来年、函館北斗までやってくる、北海道新幹線。祝賀ムードがなかなか漂ってこないのは…



 北海道新幹線やJR北海道について、ここ数日、いろいろな情報が出てきました。

【高い運賃設定】

 11月26日、函館市内で行われた運輸審議会公聴会で3人の公述人全員が「料金が高い」と指摘しました。

 それに対するJR北海道側の言い分は、青函トンネルは開通してすでに30年、すでにメンテに膨大なコストを要する状態、など。

 もちろん、運営するJR北海道としても、利用者に魅力のある価格で航空会社と競争したいはず。しかしそれが許されない状況なのです。

 新青森-新函館北斗の運賃と特急料金(通常期、普通車指定席)の合計は、ほぼ同距離の東海道新幹線・東京-新富士の約1・3倍。同じく北陸新幹線・東京-軽井沢の約1・2倍、と。(毎日新聞2015.11.2)

 「北陸新幹線金沢開業では約1時間半の短縮で在来線特急から片道1,070円の値上げにとどまった。北海道新幹線は1時間から1時間半程度しか短縮されないのに、片道2,810円の負担増となってしまう」(マイナビニュース佐々木康弘氏2015/10/17)

素朴な疑問ですが、札幌延伸になったとして、果たして航空機と競争できる料金設定ができるんでしょうか?

 LLCの登場により、片道数千円、という料金にも驚かなくなりました。新千歳=東京は世界一の搭乗人数を誇る路線です。函館までなら競争も少ないでしょうが、エアドゥもつぶされたこの路線、果たして…?

 ちなみに函館東京の標準料金は22,600円。札幌東京を予想すると、これに今の函館札幌間の運賃が乗る形では?と思います。4万円に近い3万円台でしょうか。

 航空会社は、日本全国、世界各国に張り巡らした路線網の中で料金のバランスをとることができます。それに対してJR北海道が料金面でできることは非常に限られそうです。

 函館延伸の今の段階で後述人に「高い」といわれているJR北海道。航空機とまともに競争するためには、函館までの料金より低い料金設定をしないといけないのでは、と思います。

 これは実現可能なのでしょうか。



【函館市民と新幹線】


 では、当の函館市民は北海道新幹線を使うのでしょうか?

 前出、まいなびレポートから、

 「思ったより安くない」「基本的には飛行機」という声が多く、まとめると「思ったより料金が高くて驚いたが、料金にかかわらず時間重視で今後も東京へは飛行機を使うことになりそう。でも状況や行先によっては新幹線も使うかも」、と。

 高齢者の方や乳幼児連れの移動なら北海道新幹線は選択されるかもしれません。でも函館在住の当該条件の方で年間どれくらい東京まで行くニーズがあり、さらにその中からどれくらいの方が北海道新幹線を選ぶのでしょう。 



【資金不足に四苦八苦するJR北海道】

 道民の従来の発想なら、

 「JR北海道が」「道庁が」「国が」やれば、となります。

 いずれも頼りにすることはできません。


 まず、JR北海道は…
 

 資金不足のため、日高線の補修は3年かかりになるといわれています。

 11月27日、JR北海道は、「資金不足のため老朽化した車両の更新ができない」ことを理由に普通列車79本を減便することを発表。

 8月10日には採算の悪さから留萌線の来年度中の廃止を表明しています。(7百万円の収益を上げるのに25倍以上の経費が掛かり、年1億6000万円の赤字、と)

 ここ以前から、慢性的な赤字体質が続いており、他のJR各社と同様、基金運用益による利益補てんを受けているにもかかわらず、内部留保を厚くできないでいます。

 なんとかして、と頼む先は道と国。

 道庁は、長く職員の給与カットを続けてきましたが、ようやくそれが明けたところ。

 国としては、基金の運用益を年間370億円、ほかのJR各社にはない、特別受取利息55億円を与え、

 「は?まだ何かよこせ、と?」という感じだと思います。



【そもそもJR北海道にとって延伸は赤字要因か黒字要因か】

 新幹線という魅力的なコンテンツを持ってきても…函館延伸はJR北海道にとって赤字要因なのだそうです。

 ちなみにJR九州は、もともと黒字のところに九州新幹線が鹿児島まで延伸したことでさらに収益力を上げています。

 北海道という広すぎる大地、分散している人口、冬季の降雪と低温は、新幹線を運営するにあたり、厳しすぎる条件でしょう。

 


【そもそもその人数を運べるのか】

 北海道新幹線はH5系といわれる車両を使い、定員は731人。満員の北海道新幹線が函館北斗駅に着いてから、乗り換えて函館に運ぶ、はこだてライナーの定員は当初441人とされていました。これでは満員で到着した客が函館に行きたい、と思っても運べません。

 これについてははこだてライナーの定員を882人にすることで一度に運べない「こぼれる」お客様はいなくなる見込みとなりました。

 冒頭の、公述人聴聞会で「高い」と指摘されてた北海道新幹線の料金はJR北海道の計算の前提では1日5000人の利用を見込む、としています。現在の海峡線の利用者3700人を基に、ということですからまったく現実味のない数字ではないと思います。

 ちなみに北海道と本州の旅客の行き来ですが、

 問題は、「いったん函館北斗に来た5000人のお客さんのその後」です。

 おそらく函館に一旦足を運ぶのは間違いないでしょう。JRを乗り換えて札幌方面に向かうのは一部の「乗り鉄」的な利用者。東京や仙台、青森から札幌を目指すのなら最初から飛行機を選ぶはずです。

 ということは、その5000人の方々のうち、「ビジネス客でもともと函館が目的地」「函館観光のために来たのでまた帰る」という人を除くと、「その足で札幌へ」という方も相当いるはずです。

 これがどれくらいの人数になるか。

 ちなみに、函館=札幌間のスーパー北斗は、着席の定員が343名。一日9往復ですから3000人余りは運べます。

 どれくらいの乗車率なのかは調べきれませんでしたが、高速バス、飛行機と合わせどれくらいの運搬余力があるのでしょうか。

 輸送計画、大丈夫なのでしょうか。

 原点に立ち返り、北海道と本州の間の旅客数を確認しましょう。



 圧倒的な航空機の運搬力に対し、北海道新幹線はどれくらい対抗できるのでしょうか。

 九州や北陸とはあまりに条件が違いすぎると思います。


 
【在来線】

 新幹線延伸となった区間は特急は廃止。

 新幹線が直接の原因ではありませんが、道内と本州を結ぶブルートレインは軒並みは廃止。

 早いが高い新幹線を押し付けられる沿線住民にとって、延伸は果たして幸せなことなのか…



 函館延伸でこれから先の問題がくっきりと姿を現した感があります。