暴露話の結果、
イカ釣り船炎上。


こうして僕と葛西君は
ゼッちゃんとともに、
板キレにしがみついて漂流することになった。

余命あとわずか。


DNA


あんどんねえ

僕と葛西君は相変わらず駿河沖で揺られていた。

なぜ駿河沖と分かったかというと、
葛西君が携帯の現在地情報で調べたからだ。
ギリギリ電波が入ったみたい。

「ていうか携帯もってんなら電話かけて救助呼んでや!!
 俺のん水に浸かってオダブツになったって
 嘆いてる時になんでウンウン頷くだけやったんよ!」

「いや、ちょっと冒険行ってみようよっちゅうか。
 魔が差したというかね。」

「俺に貸してよ!電話かけ、、アッ!」

ツルっとすべった葛西君の携帯は
駿河沖に沈んだ。南無。


太陽の方向を見ながら、
なんとなく北と思える方向に何時間も船を漕いだ。
だが、よほど陸から離れていたのか、
潮の流れというやつなのか景色は変わらなかった。


 *
  *   夜。

「おい竹内、起きてくださいよ。」

「・・・なに?」

「変なんいるよー。丸いのいるよー。」

船の舳先に小さい丸い毛の生えた生物が2体いた。

「うわ、あれコロボックルなんちゃうん?」

「竹内はなんでそんなん知ってるんですか。」

「水木しげるファンだからね。」

「なるホロ。」

コロボックルは船を操り、
海の上を滑らせていった。

もうこんなんになったらどうしょうもない。
操られるまま、僕たちは数日を過ごした。
動かざること山のごとし。

船にはイカ釣り用の道具が積んであった。
僕と葛西君はいつイカデビルになってもおかしくないぐらい
イカを食べ続けた。
生イカ、焼きイカ、干しイカ、イカ墨がけイカ刺身。

「青少年の部屋のゴミ箱に捨ててあるティッシュが
イカ臭いとかなんとか言ったりするけど、
 だいぶん違うよなー。」
とかなんとか。

コロボックルは少しあぶったイカが好きみたいで、
僕らが見てない時にそれをかじっていた。




その夜、
僕たちは不意の衝撃で目が覚めた。
ゴツン、と大きな衝撃が何回かあって、
その後、ザザザザと船は停まった。

「どっか着いたみたいやな。」

周囲を窺うと、海が見えない。
これは、氷?

「っていうかコレ、なに、
 流氷に閉じ込められたとかいうノリか。」

銀世界キター!

見えるのは氷と月だけ。

     ○
**        **
***      ***

「この野郎、、、かじってやりましょうか。
 これはコロボックルの陰謀ですよ。
 ほんま、慰みモノにしてやりましょうか。
 南極1号・2号って名前にしてやりましょうか。」

葛西君がコロボックルを犯そうと僕に持ちかけてきた。
初代神武天皇のお婆ちゃんはサメだったっていうが、
我々ナウい現代人の感覚では、
ここまで明らかに動物的な妖怪とカラむのはちょっと、、、。
いや、
逆にこれでトライすることによって
いきなり神的な力を得ることになったらどうしてくれよう。
スギを操って花粉を自在に飛ばして、
マスクのメーカーから汚いマネーを頂戴するか、、、。
いや、そんなチマチマやっててどうするんだ。
荒ぶる神として君臨するにはもっとスケールの大きな発想をしなければ。
でも、エロCGの作家には出来上がったCGを真っ先に
俺に見せなければ怒りの雷を落とすぞと恫喝することはしたい。
が、そんなことで制作意欲が失せてヌケない手ヌキCGになったら、、、。
(ループ)


               ***

「向こうの方に灯りが見える!」

僕と葛西君は氷の上に飛び降り、
灯りに向かって駆けて行った。
氷は分厚く、隙間もなかった。

あんどんの灯りだった。
爺様が一人、氷の割れ目に釣り糸を垂らしていた。
ひげもじゃのあんどんジジイはこちらに視線を向けた。

「なんだ君らは。」

***

19世紀の終わり、
アムンゼンとスコットが南極点到達を競い合った直後、
徒歩での南極横断に挑戦した人間がいた。
アーネストシャクルトンという豪気なオッサンだ。

5000人の応募者の中から選ばれた26名の仲間とともに、
シャクルトン卿は南極に向かった。
だが、南極到着の寸前で、船は流氷に飲み込まれてしまう。
3隻のボートに乗り換えた一行は、
それから閉ざされた氷上での生活を始めることになる。

食物はアザラシの肉のみ。
氷、空、それだけの環境で一行は21ヶ月を過ごした。
21ヶ月だ。

21ヶ月目に、一行は無事に生還する。
27名からただ1人の死者もださずに。

あんどんジジイは独り、
シャクルトン卿が遭難したのと同じ環境にいる。

「もう何年いるか忘れたわ。
 よその空気を吸っていたのより、
 遥かに長い時間ここにいるのだけは確かじゃがな。」

「そうなんですか。じゃあお寂しいですね。
 現代の性事情がどんなになってるかお教えしましょう。
 僕がノゾキやテレクラに手を出したのは思春期に入ってスグ、、、」
葛西君は卑猥な話をジジイに聞かせ始めた。
ジジイは黙って表情を変えず、それを聞いていた。


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じゃあわしも若い頃の話をしよう。

この流氷に呑まれる前、
ニュージーランドの東、800キロのところ
チャタム諸島モリオリ族のところに行った。

それまではクジラ漁をしていてな、
最初は日本近海でやってたんだが、
そのうち貿易にも興味を持つようになってな、
フィリピンを訪ねたり、
オーストラリアの捕鯨船と技術交換したりな、
うろちょろとしていたんだが、
どこかでチャタム諸島の噂を聞いたんだ。
「東に平和な島がある」ってな。

ワシはどうにも引っ込み思案で、
日本の中であまりうまく立ち回れなかった。

貿易に興味を持ったのは本当だがな、
半分逃げるように出てきたんだ。

嫁になってくれそうな女性もいたが、
どうにもこうにも、
いろんな決断をするタイミングが下手糞で結ばれなかった。

要領が悪いんだ。

こんな所に住んでるんだからそれは分かるだろう。


とにもかくにも楽園を夢見て、
ワシは島に辿り着いた。

ところがここは土地がひどくやせていた。
低地で河川もできず、
気候的には南極に近く寒冷地に属する。
だから作物が育たないんだ。

入植者たちは農業を捨てて、
また原始的な狩りの生活に戻った。

なぜここが平和なのか。
争って傷つけば狩りができなくなる。

それは死を意味するってこった。

だから仲良くやってたんだな。
モリオリ族には争う習慣がない。
族長もいない。

農業が発達する地域では余剰作物ができるから、
人口は増えるし、食糧生産に従属しない専門職、
族長とか役人みたいなのとか、
軍人なんかを養うこともできる。
政治組織も発達するんだな。
灌漑だの集団作業ができるようになる。
道具や武器だって発達する。


ワシはクジラの肉を持って上陸したこともあって、
モリオリ族から手厚く歓迎されたよ。
漁業技術も発達してなかったから、
ワシが教えて島民は魚も得ることができるようになった。
近海には大した魚はいなかったがね。
ああ、けど島にはウナギがたくさんいたよ。

ある日の漁を終えて昼食を取った後、
ワシは船に揺られて昼寝をしていた。
それはワシの習慣だ。

情けないことだが、
モリオリ族の中にいても、
やっぱり自分は部外者だという気がした。
仲良くしてくれてるのにな。
こちらがなんとなく笑顔で相手に迎合してしまうんだ。
何を我慢してるわけでもないんだが、
自分自身を隠してつきあってる気持ちになる。
だから、時々独りになってた。

その日も船の上に転がって空を眺めていた。
すると船が突然ゴンと揺れた。
もう一艘、ボートがやってきたんだな。
そこには島の娘が乗っていた。
独りで漕いできたんだ。

彼女の歳は知らないが、
たぶん16歳とか17歳とか、
そんなぐらいだ。しっかりしてるが、若い。

彼女はなんていうか、
とてもそわそわしていた。

こちらが「やあ」と言うと、
頷いて、こちらの船に飛び乗ってきた。

わしは「どうした?」と聞いたが、
娘が何をしに来たか、なんとなく分かり始めていた。
彼女はやっぱり質問には答えず、
黙ってこちらの表情を覗きこんだ。

何かを窺うような、
許しを乞うような、
なんとも言えない目をして。

この娘は、自分とまぐわいに来たのだ。

そう思うと、一物は膨張した。
忘れかけていた、痺れるような感覚。

娘は一物が隆々と膨れるのを確認すると、
そっと手を伸ばし、皮のパンツの上からそれを握った。
そしてゴクリと唾を飲んだ。

それから
娘とまぐわったよ。

真昼の上で燃え上がるような、
雲まで溶けてしまうような、
たまらない快感が体を突き上げた。

事が終わり、戻ろうと船を漕いでいると、
島に大きな船が着岸しているのが見えた。
数百人もの屈強な男が上陸しているのも見えた。
マオリ族だ。
彼らは皆、発達した武器を携えていた。
鉄が出ないから、石器だがね。

チャタム諸島の側、
ニュージーランドは同じく寒冷地ではあったが、
国土は遥かに広く、マオリ族はそこに住んでいた。
彼らは人口を増やし、部族間で戦争をしながら、なんだ、
要するにモリオリ族より強くなっていったんだな。

そしてチャタム族は抵抗するすべもなく彼らに殺された。
喰われた者もいる。1835年だったね。
マオリにとって征服は殺人、
それが習慣だったんだから文句は言えない。

わしの側にいた娘は止めるのも聞かず島に戻った。
「話せば分かる」と言いながら、
のんきにボートに乗っていったよ。

相手は問答無用の世界から来たのに。

それからワシは彼らを助けることも見届けることもせず、
逃げた。

もう、自分は独りでいればいいと思った。
最後に娘とまぐわった思い出を最後に、
思い出と生きて、死ねばいいんだと思った。

そしてボートを漕ぐうちに、
ボートの周りが流氷になった。
この氷は、
たぶん、
わし自身が作り上げているものだ。

それからずっとこうしてるんだ。


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あんどんジジイの魚と
僕たちのイカを交換した。

ジジイが眠ると、
少し、氷が溶けた。

僕たちはそこからボートを出した。


「あのジイサマの話、
 興奮したな。
 なんであんなに自分が
 おっきなった時のこととか、
 じっくり語ってくれたんかな。
 けど、イチモツとかって表現が古いよな。
 さすがジイサマ。」





再び漂流生活に入った。

僕たちはお互いが寝たフリをしている間に
それぞれソロ活動(自慰)をしてもよいという
暗黙のルールを作り上げていた。

ガサガサいう音ぐらい、
案外波の音が打ち消してくれるもんだ。