西の空から燃えるような夕焼け雲が消えて、
辺りがすっかり暗くなる頃、建物の横から
小さな灯りがゆらゆら揺れながらチビタに近づいてきました。
まり子さんが懐中電灯を持ってチビタを探しにきたのです。
外に出ることが少なくなったまり子さんは、
玄関の戸を開ける回数も少なくなり、
チビタが家に入るタイミングを掴めないのでした。
でもチビタはひたすら待っているのです。
チビタは まり子さんの体調が心配になりました。
まり子さんは、時々病院に行きます。
悪いところが いっぱいあるようで、薬もたくさん貰ってきます。
この間はチビタの目の前で突然倒れたのです。
もう びっくり!
でも まり子さんは じきに起き上がりました。
最近はどっち側に倒れるかが分かる、などと訪ねて来る人に話しています。
今日は打ち所が悪かったと言って、腰をさすっていました。
玄関はいつも鍵が掛っているし、もしもの事があったらと思うと
僕は心配で仕方がありません。
ひと月ほど経ちました。
家にいろいろな人が訪ねて来るようになりました。
地域ケアプラザとか、介護支援とか、民生委員など、福祉関係の人たちに、
まり子さんは忙しそうにお茶を出しています。
みんなで話し合いの結果、お食事介護、お部屋のお掃除、ゴミ出しなどに
ヘルパーさんが訪ねてくることになったのです。
まり子さんは少しずつこの町や環境に慣れてきて、
いつまでもここで過ごしたいと、ヘルパーさんに話しています。
チビタも心を決めました。
もう脱走はしません!
これからは まり子さんを支えていきます。
そして、もしも・・・
もしも、まり子さんがまた倒れたら、
そして起き上がることが出来なかったら・・
僕はベランダからお庭に下りて、一目散に階段の方に回り、
三階まで駆け上がるんだ!!
そしておばさんの玄関の前で、
大きな声を出して
「にゃーお! にゃーお!」
と、おばさんに知らせるんだ!!
チビタは髭をピーンと張って
逞しい覚悟の顔つきに なっていました。
おしまい