今度はハイミスが迎えに来た。


ハイミスの表情から、何かを読み取る事はできなかった。


三人とも黙って歩く。






コツ、コツ、コツ、コツ…

全員の足音が裁判所の廊下に響いていた。



トオルの残り香や呼吸した空気を吸わない!と、私は廊下からハンカチで鼻と口を覆って、お気に入りの洗剤と柔軟剤の香りに包まれながら足取り重く歩いた。


目線を上げると、見慣れた調停委員の二人の他に、眼鏡をかけて化粧っけのない若そうな女性が座っていた。

裁判官は次のスケジュールがあるので、と眼鏡をかけていた女性は書記官だった。


書類を読み上げるように、目線は手元のファイルを見ている書記官。


書記官→えー。さきほどまでおりました裁判官と、こちらのお二人(調停委員)が、相手方(トオル側)に婚姻費用の支払いを求めたところ、、、


そう言うと、ふっと私と笹木先生に目線を上げた。






書記官→月6万円なら婚姻費用として、毎月1日に支払うと言っておられました。
尚、月6万円には理由がある、と。
今年度から申立人が就労し、手取金額で月およそ12万円で年収換算150万円程度の収入が見込まれるからである、と。
更に、今後は児童手当もマナさんの口座に振り込まれていくはずだ、と。
相手方は、引越をして何から何まで自分一人でやりくりをしており、弁護士費用も含めると、収入から6万円以上は支払えない、と言っておられます。




笹木先生を見る。


笹木先生は、まっすぐ調停委員と書記官を見返しながら口を開いた。





笹木先生→月6万円では、到底納得できません。こちらの課税証明書は既に前回期日に提出してありますが、あちらからの課税証明書は我々の手元はおろか、裁判所にも提出されておりません。
しかも、あちらの言うマナさんの給料は見込み額です。本来であれば、お互いの所得に応じて計算されるものです。
見込み額以下になる可能性もあります。小さいお子さんがいたり就労条件の変化に伴い、やむを得ず今の職場を退職する可能性もあります。
引越をしたと言っておられますが、相手方が引越をしたのは相手方の自己都合の他なりません。
相手方は、こちらには同意もなく強制的に引越をさせられ、家具家電は一切持たせてもらえませんでした。
それを考えれば、更に上乗せした金額を申し立てたいと思っています。
言わせていただけば、相手方の収入とマナさんの短時間パート給料で、別居以前は家族四人で、貯蓄まで行える生活をしていたのです。
私どもは、まず8月から3月までの八ヵ月分は月15万円、4月から就労期間中による離婚成立月までは月10~12万円の婚姻費用を請求します。
裁判所が採用する現行の婚姻費用の算定表に基づく金額の最低ラインであるといっても過言ではないでしょう。
さらに、弁護士費用云々と言っておられますが、損害賠償訴訟を起こしたマナさんにとっては、相手方以上に弁護士費用はかかっております。月の手取り12~13万円で、自分だけではなく幼いお子さんを二人育てております。どれだけ負担が重いものなのか、その金額を聞くだけでもどなたにも分かると思います。
それではこちらとしては、更に上乗せ金額として、家具家電の購入費・国民保険と国民年金の料金・実際の医療費・お子さん達の転園と入園に掛かった必要経費、等々全て折半した金額も請求します。
金額にして、上乗せ金額は70万円程です。勿論、明細と領収書も保管してあります。
120万円、24万円、70万円、合計214万円です。






一気にまくしたてるように早口でピシャッと言い放つ笹木先生が頼もしく見えた。







若そうな書記官は、『やっぱりそう言うよねー』とでも言いたげな顔をして、ファイルを触りながら聞いていた。



ハイミス→マナさん側のおっしゃる通りだと思います。
とりあえず、その金額では納得できるはずもない、と伝えます。只、相手方は全く聞く耳を持ちません。
あちらは弁護士が一方的に喋り倒して、あとは「向こう(私達)が納得するよう説得してください。こっち(トオル側)は最大限の努力をしている。」というスタンスです。





フジキとトオル、二人まとめてぶっコ◻してやりたい。

と、フツフツ殺意が湧いた。







時間にして約10分もしないうちに、交替となった。







待合室で、笹木先生へお礼を伝えた



笹木先生→調停ですからね(笑)
裁判や審判では認められないような上乗せ金額も、もう吹っ掛けてやりましたよ(笑)
あっちがその気なら、こっちもその気でやります。もう綺麗に話をまとめるような相手じゃないですね。


ニヤリと笑う笹木先生。