白馬八方尾根スキー場での今シーズン初スキーの3日目(最終日)となった26日(水)は曇りでした。雪がうっすらと積もっていいコンディションです。初日こそ濃霧でしたが、2日目は快晴、3日目は薄曇りと、3日間とも練習ができて幸いでした。

 

 勤めがなくて、天気がよさそうな日を選んで来ているのだから、当たり前だと思う人がいるかもしれませんが、さにあらず。両親がショートステイに行く日は前月の初めに決まります。希望者が多い週末はベッドが足りなくて利用できないことも多く、どうしても外せない用事があるとき以外は平日の利用になりがちです。しかも、日数は限られています。今回、最高の天気の日に当たったのは、幸運としか言いようがありません。

 

 ゲレンデに上がると、当初の予定通り、まず緩斜面のフラットバーン(整地)でショートターンの練習をしました。ダイナミック・ポジショニング・ターンのショートターンです。

 

 連続するこぶはスキーヤーが細かいターンを続けたことによって描かれた軌跡です。スキーヤーが強く踏み込んだところがえぐれて低くなり、あまり強く踏まなかったところに雪がたまって高まりになります。。スキーヤーが同じタイミングでターンをして滑ることによってだんだんと軌跡がこぶに発達していきます。

 

 物理学ではこれを振動と言います。音波や電波の波形を見たことがあると思いますが、音や電気の振動の軌跡がサインカーブ(正弦曲線)として描かれます。

 

 サインカーブ(正弦曲線)は等速円運動をしながら前に進むことによって描かれる軌跡です。スキーのターンは円を描くのが理想とされ、一定の速度で前に進んだ場合には、軌跡がサインカーブになります。

 

 ターン弧が右に一番大きく膨らむところで、スキーヤーが右方向に加える力が最大となり、そこから前に進むにしたがって右方向に加える力が小さくなっていって、フォールライン(中心線)を横切るところでは、右方向に加える力がゼロ、左方向に加える力もゼロの中立(ニュートラル)の状態になります。

 

 そこから今度は左方向に加える力がだんだん大きくなって、ターン弧が左に一番大きく膨らむところで左方向に加える力が最大になります。左方向に加える力がだんだん小さくなってフォールラインを左から右に横切るところで、左方向に加える力がゼロ、右方向に加える力もゼロの中立の状態に戻ります。これの繰り返しが整地のショートターンです。

 

 整地の緩斜面で、できるだけ細かいピッチで、動きを素早くということを意識してショートターンをしていたのですが、緩斜面であってもターン弧を浅くするとだんだんスピードが出てきて、しまいには動作が追いつかなくなって横滑りで止めるしかないということになりがちです。

 

 そこで、ダイナミック・ポジショニング・ターンがしやすいロングターン(大回り)で動作を確認して、少しターン弧を小さくしていって、ミドルターン(中回り)にし、さらに小さくしてショートターン(小回り)、さらに小さくしてクイックターン(極小回り?)にする練習をしてみました。

 

 それまで板がばたついたりしていたのが、しっかりとスキーに体重が乗って、板が雪面に吸い付くような安定したターンになりました。大会当日も朝一番でこの練習をして、ダイナミック・ポジショニングの動作を確認しておくことが必要ですね。

 

 ロングターンからだんだんターン弧を小さくしていく練習は、限界スピードで滑る練習とともに、モーグルを始めたころに習ったことです。こういう基本練習は、ダイナミック・ポジショニング・ターンでも一般的なターンと変わらないと思います。

 

 エア台に雪がたまっていたので、スコップでかき出してエア練習の続きをしました。こぶの中のターンからエアへの入りの練習ですが、なかなかタイミングが合いません。エア台の手前の最後のこぶで体が振られて、エア台にまっすぐに入れず、キッカーをしっかりと踏めないことが多いのです。キッカーがちゃんと踏めてないと体勢が安定しないので、ジャンプも中途半端になって正しい空中姿勢がとれず、技が入れられません。結局、最後まで思うようなジャンプができずじまいでした。

 

 練習を終えてから気づいたのですが、エア台の手前に雪を寄せて作った最後の2こぶのこなし方に問題があったのではないかと思います。ぼくがモーグルコースを初めて滑ったのはちょうど20年前の1999年。その年の夏に参加したワールドモーグルキャンプ(カナダ・ブラッコム)で、「エア台の最後の2こぶまでにスピード調整を終えておく」と習いました。

 

 最後の2こぶになってからスピードを落としてエア台に入ろうとすると体勢が崩れていいジャンプができないということでした。今とはターン技術が随分違っていた20年前に習ったことですが、この基本は、現在の一般的なターンにも、ダイナミック・ポジショニング・ターンにも、変わらずに当てはまることかもしれません。

 

 午後3時には駐車場を出発して帰路につかなければならないので、午後2時には下山しなければなりません。ちょうど霧が濃くなってきた午後1時半にエア練習を切り上げて、凍ったエア台を鉄スコップで壊しました。

 

 そう言えば、前日にGSトレーニング中のぼくを追い越した外国人女性を今日は見なかったなと思いながら、下山準備をしていると、傍らに立ってキュートな笑顔でこちらを見ているではありませんか。思わず、片手を上げて「やあ、また会いましたね」と心の中であいさつしました。

 

 英語らしき言葉で何か言っていますが、何を言っているのかさっぱりわかりません。エア台の残骸を見ているので、ああ、そうか、エア台がなくなったということが言いたいのだと察して、両手を広げて肩をすくめる欧米人お得意のポーズで「ごらんの通り、きれいに壊しましたよ」と心の中で話しました。

 

 会話が成立したのかどうか、にこにこしながら「あらまあ」というような顔をして滑り下りていきます。背中に向かって、You are a good skier!(スキーが上手ですね)と今度は声に出して叫びましたが、返事がなかったので、通じたのかどうか微妙です。

 

 また会いましょうね、八方で。次はぼくが後ろから追い越すからね。腰高の素人滑りなのに、不整地の斜面をすいすいと滑り下りていく後ろ姿に心の中で語りかけたのでした。スポーツとしてのスキーができなくなったら、目指すは、にこにこしながら楽(らく)そうに滑る、あのノーブルスキーですね。