コバルトブルーな海


ノゾキ。

最後にそれをしたのは高校の臨海学校の時。

淡路島の村に3泊ぐらいしたのだが、
ボロイ2階建ての木造の民宿を何軒か借りていて、
男女別に、いくつかのグループに分かれて泊まる。

昼過ぎ、2階で午後からの遠泳のために水着に着替えている最中、
隣のクラスの普段おとなしめの男子が叫んだ。

「・・・あ!・・あ!
 女子の部屋、丸見え!丸見え!」

近くにある同じく2階建て宿舎に女子がいるのだが、
何を油断していたのか、
2階のカーテンを開けっ放しにしていたために、
大広間で着替えている様子が丸見えだったのだ。

「とにかく伏せろ!」

班長や周りのリーダー格の人間が口々に叫ぶ。
2階の男子、約30名全員がホフク前進で窓に近づいていった。
バスケに打ち込む者、バンドにはまるもの、勉強に打ち込む者、
震災を経験した者、将来に不安を感じるもの、何がやりたいか分からない者、
みんな全員違う。みんながみんな、それぞれの高校生活を送ってきた。

だがこの時ばかりは断言してもいい、
全員の心が本当に一つになっていた。
誰の顔も真剣そのものだった。
目が星クンみたいに、
燃えたぎっていた。
そして誰の心にも、
興奮と焦りと、「こんなイケナイこと・・・」と葛藤が渦巻いていたのだった。


僕はその頃にはもう近眼が進んでおり、
宿舎の窓の向こう側に人が
ちらちらしてるっぽいのしか見えない。
それでもモーレツな興奮が僕の全身を震えさせた。

こういう変態的な行為は、
実際にモノが見えなくても、
「何か素敵でイケナイ事をしている」という状況だけで
悦びを味わえるものなのだ、と僕はその時学んだ。
変態的というか変態、、、、。




 *
  *

僕は久しぶりに再会した高校時代の友人の葛西君と、
兵庫県の芦屋浜を訪れていた。

ここにはヨットハーバーがある。
そして脱衣所がある。

葛西君は元ボート部の部長で、
よくここでノゾキ行為をしていた。

「むっちゃ興奮しますよ!
 俺だけがこの興奮を知っていますよ!」

当時からそう吹聴していた彼は、
クラスの委員長でもあった。


「ああーここもこのままなんや。
 懐かしいなー。
 さあ、竹内、こっちやで。
 見つからんようについて来いよ。」

葛西君はいやらしい笑顔で手招きする。

建物の陰に忍び込んでからも、
彼は「懐かしいなあ、懐かしいなあ」としきりに一人で頷いていた。

抜き足、
差し足、
忍び足。

身をかがめながら建物の陰を歩いていく。

ある場所で葛西君が立ち止まり、
モルタルの壁のある箇所を指差した。

穴があいてる。

ドキドキ。
ワクワク。

そわそわしながら、

  覗
 いてみ
  た


「どうや?」

葛西君が小声で囁く。

「あ、、、。」

残念ながら無人だった。
部屋は脱衣所 兼 用具置き場といった様子。


「誰もいないわ。」

「そうか。
 残念やなー。
 俺が覗いてた時はもう、なんていうの?
 それはもうウハウハって言葉がピッタリくる感じで、
 もうウハウハのバッコンバッコンでしたよ。」

葛西君はタバコに火をつけた。

「え、バッコン、、、ってマジで?」

「いや、さすがにないけどな。
 それに準ずる、、、こう、汗を流す女子たちの、、、。」

「おおお、なんとなく分かるような分からんような、、、。」


ザッ

と足音が聞こえた。

「この変態!ノゾキ!」

大学生っぽい年頃の女性が二人、そこに立っていた。
IKARI-怒-に満ち満ちた表情でこちらを睨んでいる。

「うわッ、おったんや、、、。」

「違うんですよ、
 僕たちはちょっと思い出を振り返りに来ただけで、、、。」

「何が違うんよ!灰になってしまえ!死んでしまえ!」

女性の一人が何かを投げつけてきた。

これは、、ポリタンク??
中から溢れ出てきてるのは、、、軽油??

「うわ、ドロドロや!」
と叫んだ葛西君の口からタバコがこぼれた。
そして火がついた

     ★    ★★
  ★ ★  ★★★
  ★★★★★★★
 ★★★★★★★★
僕 と 葛西君 
★★★★★★★★★
★★★★★★★★



僕たちはコムギボーイになり、
ポリスさんに追われることになった。

停めてあったボートに勝手に乗り込んで沖に逃げた。


「いや、ホント。大変でしたね~。
 それはそうと、
 あの二人だったら竹内はどっちが好みでしたか?
 僕はポリタンク投げてきた方が良いですよ。
 気が強そうでね、でもああいうのが折れてしまうと
 案外モロいんですよ、うっひひひ。
 僕が見つめるだけで、
 感じるぐらいまで俺色に仕込んで、、、」

「いやこっちが小麦色に焼かれたし、、、。
 ていうか、葛西君、、、。
 これ、もう陸が見えないよな。」

「、、、、。
 もう方角が分からん。
 それより竹内よ、
 いやらしい話をしましょうよ。
 かつて僕がコンニャクを鍋で温めて、、、」


そして帰れなくなった。