またしてもハイミスが迎えに来た。
そして、またしてもハイミスの表情からは何も読みとれなかった。
さっきの私は、猫背がちに自信なさげに座ってしまっていたので、今回は胸を張ってギュッと腰に力を入れて、意識して背筋を伸ばした。
これだけでも、少しは頭がすっきりする。
苦笑というか呆れ顔というか…正面に座る調停委員の二人から私へ向けられた視線に、何となくトオルの言い分を感じ取った。
笹木先生→一応お聞きしますが(笑)あちらの返答はどうでした?(笑)
ハイミス→まぁ、、ご想像の通りの返答でした(笑)
汗だく→月6万円しか出せない・上乗せ金額を支払う義務は無い…と(笑)
もうね、そんなに言うなら離婚と婚費は不成立ということで、婚費は審判にしたらどうですか?改めて面会調停にすればどうですか?と我々が言っても、頑として拒否だそうです。
ハイミス→裁判官から「本日で調停不成立にして離婚訴訟をするつもりみたいだけど、訴訟であなたが不貞の有責配偶者だと見なされたらどうするおつもりですか?」と聞いた途端…態度豹変でしたもんね。
汗だく→そうそう。不貞と見なされたら離婚訴訟負けますよーって裁判官から暗に言われたから、調停続行したいです!面会調停を起こします!だもんね~
笹木先生→ふっ(笑)あちらに勝てる要素が無いですもんね(笑)
鼻でせせら笑った笹木先生、調停委員の二人は、ひとしきりフジキとトオルのモノマネをして再現劇をしていた。
トオルの口調は容易に想像がつく。
ホームページのプロフ画像しか見たことはないが、この裁判所内にいるフジキを想像するとイライラする。
子供達とトオルの面会についてはどう思っているのかとハイミスに聞かれた。
私は、連れ去りが不安だと調停委員の二人に涙ながらに訴えた。
頭の整理がつかず、泣きながら訳のわからない事を言ってしまったかもしれない。
自分でも抑えが聞かず、説明しようがない涙だった。
勿論、連れ去られてしまうかもしれないという不安や恐怖感からの涙もある。
だけど、実の父親に安心して会わせてあげられないまでになってしまった私とトオルの関係が悲しかった。
それにも関わらず、父と母の愛を求めているであろうアキとハルの心を思うと、止めどなく涙が溢れてきた。
面会についてはどうすることが子供達に一番良いのか、まだ自分には分からない…会わせたくないという気持ちが大きいかもしれない…と率直に言った。
ハイミス→面会調停が始まったら、ゆっくり考えていきましょうね。
次回まで日にちもあるし、自分と向き合って正直に考えて来てください。
汗だく→うんうん。子供の為の金払わねーって言うような奴に、俺なら絶対に会わせたくないね(笑)
俺の娘がマナさんだったら、遠くへ逃がしてるかもしんねーな(笑)
ハイミス→ちょっと不適切な言葉はただの雑談ですからね(笑)私達からは何も言いませんから、安心してくださいね。
笹木先生→じゃあ、さっさと次回期日を決めましょう(笑)それまでに我々も方向性と手段を考えます。
そして、課税証明書が6月には最新のものが入手できますので、裁判所と私どもに送付するよう強く言ってください。
次回期日の1週間前までに届かなかった場合、れっきとした配偶者であるマナさんが市役所でトオルさんの課税証明書を取得します、と伝えてください。
汗だく→そんなに忙しくて忘れるぐらいなら、もうマナさんに取ってきてもらえばいいのにね(笑)
ハイミス→郵送でも課税証明書は取得できるんだから、そこは強く言っておきます。裁判官も今から呼んで、課税証明書の提出についてしっかりと言ってもらいます。
ハイミスが電話で裁判官を呼ぶ電話をかけている間、汗だくが手帳を持ちながら調停室と待合室を2往復した。
笹木先生やフジキの都合と、トオルが課税証明書を確実に取得するためにも、次回期日は七月の頭に決定した。
私の非課税証明書も、6月に入ったら最新のものを取得して送付する約束もした。
まさか、調停に4回目があるとは、予想もしていなかった。
今回で終わると思っていたのに。
私達はもうトオル側へ何も言う事もないし、裁判官も私達へ話は無いみたいなので、そのまま帰ることにした。
いつも通り、笹木先生を車で事務所へ送る。
笹木先生と別れて、高速に乗った。
地元に近いサービスエリアでトイレに寄った後、新しい煙草を買った。
喫煙所に行くと、IQOSを吸わずに手に持って、着慣れていないのが丸分かりなスーツ姿の若い女性が一人だけいた。
新しいタバコを開ける私と目が合うと、気まずそうに「すいません…あの…煙草一本もらえますか?」と声をかけてきた。
これでよければ…と渡し、ライターも差し出した。
ライター貸してって言われるのはあるけど、煙草
IQOSの充電が切れちゃって…給料日前だから現金も全く無くて…と恥ずかしそうに笑う彼女の顔が幼く、そして可愛かった。
いくら断っても、お礼に100円払うと言われたので、そのまま使い古しのライターとタバコ5本を無理矢理渡した。
さっきのやさぐれた気持ちが、少しほぐれた気がした。
そのまま、少し彼女と雑談してみたらサナと同い年だった。
私→じゃあ妹と同い年だー
彼女→えっ!妹さん、何て名前ですかー?
私→妹はね、○○(旧姓)サナ。●△(高校)だったんだけど。
彼女→えっ!!○○サナちゃんのお姉さん!?
私→うそ!まじでサナの事知ってるの?友達?
彼女→私、サナちゃんの中学ん時の元カレの今カノでーす(笑)
私→えー!!
彼女→サナちゃん、◼◻タロー君と結婚しましたよね?
私→うん!そうそう!
彼女→タロー君の元カノが私の姉なんですよー(笑)
私→えー!!
彼女→世間は狭いですよね~(笑)
狭すぎて逆に怖い…((( ;゚Д゚)))
さすが地元(笑)
煙草の彼女と別れ、家に帰る。
サナに電話を掛けると実家で待ってると言うので、歩いて向かう。
玄関先の花をいじっている母の姿を見て、私は泣きそうになった。
庭いじり用のエプロンではなく、料理用のエプロン姿。
きっとサナとの電話を聞いて、それとなく玄関に出てきてくれたんだと思う。
お母さん、ありがとう