一つ前の記事「吸収動作の補足と訂正」の続きです。

 ぼくが今の滑り方をするようになったのは、2007年4月8日の八方スーパーモーグルがきっかけです。全くスキーが走らず、かなりみじめな滑りになってしまったので、なんとかスピードを出せる滑りをしたいと思ったのです。

 そのころインラインスケートを始めたばかりで、神戸・六甲アイランドの"g"スケートパークに行って、初心者対象のスクールに入っていました。そこで、GOODSKATES代表の安床由紀夫さん(安床兄弟のお父さんで、ぼくの1歳上)のプライベートレッスンを受けて、こぶで加速する滑りを教えてもらったのです。その後、安床兄弟の兄の安床栄人さんが教えていたハーフパイプスクールに入り、ハーフパイプの中で前進・後進を繰り返すフェイキーで加速するための「漕ぎ」を教わりました。今もたまにプライベートレッスンを受けています。

 こうして、ぼくはモーグルコースで、インラインスケートハーフパイプの滑り方をするようになったのです。一般的なモーグルスキーの滑り方とは、動作が根本的に異なります。

 普通のモーグルスキーの滑り方では、膝と腰を曲げたのが基本姿勢で、立った状態よりも腰を低い位置にキープします。背骨と大腿骨の傾きによってできる腰(股関節)の角度と、大腿骨と脛骨の傾きによってできる膝関節の角度は、どちらもだいたい110度くらい、直角よりも開きぎみの角度にして、ブーツと重心を結ぶ線が斜面と垂直になるようにします(平地では鉛直)。これが基本姿勢で、こぶの起伏に合わせて、主に脛骨の傾きを変えます。こぶの頂点ではかかとをお尻の方に引きつける(あるいは膝を前に倒す)ことによって脛骨を寝かせます。すねを抱え込むタックの動作です。こぶを乗り越えてからは脛骨を起こして膝の角度を大きくしていきます。つまり、こぶの起伏に合わせて膝から下のすねを振るわけです。

 このとき、同時に大腿骨(太もも)もおなかの方に引き寄せたり、離したりして、股関節の角度を変えるかどうかは選手によって違います。引退したカナダのジェニファ・ハイル選手は、股関節の角度を変えていました。股関節の角度を変えると吸収効果は大きくなりますが、上半身が前後に揺れやすくなります。横から見ると、上半身が前後にぎったんばったんと動き、「つぶされる」という状態になりやすいのです。

 そのため、最近のトップ選手のほとんどは上半身が前後にぶれないよう、股関節の前後の角度を固定して、膝から下だけを動かしています。
股関節の前後の角度、すなわち腰の曲げ具合を固定するのには、体幹(胴体)の筋肉を使います。後ろ側(背面)の筋肉だけを使うと、無理がかかって腰を傷めます。そこで、体幹の前側(おなか)の筋肉を使うのです。今多くのスポーツで体幹(コア)のトレーニングが重視されているのはこのためです。そのポイントは、骨盤を前傾させることにあります。骨盤が後ろに倒れていると、腰が丸まって、すべての負担が背面の筋肉にかかります。その姿勢を維持していると、やがて腰を傷めます。上半身の角度を一定に保つには、骨盤を前に倒しておなかの筋肉を働かせなければなりません。ハナ・カーニー選手やミカエル・キングスバリー選手、上村愛子選手の滑走姿勢を見ると、お尻が後ろにポコッと出ているのがわかります。おなかの筋肉を働かせるために骨盤を前傾させているので、お尻の上がやや反りぎみになっているのです。

 話が横にそれましたが、要するに、モーグルスキーの普通の滑り方の基本は、腰の位置を一定に保ち、足を動かしているということです。

 なぜ、モーグルスキーでは足を動かすのか。人間の体は、木の幹に相当する体幹(胴体)に近いところほど動かしにくく、体幹から遠くて、枝葉末節に相当する末梢部分ほと動かしやすくなっているからです。足で字を書くよりも膝で字を書く方が難しく、へそで字を書くとなると至難の技です。末梢に行くほど、細かい動きを素早く思い通りにすることができます。モーグルコースの細かいこぶに合わせて滑るには、腰や膝ではなく、足を動かすのが一番簡単です。モーグルスキーの普通の滑り方でも腰や膝を全く動かさないわけではありませんが、それは副次的な動きであって、ハンドル操作の基本は足にあります。

 インラインスケート・ハーフパイプの滑り方は、これとは全然違います。基本的には、ブランコの漕ぎ方と同じで、足は動かさずに腰を動かします。ブランコを漕ぐとき、足だけを動かしたのでは、体が折れるだけで振りが大きくなりません。足は動かさずに膝を曲げ伸ばししながら、前に進むときには腰を前に出し、後ろに進むときには腰を後ろに引きます。床の上に立って同じ動きでスクワットをしてみればわかりますが、腰の位置が前後、上下に動きます。

 この動きによってカービングによってスキーの方向を変えようというのが、ぼくが名付けたダイナミック・ポジショニング・ターン(Dynamic Positioning Turn)です。谷回りから山回り、山回りから谷回りへとスキーの方向を変えていくとき、ブーツに対する腰の位置(ポジション)が「前・上」と「後・下」の間を移動します。

 ぼくは最初、ハーフパイプやブランコで前に漕ぐときの動きでモーグルコースを滑ればいいと考えていました。それでも(2)の吸収動作と同じ原理でこぶを乗り越えることができるのですが、加速はするものの減速することができません。それが2009年の国体での暴走です。その年の暮れに膝を傷めて、2010年はほとんど滑れず、競技復帰した昨シーズンの初めの大会でも同じ滑りをして暴走しました。

 そこで昨シーズンの残りの期間は大会出場を取りやめて、ターンを基本から見直すことにして練習した結果、ダイナミック・ポジショニング・ターンという方法を発見し、この方法でロングターンができるようになりました。さらに、この動きでこぶを乗り越える方法もわかりました。

 昨シーズンわかったのは方法だけで、理屈はわかっていなかったのですが、今、理屈もわかりました。前に進むときの漕ぎ方ではなく、後ろに進むときの漕ぎ方をすればいいのです。ブランコが一番下にきたときに曲がっていた膝が後ろにいくに従ってだんだん伸びていき、一番後ろの高い場所にきたときには、立ち上がった姿勢になります。後ろにいくに従って体は前傾していき、かかとが上がっていきます。こぶの起伏に合わせてこの動きをしながら滑れば、かかとを上げて吸収動作をしながら、こぶをスムーズに乗り越えていくことができます。

 前に進むときの漕ぎは、ジャンプするときに使います。吸収動作とは裏返しの動きです。これも、ウォータージャンプや自分で作ったエア台で練習した結果、高くて姿勢の安定したジャンプができるようになりました。ただし、残念ながら、大会のコースでは飛びすぎてしまうので、そのままでは使えません。アプローチの手前で完全停止してからジャンプしてもでも大きく飛びすぎてしまうしまうのです。

 前進の漕ぎにしても、後進の漕ぎにしても、肝心なのは体(足と重心を結ぶ線)を斜面(ブランコでは台)に対して垂直に保たなければならないということです。

 妻にダイナミック・ポジショニングによるロングターンを教えたことがありますが、超緩斜面だったにもかかわらず、怖くてできないと言いました。

 連休の白馬で、同じ宿に泊まっていた初対面の人と朝食後、たまたま話をしました。話の成り行きで、ダイナミック・ポジショニング・ターンについて説明しました。人に説明したのは唯一にして初めてです。その人はテクニカルを受検中の上級者だったので、5分くらいの説明で理解してもらえました。

 その人の感想は「ありえない世界」。ぼくはバッジテストを受けたことがなく、「こんなターンはセオリーに反しているので、不合格でしょうね」と聞きました。「逆に考えられないようなものすごい高得点が出るんじゃないですか」というのが返答。「でも、自分にはできそうに思えない」と言っていました。

 普通のターンもそうですが、このターンでは、体を常に斜面に対して垂直に保たなければなりません。30度の斜面であれば、前に30度倒します。膝と腰を曲げて座った姿勢のときだけでなく、膝と腰をほとんど伸ばしきって立った姿勢のときもです。ここが普通のターンと違います。30度の斜面で座った姿勢から立ち上がって体を斜面に垂直にするためには、体を思いきり前に投げ出さなければなりません。それがなかなか怖くてできないのです。

 ハーフパイプは3~4mの高さのところで最大斜度の90度になります。前進時には仰向けで、後進時にはうつ伏せで、直立した壁に対して体を垂直にしなければなりません。3~4mの高さで体を水平にするということです。ぼくはそこまで上がることができないので、もっと立った姿勢にしかなりませんが、それでも体の傾きが50~60度にはなります。これを練習していると、30度の急斜面が平らに見えてしまいます。30度のこぶ斜面がイモ畑みたいに見えます。

 ところが、平均斜度22度ではるかに傾斜が緩い大会のコースが、ぼくの目には崖に見えてしまいます。その理由がわからなかったのですが、今わかりました。

 ぼくのターンでは、体を斜面に対して垂直にしただけでは不十分で、こぶの裏側に対しても垂直にしなければなりません。こぶの裏側というと、えぐれた深いこぶでは斜度が60度とか70度あります。それに対して垂直なので、意識としては、ほとんど水平になるところまで体を前に持っていかなければならないということです。そのこと自体は怖くないのですが、今までのぼくの滑りでは、大会のコースのように細かくて深いこぶだと、すぐに後ろにまくられてしまって、ポジションを前に維持することができず、ターンを続けることができなくなります。こぶを吸収することができず、コントロール不能になってしまうのです。ハーフパイプではなんでもない60度や70度の斜度が怖く感じるのです。

 そこで、今シーズンの課題は、細かくて深いこぶでも、後ろにまくられることなく、ポジションを前に移動することができるショートターンの方法を見つけることでした。それが今回の連休の合宿最終日にわかったのです。

 普通のターンでは足を動かして、腰の位置は変えないのですが、ぼくのターンでは、足は動かさずに腰の位置を変化させます。普通のターンで腰を前に出して立ち上がったり、腰が後ろに引けてしまったりするのが厳禁なのに対して、ぼくのターンでは、足を動かすのが厳禁です。前後方向にも左右方向にもです。足を前後に振ったり、左右に振ったりしてはいけないのです。さらに膝を左右に動かすことも厳禁です。アンギュレーション(外向傾)によって角付けを行うために、膝を左右に動かすと、下手をすると、膝に無理な力がかかって、ぼくのように変形性膝関節症になる恐れがあります。動かすのはあくまでも腰だけです。それを徹底した結果、答えが見つかりました。

 ぼくのターンがいかに普通のターンと違っているか。簡単に言うと、モーグルスキーのセオリーから外れた「間違ったターン」です。

 もう少しかっこよく言うと、普通のターンとはパラダイム(考え方の基本となる枠組み)が違っています。今までのターンとは別次元にある異世界のターンというわけです。このターンで滑るためには、すべての動きをこの世界の法則に合わせなければなりません。一つでもできていないと、どっちの世界でもない初心者のターンになってしまいます。それが今までのぼくの大会での滑りでした。考え方を根底から覆し、すべての動作を逆にしなければなりません。

 まだ完成したわけではないので、手前味噌の理論解説はこのへんにしておきます。