それは遡ること1ヶ月前、ちゃんとした体育の授業で50mを測った時のこと、
「小林、お前全国に行って見ないか?」
「は?」
「50mのこのタイムは速い。」
「それは分かってますよ。」
「それは学校内で速いってこと、だろ。そうじゃなく全国大会に出れるくらい速ってことだ。」
「そこまで速いんですか?」
「前の教え子で全国に出た奴がいたんだが、そいつのタイムとほぼかわんないんだ。」
「でも昔の話ですよね。」
「あぁ、でもこのタイムなら陸連に送れば、全国大会への出場権利、手に入るかもしれないぞ。」
「そん時は教えてください。」
「りゅー、速く来いよ。」
「山口が呼んでいるみたいなのでこれで。」
「じゃあ、そん時はな」
「ハイ。」
てな会話があったわけだが、
2週間ぐらいたっても連絡がこない。
そのため諦めていたのだけど、まさか
忘れていた今日、このタイミングでくるなんて。
「こちらも本校から、全国に参加するような選手が出るとおもっていなくてね。だからその驚きはよくわかるよ。
で、龍輝くん。参加してくれるよね。」
「....ちょっと考える時間をもらえませんか?」
「なぜ、こんなこと滅多にないじゃないか。」
「校長先生だからですよ。滅多にないことだから出たいんですが、そんな簡単に出ることに決めていいのかわからないんですよ。」
「それもそうだね。でも期日が迫っているので、明日までに決めてもらえるかな?」
「わかりました。では。」
「なるべく、良い決断をお願いするよ。」
「はい。失礼しました。」
そういっておれは校長室をでて、体育の授業へ向かおうとした。
その時に授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あーあ、参加できなかったな。」
そう独り言を呟いていたら、向こうから勇介や麗菜とクラスメートの笹木一也の姿が見えた。
「りゅー、話は終わったのか?」
「ああ。」
「ところで、どんな悪いことをしたんだ?」
「お説教じゃない、別のこと。」
「別?」
「そう。ところで勇介はさぁ、おれに全国にでて欲しい?」
「何の話だ?」
「さっき呼ばれた時、陸上で全国にでないかって言われたんだ。」
「そうなのか。俺は別にどっちでもいいよ。」
「麗奈は?」
「うーん。でて欲しい。」
「何でちょっと考えたの?」
「だって、全国に行くと、リュキが遠くなる気がしたんだ。けどすぐに追いつくからいいんだ。」
「そうか。」
「なんか悩むなんてお前らしくないな。」
「そうか?」
「ああ。そんなに悩むなら親に相談しろよ。」
「そうだな。けど今、学校にいるなら学校にいる人になんかアドバイスがもらえる気がしたんだ。」
「それでまだまよってるのか?」
「ああ。.....親に相談してみるとするよ。」
「それがいいよ。12年しか生きていない小学生よりも、何十年も生きてる親にきいたほうがいいアドバイスをもらえるよ。」
「そうするよ。」
「じゃあ、速く教室へ向かうぞ。」
「ああ。」
「分かったよー。」
「...」
そして授業も終わり、やる事もないので、どんどん家に帰った。
「ただいま。」
その言葉を聞くと、いつもすぐに返事を返してくれる。
「おかえり。今日は早いじゃないの。」
やっぱり。
これがうちの母親、咲子
32才なのだが、とてもそうは見えなく、20才といっても通用する顔である。
昔はレディースのリーダーをやってたらしく、今でもその人たちが訪ねてくる。その時は魔女と呼ばれているが由来は知らない。
そんな謎の人が俺の母である。
「お母さん。」
「何?」
「今日、おれ、陸上で全国に出られる権利を手に入れたんだ。」
「すごいじゃないの。」
「その権利で全国に出るべきかな?」
「いーい、やらないで後悔するならやったほうがいいでしょ。」
「でもさ。」
「それに、怖がっていたらなにも始まらないのよ。
ハリネズミのジレンマって言葉があるの。ハリネズミは相手に針が刺さってしまわないかと心配で、孤独に過ごすのよ。
今のあなたのように怖がっていたら、全国の大舞台をしらずに過ごしてしまうのよ。
それは大変そんな事なの。
負けるかもしれないけど、それでも得る物のほうが多いはずよ。ね。」
さっきの麗奈の言葉と今のお母さんの言葉がおれのこころに詰まっていった
不安の塊をとかして行った。
そうだよな。諦めるよりやった方がいいに決まってる。それに俺は遠くにいっても孤独じゃない。あいつらがすぐ追いついて来るさ。
やってやる。待ってるよ全国。
「龍輝、決まったね。」
「ああ。」




俺は今日も学校にきた。
ちょうど今は、出欠を取ってるみたいだ。おっ、俺の番が来たみたいだ。
「小林龍輝くん。」
担任が事務的に聞いてきた。
「はい、元気です。」
俺も普段通り返して今日もまた一日が始まった。
改めて、俺の名前は、小林龍輝(こばやしりゅうき)。
静岡県にある、武岡小学校に通う6年生だ。
両親ともに健在、友人沢山、成績中の中、性格に若干の問題あり。
先生達のつける評価で言うならこんな感じだろう。
性格の問題っていうのは後々説明するにして、それ以外は普通の小学生だと思う。
あっ、もう一つ、特技ははやくはしれること。
この二つだけが俺の変わってる点かな。
「おい、りゅー。何考え事してんの。」
(この声はあいつかな。)
後ろを振り向くとそこには、「あいつ」こと山口勇介(やまぐちゆうすけ)がこちらに向かって来ていた。
勇介とは、保育園のまだ記憶がはっきりしてない頃から一緒にいる。
クラス一のお調子者のくせに、
クラス一の学力を持つ男だ。
色々と問題ありな生徒なのにこの学力なので担任も評価がし辛いらしい。
「どうした、親になんか怒られたのか。」
と勇介がいつもの冷やかし声で言った。
そう言われた俺は、
「馬鹿言え。おまえじゃないんだ。
そんなことでいちいちクヨクヨすると思うか?」
そう切り替えしてみた。
それを
「しないな。」
とバッサリと勇介の一言に俺は切られた。
(あっさり否定するなよ。)
「まあいい。ちょうど話したかったところ.....」
と話をしようとしたら、後ろから、
「リュキ、ユー、何話してんの?」
と女の子が話しかけて来た。
「麗菜か。別に対したことじゃないよ。あれ、優菜はどうしたの?」
と俺はその女の子こと麗菜に聞いてみた。
「風邪だって、昨日騒いだでしょ。
あのあと、パタンとベッドに倒れたかと思ったら、体がだるいだの。言い始めてさぁ。」
麗菜はそう答えて来た。
「そりゃ、大変だったなぁ。」
とおれはこのこの事を考えながら答えた。
この人の名前は、山里麗菜(やまさとれいな)。
学校一の美少女で双子の妹、優菜がいる。
クラスの委員長で面倒見もよく性格もいいので学年で狙っている奴は数えきれないくらいだ!
ただ勉強が苦手でドジなのが欠点だ。
(しかしそこが更に萌えるらしいと前誰かが言ってたような。)
妹のほうは優菜(ゆな)と違って勉強は得意なお嬢様タイプの奴だ。
成績は勇介についで2位、いつも勇介に抜かされるしかしそれに対して怒ったことは一度もなく、とても優しく物しずかだ。
しかし、それは学校での話。家ではうるさいくらいに騒ぐ。そのため何度も麗菜が注意するが結構聞かないらしい。
そんな奴がそれ以上に騒げば体力のヘリも激しいから風邪も引くわけだ。
この3人プラス俺を含めた4人組がクラスで一番発言力がある。
「それで話って何だ?」
勇介が改めて聞いてきた。
「いや、いいよ。それより次、体育だぞ、何やんのかな?」
体育は楽しみだが、次、なにやるかは前回聞いてなかったので、勇介におれは聞いてみた。
「先生が陸上って言ってたぞ。」
と勇介はきっちり答えてくれた。
「まじか。」
と俺は喜びが抑えきれない声で聞きかえしてみた。
「ほんとうだよ。うちも聞いてたし。」
麗菜がそれに応えるような、明るい声で、返事した。
「今回ぐらい皆を楽しませろよ。」
と勇介が笑ながら言った。
おれも笑いながら
「分かってるよ。」
と言った。
さっきも言ったが、俺は陸上に関してはかなり速い。
皆と50メートル走れば1秒差が出る。
楽しませろよ。と勇介がいったのは
体育が陸上と名のつく鬼ごっこをやり、俺はいつも鬼をやるからだ。
「じゃあ着替えて行こうぜ。」
勇介は時間に気づきそういった。
「ああ。」
俺は愉快な気持ちを隠す事なくそう答えた。
悠介はニヤニヤしていたが、気付いたように
「あれ、麗菜はいったのか。」
と言った。
「まあ、女子は着替えるの遅いしな。」
俺は急ぎ着替えながらそう答えた。
そしたら、
『ピンポンパンポン』
「生徒の呼び出しをします。
6-1 小林龍輝くん。
校長室まで来てください。」
と教頭が俺に呼び出しをかけた。
(何だ。おれまだ校長室に呼び出されるほど悪い事してねえぜ。)
その放送を聞いた勇介は
「いってこいよ。」
と楽しげに言った。
俺は体育にでられない不満を抱えながら
「せっかくたのしもうと思ったのに。」
と気分悪げに言った。
「まあおれが楽しんで来るよ」
と勇介はあいもかわらず楽しげに言った。
「ハッ」
と俺は苦し紛れにそう答え教室をでた。
俺は、
(何かしたか?)
と思いつつ、しょうがないから校長室に向かった。
校長室の前にたった俺は、
『コンコン』
「小林ですけど。」
と挨拶をした。
すると中から、
「入ってください。」
と楽しげな校長の声が聞こえた。
なので、ドアノブを
『ガチャ』
と開け、
「しつれいします。」
とありきたりな挨拶をして、
中に、緊張感漂わせながら入った。
「おはようございます。」
と俺は校長の楽しげな表情を気にしながらいった。
「おはよう、よくきてくれたね。」
と校長は楽しげな表情のまま言った。
「呼び出しを受けたら誰だって来ますよ。」
と俺は、頭に疑問符を乗せながら答えた。
「あはは、そうだね。」
と校長は笑いながら答えた。
どんどん話を終わらせ、帰りたい俺は、
「来てそうそう、で悪いんですけど何で僕は呼ばれたんですか?」
と早速切り出した。
「それはね、君が全国小学生選抜陸上大会に招待されたからだ!」
校長は最高の笑みを浮かべながらそう答えた。
「えっ。」
俺は、その一言に思わず声がでてしまった。
そしてその時、校長のこの一言によって、俺の人生が変わった。





「時には壁がある。」
と言っても、本物の壁ではなく、
そういうイメージを持てという意味らしい。
「壊したり、乗り越えることで、つぎの世界へ行くのか、
それとも、そんなことできないと諦めるのか。
どっちにしたっておまえ次第だ。」
そしてそう付け加えられた。
前、そう前まではわからなかった。
けれど今なら、その意味が解る気はする。
時の壁、ちっとやそっとでは壊したり登ったりすることはできやしねぇ。
けれど、その先の世界は変わるんだ。
変わるんだ。
壁を超えられた事で、解ることは山ほどあった。
自分の世界の狭さ、
超えなければ気付かなかった。
諦めていたら、満足していた。
超えるためには、沢山のものが必要だった。
大きな自分、良き指導者、
家族からの協力、
そのおかげでおれは練習を、集中してできた。
あいつからの愛、
そのおかげで、おれはかけがえのないものを手に入れ、それを守れるよう大きくなった。
友達からの友情、
それを手に入れたおかげで、俺の背中が大きくなった。
ライバル
そいつがいたおかげでおれはより高いところに行くための道標を見つけられた。
自分の翼となってくれたかけがえのないもののために 、今日、おれは走る。