ここ20年ちかく、極めて安定していた(ほぼ固定金利化していた)住宅ローン変動金利がもしかしたら上昇するかもしれん、という話がチラホラ聞かれるようになり、自分も大いに関心を持っているので、状況を整理するために今までの動きをまとめておきます。

 

 

政策金利と住宅ローン変動金利の前日談

各銀行が融資する住宅ローン、その金利の一種である変動金利は、現在新規で住宅ローンを組まれる人の約7割、つまり大多数が選択するポピュラーなものであり、住宅ローン金利と言うとそのまま変動金利を意味するぐらいマジョリティとなっています。

 

 

もう一つの金利タイプである全期間固定金利であれば最初に決めた金利から変わることはありませんが、変動金利は(理屈では)半年に一度金利の見直しが行われるため、変動金利が今後どう動いていくかは住宅ローンを組まれている多くの人の経済環境に大きな影響を及ぼします。住宅ローンは純粋なマイホームの購入資金としてのみ融資されるため、債務者のほとんどが一般市民であり且つ、年収比数倍の債務を負うので、金利の変動、特に上昇は家計に大きな負担をもたらすでしょう。

 

で、この変動金利はどうやって決定されるかというと、銀行の短期プライムレート(短プラ)によって決定されます。で、この短プラは日銀の政策金利の影響を受けて変動するので

 

政策金利 ⇒ 短プラ ⇒ 住宅ローン変動金利

 

というピタゴラスイッチが回路してあるということですね。政策金利が動けば短プラが動き、短プラが動けば変動金利が動くっちゅーわけですが

 

ホンマに動いてたんか?というと

 

プライムレートとは銀行の企業向けの最優遇貸出金利のことで、業績の良い、謂わば銀行にとって最も優秀なお客さんに貸し出すときの、いっちば~ん優しい金利のことですので、必然的に最も低金利となります。短プラはそのうちの貸出期間が1年未満の短期ものです。

 

政策金利は日銀が各銀行に課す金利のため、銀行は政策金利以上の利息を顧客から集めないと損失を被ります。なんでプライムレートは政策金利より高くしなければなりませんが、政策金利が下がれば(日銀が銀行に優しくしてくれれば)損をしない程度に銀行もプライムレートを下げて企業に優しくしてあげられます。

 

かつて政策金利は激しく上下に変動し、特にバブル期には6%に達したこともありました(バブル以前にバブル期よりも高くなったことはありましたけど🙄)そして短期プライムレートはこの頃、最高で8.25%を記録しました。

 

 

 

つまり、3,000万円の住宅ローンを返済期間35年で借りるとすると、昨今の金利環境であれば金利0.5%で毎月返済額78,000円、総返済額3,271 万円で借りられるものが、当時の金利であれば

 

毎月返済額219,000円、総返済額9,179 万円、というトンデモねーことになるわけっす。

 

 

返済額を7万円台に抑えようとすれば、借入金を1,000万円台まで落とす必要があります。一般市民の体力では今の3分の1ぐらいしか借り入れられなかったわけですね。中流階級の一戸建てで4,000万円が当たり前の昨今の事情では、とても当時はお家を買えなかったでしょう。実際買えてなかった人が大勢いたわけですが。

 

 

バブル崩壊後の金利の推移:政策金利に連動した短プラと短プラに連動しない変動金利

しかし8.25に達した短プラもいつまでも続かず、バブル崩壊によって金融の引き締めから緩和へと世相が変わり、政策金利がどんどん引き下げられていきました。それに合わせて短プラもどんどん引き下げられていきます。短プラは政策金利の真横にピッタリ張り付いて並走するわけではなく、だいたい2%ぐらいの金利差を保ちつつ連動して下落していったのですが、99年に日銀が事実上のゼロ金利にまで下がると1.375%になり、そこから小さなバブルでゼロ金利解除とかで上下しつつ、2008年末に政策金利が0.1%(事実上のゼロ金利)になると、短プラは1.475%を下限としそこから下がらなくなります。住宅ローン変動金利は短プラに対して更に1%の金利差を保って連動したため、変動金利も2.475%で下げ止まりました。政策金利はここからさらに10BP(0.1%)利下げして0%になったり、さらに10BP利下げしてマイナス0.1%になったりしたんですけど、短プラは動きませんでした。そして変動金利も(見かけ上は)動きませんでした。

 

見かけ上はってどういうことよというと、実際には動いたっちゅーことです。

 

企業向け金利の短プラが動かなくなったのは、景気がよろしくないこともあって、これ以上下げても別に借り手が寄ってこない(お客さんが増えない)からです。対して、もはや民族的と言っていいほど一国一城の主になることが人生目標とされる日本では住宅ローン金利は下げれば下げるほどお客さんが寄ってきました。不景気によって業績の悪くなった銀行は長期的な優良顧客を獲得するために、競って住宅ローンの顧客を獲得しようと金利引き下げ競争を展開していきます。

 

 

変動金利は全ての顧客に一律適用される基準金利に対して、顧客の属性に応じて個別的に優遇する金利優遇幅を導入し、それを拡大させることによって実際の貸出金利を引き下げていきます。某メガバンクでは基準金利2.475%から優遇幅2.1%を引き下げて実質0.3%台で貸し出すことが可能と謳っています。もちろん0.3%で融資が組める人は一部上場企業社員であったりとある程度のステータスを持った顧客に限られますが、この手法を用いれば、既存顧客からの利息収入を確保して収益性を維持しつつ、新規集客のインセンティブを高められるわけですね。

 

この優遇幅はバンバン拡大されており、かつては0.1%程度だったのが今は上述のとおり2%近くにまで達しております。

 

 

つまり、全ての新規顧客に適用されるわけではないものの、多くの人が大きな恩恵を享受しているというわけです。これが昨今の変動金利の低金利下の実態です。ここで注意なのは、変動金利だから上がりもするし下がりもするわけですが、最近の金利低下は新規顧客への優遇幅拡大に限ったことであり、既存顧客の金利はまったく下がってくれないということです。既存顧客は金利上昇リスクしか影響を受けず、低下の恩恵はほぼないということです…しゃーない😥変動金利(店頭金利)ー金利優遇幅(優遇金利)=実行金利の方程式を知らないと、なんで住宅ローンの金利が下がってるってニュースでやってるのに自分の金利は下がらないんだ~!と悔しい勘違いをしてしまうわけですね。

 

変動金利の優遇幅拡大は今も続いており、SBIなんて(もともとの基準金利が若干高めだけど)2.4%以上優遇幅をとってくれます。すげ~。

 

 

これまでの金利上昇ニュース

日本の低金利の歴史はかなり長いです。バブル崩壊で利下げが始まって約30年、そして事実上のゼロ金利が導入されて約14年、現役世代の半分ぐらいが、社会人になってからは金利が事実上存在しない世界しか経験していません。

 

その金利のない世界が終ろうとしている=利上げがくる=変動金利が上昇する!というニュースはいつごろから流れ始めたのか?っちゅーと

 

2022年末、当時の日銀総裁である黒田東彦総裁がYCCの運用を見直すと言い始めました。

 

 

 

これで俄かに住宅ローンへの影響が~!という話題が出ましたが、実際のところYCCは政策金利ではありません。政府の財政にかかる負担を軽減するとかなんかそういう狙いで導入されたもんですが、長期金利を操作しようとするものであって短期金利、短プラには影響しないものでした。ここらへんが分かりづらいのは日本の金利政策がかなり歪になっているせいだったりするみたいです。

 

しかし、これまで長期間にわたって慢性化していた金融環境が変わろうとしている=変動金利もいずれ上昇するのでは?という皮算用が生まれ、そういった話題が増えたのやもしれません。

 

その後、日銀総裁が変わって植田さんになると、今度は徐々に金融正常化への布石が打たれて行きます。アメリカの異常な高金利からくる日米金利差も相まって円安が慢性化したり、インフレが進んだり、賃金上昇が見えてきたりと、少なくとも前任者の異常な政策であるマイナス金利ぐらいは撤廃していいだろぐらいの雰囲気にはなります。

 

問題はそこから、次の利上げに繋がるのかどうかですね。

 

前に言った通り、短プラはゼロ金利導入時に1.475%で下げ止まっています。住宅ローンに関して言えば、それ以降は新規顧客への金利優遇幅しか変動していませんので、今更10BP利上げしたところで変動金利は変わりません。さらに10BPあげて政策金利が0.1%になったところでようやく土俵に上がってくる、という感じのようです(歴史が順路と真逆の道を辿るのであれば)

 

マイナス金利撤廃がほぼ確実視された段階で、噂話で言えば、日銀は金融正常化のために0.3%ぐらいまでは利上げするのでないかという観測も出てたり

https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/0319

 

信じていいのかわかんないが一部アナリストは政策金利1%までならあり得ると言っていたりします。

 

だとすれば0.1%のラインを超え、住宅ローンの変動金利はここ1、2年のうちに若干の上昇を見ることになりますね…

 

政策金利の引き上げは住宅ローンに限らず全ての借入コストに影響し、なかでも日本で最大の多重債務者である日本政府を直撃することになりますから、本当にそこまで利上げするのか(政治的に可能なのか)は半信半疑ではあります。

 

とはいえ円安が歴史的な局面で、1ドル140円台後半がコロナ禍による一時的なものと言われておきながら、既に150円の壁を突破してしまった現在、金融政策が日本の都合だけで決められる状況ではなくなりつつあることも事実です。僕自身、ホントにこれ以上円安になると思ってるの?と驚かれてしまったこともありますが、昨年末には次の一年は円高になると言われておきながらこの有り様です😨

 

過度な円安になるようであれば、中小企業の賃上げなどを総合的に勘案しつつ、今年の夏には利上げがあるのではないかとの推測もでておるようです。

 

しかし、政策金利が上昇しそうであっても、住宅ローンの金利優遇幅はまだ縮小しそうにありません。歴史が逆の順路を辿るのであれば、住宅ローン市場が破綻や縮小に向かうならその前に増大した金利優遇幅の逆転縮小があるかと思われますが、そのような雰囲気はございません。

 

 

住宅ローン変動金利は危険なのか

利上げが実現したとしても、その影響は突如重篤なものになるとは思われません。利上げによって住宅ローン債務者が返済不可能となるにはめちゃくちゃ急峻な利上げがなければなりませんが、いくらなんでも非現実的です。

 

0.3%への利上げぐらいであれば、実質的な変動金利への影響は0.1%ぐらいの上昇程度で収まるのではないでしょうか?これぐらいなら一部繰上返済さえ検討に乗らないかもしれません。今後の数年間で現実化する利上げで首を絞められるのは、年収10倍近くのレバレッジをかけてギリッギリの返済を行っており(つまり夢を求めすぎて身の丈に合わない家を立てた)利上げを待たずして既に暗雲漂っているマイホームオーナーの方だけかと思われます。つまり、大多数の方は無関係な平和な日常を送れるわけです。

 

ただ、個人的に言わせてもらえれば、住宅ローン変動金利の一番の怖さはとにかく返済期間の長さ、向こう35年間の返済期間の金利上昇リスク、その不安を耐え凌げるかです。しかもマイホームにかかるローンということだけあって、上位15%圏内のアッパーマス層でもなければ、生活がある以上一度組んでしまえば逃れることが著しく困難になります。

 

一番怖いのは僕が住んでいるような地方のやっすい土地にハイコストメーカーの高価な上モノを建てたような新築一戸建ての世帯で、担保価値がローンの債務残高に比べで急速に低下し、ローンの償還を続けていってもなかなかその差を埋められないため、返済が苦しくなっても売却等で返済レースから途中離脱することができません。

 

総論で言えば、いざというときに全額繰上返済できるほどのキャッシュが手元にないのであれば、変動金利は極めて危険な「万が一」のリスクがある。ただし「万が一」が現実化する可能性は、今現在住宅ローンを組んでいる人に限って言えば、覚悟を決めれば無視できるほど低いように思える、って感じでしょうか。

 

とにもかくにも今のところマイナス金利が解除されただけなので、すぐにどうこうなる状況にはありません。

 

ただ、これからお家を買おうと言う人は、金利上昇リスクについて勉強はちゃんとしておきましょうね。僕は個人的に、まだまだ変動金利のがお得だと思いますけど🙄