90632755.jpg 昨夜は桑田佳祐の番組が3つほどあった。新曲が22日に発売になっているのでそのプロモーションである。(ちゃんとチェックしましたよ。12月のコンサートに向けて予習しておかないと!)

 さて、音楽の話題。

 クラシックのコンサートを見たことのある人はある疑問を持つ。

 「指揮者って何やる人?」、と。

 ずっと昔、NHK教育のクラシック番組でこの話題が出て、あるオーケストラのコンサートマスターが、

 「いや、いなくても演奏は出来ると思いますが…」と妙に口ごもっていたのを記憶している。

 さて、この本「オーケストラ指揮法」はアマチュアでしかも合唱団の指揮者がプロのオーケストラの指揮をするお話。

 「指揮をしてみたい」と頼んでも相手にされない状態からなんとか指揮者オーディションに参加するところまでこぎつける。そこで筆者・高木善之氏の見たものは…。

 他の指揮者候補者がタクトを上げてもオケの楽団員は楽器を構えない、という予想外の光景。みんな音大の指揮科卒、いわば音楽エリートなのに。

 そして誰もオケの音を鳴らせないまま、筆者の番が。

 高木氏は「どうせ鳴らしてくれないんなら」と、それまでの候補者がしたような、自己紹介や「ここは強く、ここは弱く」という演奏指示を一切せず、いきなりタクトを振り下したそうだ。

 そしたら…

 オケが鳴った。

 いったん滑り出してしまうとタクトにあわせて「強く」「弱く」「鋭く」など思うままの音が出た。

 オーケストラの構成員は一人一人がプライドの高いプロの演奏家である。

 指揮者の要求が不明確だったり、リーダーとしての自信のなさなどを感じ取ってしまうと音を出さない。いや出せない。どんな音を要求されているかわからないためだ。

 クラシックコンサートの場合、演目ごとの練習はわずか2回。その2回で指揮者はどう演奏したいかを明確に伝え、オケはそれを理解しなければならない。

 つまり、

 指揮者に必要な資質とは、

 明確なビジョン(楽団員をもうならせる深い解釈)
 正確なタクト (楽団員を迷わせない技術)
 質の高い要求をし、決してバーを下げない(簡単すぎる要求はプロのプライドを傷つける)
 指示は簡潔に(楽団員にはくだくだしく説明しなくても理解する能力がある)
 評価は明確に(プロを納得させる明確でゆるがない評価)
 楽団員の意識、意欲を高揚させる(一つの楽器としてまとめ一体感を持たせる)

 など。

 …これ、全く経営者に要求されるものと同じではないだろうか?

 会社は毎日、長時間にわたる。しかも仕事の内容はほぼ同じ。

 オケの場合、コンサート、というはっきりしたイベントがあり、時間も2時間弱。しかも演目が毎回変わるという緊張感がある。

 この違いがあるので、漂う緊張感も変わってくるだろう。

 でも本質は同じだ。

 社長さんが「さあやるぞ!」と言うとき、

 従業員さんはさっと仕事をする体制になるだろうか?(楽器を構える?)

 そして…

 この本には続きがある。

 高木氏は合唱団では妥協を許さない厳しい指揮者だった。そして目標は全国優勝。しかしもう一歩のところでその栄冠を逃し続ける。

 そんな最中、高木氏は交通事故に遭う。

 手首は複雑骨折。ばらばらになった骨を針のようなもので固定しただけなので「うまくいったら茶碗くらいは持てるかも」。当然得意のピアノは弾けない。

 右足は「とりあえずつながっているがあとで切断する確率95%」。指揮台にも立てない。

 1年以上にわたる入院。遅々として進まないリハビリ。だいたいどんなにうまくいっても再び音楽の中に身を置くことはできない…。

 絶望と時間だけは有り余るほどあった、と高木氏は述べている。

 そして自問自答を繰り返すようになったという。

 「音楽が好きか」「なぜ好きなのか」

 「何のために音楽をやってきたのか」「コンクールで勝つためか」

 そこでだんだんと本当のこと、大事なことに気づいていきます。

 「音楽…。楽しいからやるんだ」「人生…いい会社に入ること、お金を得ることが目的じゃない、みんなを喜ばせることが人生の目的なんだ」、と。

 (ここの部分は私の筆力不足でどうにも伝えきれない。私がこの部分を読んだとき、涙を抑えられませんでした)

 そして奇跡的な回復をみせて合唱団の指揮者として復帰。「優勝至上主義」を変え、「楽しい合唱」に方針を掛け替え、コンクルールに臨む。

 その結果、あれほど遠かった全国コンクルール優勝を果たす。

 音楽が主題にある、ということもあってまるで一本の映画を見るような、素晴らしい本だ。

 高木善之著、総合法令出版、2007年8月刊、1,500円+税。

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 オーケストラを指揮するとき楽団員から「この部分は○○のように弾くべきでは?」という意見がでたとする。

 「そうですね」と受け入れると指揮者としての威厳が失墜する。

 「いや違います。△△です」というと楽団員のプライドが傷つき、演奏しなくなる。

 そんなときは「ではそれを参考にして」と、指揮を続けるという。

 事業再生は80%が感情だ、と書きましたがクラシックの世界はほぼ100%が感情、という世界なのでしょう。

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