兵庫県のハチ北スキー場で開かれたSAJ(全日本スキー連盟)公認のモーグル大会2日目の8日、ぼくが出場したB級公認大会は好天の下で開催されました。前日の雨が上がって、霧も晴れましたが、ぼくの滑りはさんざんの雨模様でした。第1エアにたどり着くまでにラインを外してしまい、なんとか第1エアは飛んだものの、着地の後でスキーが外れてDNF(Did Not Finish途中棄権)の屈辱を味わいました。

 朝のうちこそ霧がかかっていましたが、公式練習が始まるころには、時折、青空ものぞく絶好のコンディションでした。公認大会でスーパーモーグルコースのスタート台から見る眺めは絶景です。残念ながらスタート台に立てるのは選手だけですが、この景色をモーグルをしない人とも共有したいと思うほど感動的です。

 天気が悪かった前日の公式練習では斜度を感じなかったのですが、晴れたこの日はなぜか急斜面に見えて、少し恐怖感を覚えました。しかも、全然、体が動きません。公式練習は2本だけにしておこうと決めていたのに、あまりにもリズムが合わないので、結局、制限時間いっぱい使って、4本も滑ってしまいました。

 何をチェックしていたかと言うと、スタートの入り方と第1エアの着地後のターンへの入り方、それからミドルの中盤のこぶのピッチ変化です。前日はこぶが浅かったのですが、この日は気温が上がったこともあり、1本ごとに掘れて、どんどん深くなっていきました。深いこぶを滑るのがモーグルなんですが、ぼくは深いこぶが苦手です。全然、タイミングが合いません。

 スタートは52番です。B級大会では出走順が遅くなるほど、こぶが深くなる傾向があります。ターンの後半でテールに体重を乗せている時間が長い選手がA級大会よりも多いので、テールが当たる部分がどんどんと沈んでいくのです。それが進行すると、こぶの受けの部分(手前側)が上を向いて、いわゆる「受けこぶ」になります。こうなると、テールが溝にはまってしまい、スキーのトップが真横を向いたり、上を向いたりして、ターンがしづらくなります。

 テールでこぶの裏側をこすって、スキーが回りすぎてしまわないようにするテクニックもあるようですが、ぼくはそういう練習ができていません。

 ぼくがいつも練習しているのは、こぶの向こう側に体を出して、スキーのトップでこぶの裏側(ゴールから見える側)をとらえるターンです。ブーツはお尻の下ではなく、お尻の後ろにあって、スキーが船のスクリューのように体の後ろで旋回しているイメージです。急斜面の深いこぶでできるかどうかはわかりませんが、そんなターンがしたいと思っています。

 そのためには、スタートでうまくドロップインできるかどうかが勝負です。こぶの向こう側に体を持って行かなければなりません。しかし、急斜面の深く掘れたこぶでは、どうしても恐怖心が先に立ってしまい、体を前に出すことができません。大切な大会本番なのに万一、ラインを外してしまったら、第1エアまでたどり着くことさえできなくなる、という気持ちが邪魔をするのです。

 この日のスタートはいつにもまして緊張しました。だいたい緊張しすぎるのは、自信がないからです。うまくいきそうにないから緊張します。不安が緊張を生み、その通り、不安は現実のものとなります。

 スタートのコールがかかりました。チームメートと出場している他の選手は、スタートでにぎやかな声援を受けます。ぼくは大津スキークラブからの単独出場。いつものことですが、ぼくがスタートするときには会場を静寂が支配します。「大津スキークラブ・佐々木泰造選手、スタンバイ」。しーん。

 ところが、この日は「ガンバ」と大きな一声。スタート脇に立っていたコース係長の「アニキ」(モーグル界では有名人です)でした。ありがとうございますと心の中でつぶやきながら、「アニキ」に向かって会釈しました。

 3本あるうち右端のラインを選択しました。スタート台から見ると、こぶの合わせ目をつないだラインが第1エア台の右端につながっています。ここを滑ればいいものを、何を思ったのか、スタートがうまくいきそうにないという不安のせいなのか、こぶの合わせ目から右に30cmほどずれたところからスタートしてしまいました。その結果、スキーが左に右にと大きく横に振られ、4ターン目くらいに、こぶが横を向いて落ち込んでいるところで、スキーが横を向いてしまい、ラインの外に飛び出してしまいました。ゲームオーバです。

 ターン点はなくなりましたが、気を取り直し、ジャンプターンで元のラインに戻って、第1エアは飛ぶことができました。小さなエアでしたが、一番簡単なスプレッドイーグルを入れて着地も成功。まっすぐターンに入ろうとしましたが、目を皿のようにして見つめても、こぶのラインが見えません。

 どこに入っていけばいいのか。みんながランディングの後、横滑りで減速したときに削られた雪がたまっていたようです。いわゆる「クジラこぶ」。クジラが横向きに寝そべっているように見えるので、こう言うのでしょう。クジラの背中に乗り上げて、左に大きくそれてしまい、あわてて右の本来のラインに戻ろうとしたところで、クジラの背中にたまっていたぐさぐさの雪のかたまりにスキーのトップが引っかかって片方のスキーが外れてしまいました。ここでDNFです。DNFは新聞記事などでは「途中棄権」と書かれますが、レースをそれ以上続けることが認められないので、事実上の「失格」です。コース脇のネットをまたいで越えて、コース外を横滑りで下りました。ぼくはDNFを何回となくやらかしていますが、本当に悔しくて、自分のふがいなさに嫌になります。

 昨年の大会でも、第1エアの下で同じ失敗をしましたが、一応、第2エアも飛んでゴールまで滑りました。今回は第1エアまでまともに滑ることができず、第1エアを飛んだだけで終わってしまい、恥ずかしい結果になりました。

 予選の残りの選手と、決勝の選手が同じラインをどう滑るかを見ていたのですが、第1エアの着地後、ためらうことなくスキーを真横に向けてランディングバーンを横滑りし、横滑りが終わってほとんど止まったところで、大回りでいったんコントロールゲートの外まで出てから引き返して、ミドルセクションに入っていました。

 うーん。そこまでしないとミドルのラインに入れないんですね。公式練習のときよりも、ランディングバーンがどんどんえぐれて、クジラこぶが大きく成長していたようです。決勝に残る選手は、そんな状況でも、なんとかしてそこをクリアしているんですね。

 モーグルを始めたころにレッスンで「最初のこぶは乗り越えてください」と教わったことを思い出しました。ハチ北のような急斜面では、「弾かれてラインを外して暴走したらどうするんだ」という思いがあるので、慎重になって下を見てしまいますが、そうすると、かえってクジラこぶしか見えず、ラインを見失ってしまうということになるのかもしれません。急斜面だからこそ、クジラこぶなど目もくれず、まっすぐ前を見て、第2エアに向かってまっしぐらに滑れば、あるいはうまくいくのでしょうか。

 ほとんど妄想に近いと思いますが、大会を反省しつつそんなことを考えています。春の軟らかい雪で、急斜面にわざとクジラこぶをつくり、乗り越えてラインに入る練習してみようと思います。