白い恋人の騒動は販売再開にこぎつけたことで一段落しました。

 ミートホープ社の一件以来、全国各地で表面化している食品の偽装問題ですが、最近報道された船場吉兆のケースについてちょっと考えてみました。

 吉兆はもともと創業者の湯木貞一氏が一代で築いたお店です。湯木貞一氏のことは断片的にしか存じませんが、辻調理師学校を築いた辻静雄氏の伝記にその名が出てきます。


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 辻氏が代表的な和食のレシピを研究していたときのこと。吉兆で出していたはまぐりのお椀のレシピがどうしてもわからなかったそうです。

 大ぶりのはまぐりがお椀に一つ。これだけのうまみを出したあとのはずなのにぷりぷりとしている…。

 悩み抜いた末に辻静雄氏が出した結論は、

 「ダシ用のものと食べる用のはまぐりを別々に調理している(二つ使っている)」でした。

 その湯木貞一氏が晩年、辻静雄氏とともにフランスの一流レストランを食べ歩いたことがあるそうです。その時のことについて両氏が存命中にある料理番組で対談されているのを見たことがありますが、当時80歳を越えていたはずの湯木氏について辻氏が、

 「全部(フルコースを)召し上がるんです…」とあきれ気味に話していたのを記憶しています。

 これらのエピソードや、もともと料理屋の息子に生まれながら路線の違いから実家を飛び出して吉兆を創業したこと、茶道に傾倒しそこで財界人の知己を得たこと、上記のように新しモノに対する知識欲と工夫に満ちていたこと、それらが混然となって料理屋としての吉兆の成功につながったのだと思います。

 ひるがえって船場吉兆ではどうだったか。

 直接的には佐賀牛を但馬牛と偽ったことでモラルを問われていますが背景には、

 「調理場で作った以外のものを売り始めた」ことがあると思います。つまり、「自分たちの手で心をこめて作ったものでお客様を喜ばせる」という吉兆の大原則からはずれた時点でこの偽装問題が起こるのは時間の問題になっていた、思われます。

 委託生産した「明太子」がヒット。

 今回、賞味期限を偽装したとみられるプリンなども外部委託生産。

 ファッションビルに出店したお店ではランチにカレーを出した。(他の吉兆店が猛反発してメニューから外させた)さらにはレトルトカレーの生産も計画していた。

 企業として「これから何をしていくべきか」という議論は船場吉兆でもしていたと思いますが、「何をしてはならないか」があやふやだったのではないでしょうか。(「企業は何をしてはならないか」について以前の記事②キーノートセッションの項をご参照下さい)

 企業の業績が改善されれば次には企業として長く存続することがテーマになってきます。その時に「何をしてはならないか」は重要な視点になるのではないでしょうか。

 
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