飼い主のまり子さんに少しずつ異変が起きていました。
段々と忘れることが多くなったのです。
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約束をしたこと、片づけた場所、
特に今日が何曜日かを忘れてしまい、
決められたゴミ出しが苦手になってきました。
まり子さんは、 その事をとても気にしていて、紙に書きだしていました。
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生ごみ 月曜 金曜 プラスチック 火曜 缶 ビン ペットボトル 木曜 |
まり子さんが字を書くと墨の匂いですぐ分かります。
まり子さんは書道が好きで、テーブルの上には硯と墨がいつも置いてあり、
筆に墨をつけて楽しんでいました。
墨のにおいはチビタも大好きです。
まり子さんは漢字が得意で、他の事は忘れても漢字は覚えているのです。
覚えていることと忘れることが同じくらいあるけれど、
最近は忘れることの方が多くなってきました。
お部屋も片付けるのが苦手になり、荷物が床にも散らばっています。
引っ越してきたときの荷物が多すぎて片付けられないのです。
チビタも部屋を歩くときは荷物を跨いで歩きます。
チビタが心配なのは、お料理を作るのが億劫になったようで、
大福や、ケーキなどで 夕食を済ませることが多くなりました。
近所の人が心配して、ご飯やおかずを持ってきてくれます。
ある日のこと
「チビタ ただいま~~」
玄関の扉を開けるなり、まり子さんは大きな声で僕に声をかけてくれました。
今日は三階のおばさんとお食事に出かけたのです。
大好きな焼きおにぎりとサラダとスープを食べてきたそうです。
こんな楽しそうなまり子さんを、チビタは暫く見ていません。
チビタも なんだか嬉しくなりました。
「にゃー」
まり子さんの胸の中で幸せなチビタでした。
元気になった翌日の事
チビタはベランダから庭に飛び降りたついでに、
玄関に回ってマンションの階段を上まで登ってみました。
チビタにとっては、三度目の冒険です。
一歩一歩階段を上っていくと、一番上の五階で行き止まり。
見上げると一面の空。白い雲が浮かんでいました。
チビタが Uターンして 三階まで下りた時、
突然玄関の戸が開いて
、まり子さんが仲良くしている おばさんが出てきました。
チビタは びっくりして、急いで下りて一階で様子を見ていました。
すると、おばさんも下りてきました。
チビタは 慌てて ツツジの陰に隠れました。
おばさんは何処かへ出かけて行きました。
その時チビタは、ハッと気が付きました。
「チッ チッ」
と、お庭で誰かが僕を呼んでいるような気がしたのは、
三階のおばさんだったのだと。
つづく

