17日、兵庫県の氷ノ山国際スキー場で開かれたスキークロスのレースに参戦しました。氷ノ山はぼくがいつもモーグルの練習をしているハチ北高原スキー場と同じく兵庫県北部にあり、自宅から2時間で行けますが、今までに行ったことはありません。

 

 JABA(日本スノーボード協会)公認のスノーボードクロスの大会が17日、18日の両日開催され、17日のドリームクロス大会にスキーの部があることをスキークロス仲間から教えてもらったのです。

 

 今シーズンは雪不足で、もともとこの日に予定されていたモーグルの大会はとうに中止が決まり、翌週、翌々週のモーグルの大会も定員オーバーや中止でぼくの出場はありません。

 

 一方のスキークロスは、昨年初めて全日本選手権に出場したのが唯一の大会経験で、何をどうしたらいいのかわからないままです。とにかくクロスのコースを滑って経験を積む必要があるというアドバイスをもらっていたところだったので、即座に申し込みました。

 

 ところが、西日本にはスキーもスノーボードもクロスの練習環境がないこともあって、申し込み締め切りまでにスキーの部にエントリーしたのはぼく1人。完走すれば優勝ですが、いくら速くゴールしても最下位です。

 

 これじゃレースにならないし、ゲレンデを1人で滑っているのとさして変わりがないと思っていたところ、なんと浜松から加藤大二さんが当日エントリーで出場してくれました。

 

 加藤さんはぼくより9歳下の1966年生まれ。ぼくが昨年の全日本で完走してFIS(国際スキースノーボード連盟)のポイントを獲得するまで、FISポイントを持つ世界最高齢の現役スキークロス選手でした。ただし、ぽっと出のぼくと違い、スキークロスを始めて20年以上という大ベテランで、毎年、全日本選手権で活躍している本物のスキークロスレーサーです。

 

 昨年の全日本で初めて会ったときから前期高齢者スキーヤーのぼくのことを気にかけてもらっていたのですが、遠路はるばる駆け付けてくれたこの大会では、ずっと付きっ切りでスキークロスのマンツーマンレッスンをしてくれました。

 

 まずはコースインスペクション(下見)。スタート台の下から入って、横滑りかハの字のいつでも止まれるスピードで移動しながら、コースの形とバーンの状況を確認します。雪不足のためキッカー(ジャンプ台)やバンク(土手)、ウェーブ(連続するでこぼこ)といったセクション(特殊な地形)はなく、自然地形の起伏を利用してコースが設定されていました。

 

 スタート直後の直線で少し登った後は左へ90度のカーブ。右が下がっているのでしっかり体重をかけないと横滑りして外側に飛び出てしまいます。コースは雨でとけた雪が凍った上に新雪が乗ってパックされている状態で、表面が少しがたがたしています。続いて右に90度のカーブ。やはりコーナーの外側になる左が下がっているので流されないようにしなければなりません。

 

 というように、加藤さんがコースのチェックポイントを解説してくれて、リフトでは滑走姿勢やストックの使い方、ターンの方法、用具の選定まで、自分が競技人生で得た数々の技術と知識、体験を惜しみなく伝えてくれました。

 

 続く公開練習はスタート台から本番と同じように飛び出します。ストックを持ったままスタートグリップに手をかけて飛び出すのですが、スタート直後にいきなりつまづきそうになる障害物があります。スタートして少し下がって、タンクという横向きの溝を越えた後、ロールというこぶを越えて、奈落の底に落ちるような急坂を滑り降ります。

 

 スタートでタンク(凹)にスキーの先端を引っかけたり、その次のロール(凸)に乗り上げてしまったりしたら、そこでゲームオーバーです。ロールの向こうにできるだけ早くスキーのトップを落として、急坂をストックで漕いで勢いよく滑り降りる体勢を作らなければなりません。

 

 1回目、モーグルのいわゆる横向きの受けこぶを越えるのと同じ要領でやってみたら、まあまあうまくできました。加藤さんのアドバイスをもらいながら、1人だけで滑って、公開練習の最後は本番同様、2人同時スタートで滑りました。スタート台のわきにいた競技役員のスロープビルダー(コース係長)さんが合図をしてくれます。

 

 「スキーヤーズレディ」Skier's Ready

 「アテンション」Attention 

 「ゴー」Go

 

 加藤さんはチーターが駆け出すがごとく、目にも止まらぬ速さで飛び出していきます。年齢差以上にぼくよりも身のこなしが軽く、素速いようです。ぼくはスタートで出遅れたうえに、コーナーワークでも差をつけられてゴールイン。スノーボードの1回戦が終わったところで、もう1回、2人で同時にウォームアップランを滑って、いよいよ本番です。

 

 ぼくは赤のビブで、加藤さんは青のビブ。スタートの下でビデオカメラを構えている妻からよく見えるように、左端のゲートに入りました。加藤さんも遅れて右のゲートに入り、ストックのストラップに手を通して、悠然とスタートグリップを握りました。スタートゲートの前に板が立てられ、スタート準備完了です。

 

 「スキーヤーズレディ」Skier's Ready

 「アテンション」Attention

 

 加藤さんが勢いよく飛び出しました。それを見て、ぼくもあわててスタート。あまりにも巨大すぎて、しっぽを踏まれても気づくのに1分間かかると冗談で言われるステゴザウルスでも、もっと素速く反応するでしょう。一生懸命追いかけましたが、もともと加藤さんの方が速いので、その差は縮まらず、10馬身ぐらい遅れてゴールイン。負けましたが、楽しさしかありません。

 

 

 

 

 ぼくのスタートが遅れた原因は、もともと反応速度が遅いことだけではありません。公開練習のときには「スキーヤーズレディ」「アテンション」があって、その次の「ゴー」でスタートだったので、「ゴー」の声がかかるのを待っていたのすが、本番では板が倒れたらスタートなので、「ゴー」の声はいつまで待ってもかからないのだそうです。昨年の全日本選手権は公開練習の後、悪天候のため、1人ずつスタートしてタイムを測る予選だけで結果が決まったので、板が倒れたらスタートを経験していませんでした。

 

 スタート後は公開練習のときほど差が広がらなかったので、うまくスタートしていたら、ひょっとしたら10馬身の差が5馬身ぐらいの差になっていたかもしれません。なにごとも経験ですね。これでまた一つ、練習課題がわかりました。「スキーヤーズレディ」「アテンション」「板がばたっ」。スタートのイメージトレーニングで、脳の反射神経を鍛えます。

 

 スキーの部はエキシビションでしたが、表彰式があって、FISポイントを持つ世界最高齢の現役スキークロス選手が表彰台を独占しました。加藤さんは久しぶりの優勝だそうですが、ぼくは勉強でもスポーツでも仕事でも、順位がつくものでは、今まで3位が最高で、2位になったのは生涯で初めてです

 

 しかも、副賞まであって、大会スポンサーの大阪府豊中市にある三幸鍼灸接骨院の特別割引券をもらいました。ぼくよりも高い料金コースの割引券をもらった加藤さんは、阪神ファンなので甲子園に来たときに使おうかなと言っていました。

 

 加藤さんはこの後、翌日、新潟県のキューピットバレイスキー場で開かれるスキークロス大会に出場するために旅立って行きました。神出鬼没の長距離移動でレースを成立させて、ぼくのコーチもしてもらって、本当にありがとうございました。次の対戦では負けないようにがんばります。