日本ラグビーがティア1の仲間入りを果たすために | Stadiums and Arenas

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スポーツ観戦が趣味の筆者が、これまで訪れたスタジアム・アリーナの印象を綴るブログです。


ラグビーワールドカップ2019が終わって、早くも1ヶ月近くが経ちました。ホスト国の日本代表がベスト8に入ったことで地元は大いに盛り上がりましたが、日々いろいろなことが起こるにつれて少しずつ過去の記憶となりつつあります。

そして、時間は戻りも止まりもしないので、あの素晴らしい大会が終わった後でも新しいシーズンは必ずやってきます。すでにトップリーグの下部にあたるトップチャレンジリーグと、全国大学ラグビー選手権は始まっており、年末年始の時期には全国高校ラグビー大会も始まります。高校と大学の大会はいずれも1月に決勝を迎え、そのころにはトップリーグが開幕。最後に、2月にはサンウルブズの最後のスーパーラグビーのシーズンが始まります。もし日本のラグビー界が、この間の大会よりもさらにもうワンランク上を目指したいのであれば、ここで足を止めてはなりません。ワールドカップでできた機運を逃さず、更なる高みを目指さなければ。

選手1人1人の状況打開能力で海外のチームに劣る日本代表は、ワールドカップを迎えるにあたって大会7ヶ月前から入念にチーム作りをはじめ、弱点を補うために必要な運動量と組織力を徹底的に磨き上げてこの大会に挑みました。それが実り、大会では格上のアイルランドスコットランドを破って4勝を挙げ、ベスト8に入るという快挙を成し遂げました。

一方で、個々の状況打開能力で劣るという弱点は、大会中様々な場面で顕著に表れていました。ブレイクダウンでの力試しではグループステージの格上には後れを取りましたし、サモアにも苦戦を強いられました。タックルでぶつかっても相手に破られるシーンも目立ちましたし、今回挙げた4勝はいずれもギリギリの攻防を制して得たものでした。その勝利は称賛されてしかるべきですが、準々決勝で対戦した南アフリカとの戦いでは、現在の選手個々の能力ではベスト8が限界であることが浮き彫りになりました。本当の優勝候補が、本気で勝ちに焦点を当ててくるような試合に勝ちたいのであれば、ワールドクラスでも通用する選手達をチームにそろえなければなりません。

それはすなわち、日本ラグビー界が本格的にティア1の仲間入りを果たせるだけの実力をつける必要があるということです。ティア1の国に対して4年に1度の大会で勝つのではなく、常に勝てるようになること。ティア1の国を破っても大番狂わせと言われないようになること。地元開催の大会で得られた有利なスケジューリング、地元の大歓声、そしてそれに影響された審判の好意的な笛がなくても、勝てるようになること。それができるようにならなければ、さらなる高みにたどりつくことはできません。

まずは、ベスト8入りを果たしたジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチが契約継続となったのは朗報でした。ニュージーランドなどの他の国も興味を示していたという報道もあったので、よかったです。

ですが、チーム強化を図るには、新しい世代の台頭が必要不可欠かと思います。この間のワールドカップのレギュラーは、20代後半から30代前半の選手達が多かったので。38歳のルーク・トンプソン選手が出場したことが注目を集めましたが、堀江翔太選手や田中史朗選手ももう34歳。次の大会には出場できないだろうとは選手達が自ら言っていました。トライゲッターとして活躍した福岡堅樹選手も東京オリンピック後に引退することを表明しています。今大会、チームで絶大な存在感を放った選手達の後釜を探さなければならないのですから、大変です。

去り行く選手達の偉大さが目立ちますが、だからと言って残された選手に希望がないわけではありません。今大会抜群の存在感を見せた姫野和樹選手は、まだ25歳。十分、次のワールドカップで代表を引っ張ることができるのではないかと思います。フロントローの力自慢、具智元(ク・ジウォン)選手や、スタンドオフのバックアップとして経験を積んだ松田力也選手も姫野選手と同い年ですし、ロックの中核となったジェームズ・ムーア選手や、ウイングで快足を飛ばした松島幸太郎選手、堀江選手のバックアップを務めた坂手敦史選手も26歳。スクラムハーフの流大選手も27歳で、今大会でチームに貢献した選手達には、次の大会も年齢的に十分狙える選手達がたくさんいます。

また、今大会は出場機会を得られませんでしたが、23歳のアタアタ・モエアキオラ選手や木津悠輔選手には、今回の経験を活かして次回や次々回のワールドカップでも中核を担えるような選手になってほしいです。そして、日本ラグビー界の将来はトップリーグや大学にいる彼らぐらいの年齢の選手達にかかってくるわけですから、この世代には頑張ってほしいです。

長期的な視野から見て、日本がティア1入りを果たすための最大の課題は、育成だと思います。現実問題で選手1人1人の能力で世界の強豪国と同じ水準にないことは明白です。20歳以下の大会では、強豪国との力量差をさらに明白に見せつけられています。育成の場に携わっている人達の中には高い意識を持って取り組んでくれている人がたくさんいますので、それでも上手く行っていないのは、環境が整っていないからだと思います。

報道を見る限り、日本ラグビー協会は本格的に日本ラグビー界のプロ化に向けて動き出しているようですが、私もこの動きを支持しています。企業ベースのチームでは、Jリーグのチームのように下部組織を持つことができませんでしたが、プロ化すればこれが可能になるので。チームの資金と人脈を使って優れた指導者を世界中から探し出し、ラグビーに集中できる環境を作り、高校や大学のラグビー部ではなかなかできない海外遠征のようなことも出来たらいいのではないかと思います。日本の育成がいいという評判が広まれば、海外の逸材も日本に集まってくるのではないかと思いますし。みんながみんな日本代表を選んでくれるとは限りませんが、分母が増えればいい選手が日本代表に入ってくれる可能性は増え、代表の強化という意味にも役立ちます。

地域密着型のプロチームがスポーツの普及という意味でどれだけ有効かは、サッカーやバスケの例ですでに実証済みだと思うので、普及という意味でも非常にいいと思います。もちろん、プロリーグは最低限の一般の関心がなければなりたたないので、そういった意味で簡単に実施できるものではないのですが、ワールドカップを受けて一般の関心は高まっていると思うので、そのハードルも超えることはできると思います。

報道では、プロリーグは2021年秋の開催を目指し、2020年秋にはプレ大会を行うつもりだとのこと。妥当なスケジューリングだと思いますが、ワールドカップで始まった熱をとどめておくためには、出来るだけ早くプロ化してほしい。できるなら2020年秋から本スタートしてほしいと思っていますので、早められるのであれば早めてほしいです。

ただ、どちらにしても新しいリーグが始まる2020年秋までは1年間も空くわけで、その間に今回のワールドカップで見せたラグビー熱が冷めないよう、努力をしなければなりません。まずは、国内の大会を精一杯しっかり宣伝してほしい。お客さんがいっぱい入るように盛り上げてほしいです。

そのためには、2月から行われるサンウルブズの戦いぶりが大事になると思っています。2016年にスーパーラグビーに参戦したサンウルブズは、過去3年間での成績が良くなかったため、現段階では2020年シーズンを最後に大会から除外されることが決まっています(残留交渉も行われているようですが、あまり状況は芳しくないようです)。ですが、サンウルブズがスーパーラグビーに残っていられる最後のシーズンで、集められる限りの人材を集め、彼等が5月まで続くスーパーラグビーでの戦いに集中できる環境を整え、南半球の強豪達を相手に勝ち星を重ねることができれば、ラグビーワールドカップで得た「にわか」ファンを再度ラグビー場に呼び戻すことができると思います。強豪チームに日本のチームが挑むという構図は、一般の関心をラグビーに再度引き寄せるのに十分だと思うので。逆に、上手く行かないと機運がしぼんでしまうかもしれません。スーパーラグビーを適当にやってしまうと、せっかくワールドカップで生まれたラグビー熱が冷めかねず、日本ラグビー界全体にとって良くないことになるのではないかと思います。

11月26日に発表されたサンウルブズの第1次メンバー15人の中には、ワールドカップを戦った代表選手はいませんでした。ワールドカップが終わって3ヶ月ほどでスーパーラグビーを戦わせるのは負担が大きいという判断だそうです。また、今年はトップリーグがスーパーラグビーと同じタイミングで行われますので。こういった状況を見て、先行きの不安を表明するメディアも少なくありません。確かに、少し日本ラグビー界のお偉いさん方のスーパーラグビーに対する関心の弱さが見え隠れしているところは不安です。スーパーラグビーがどれだけのチャンスなのか、わかっていない人が多すぎるような。

ただ、これまでの4シーズンは、日本のスター選手達をプレーさせることにこだわりすぎて、トップリーグとサンウルブズをシーズン中に行き来した結果、両方でのパフォーマンスが中途半端になって、サンウルブズもなかなか勝てませんでした。いっそのこと、トップリーグのチームに所属していない選手達だけでチームを編成し、シーズン前の早い段階から組織力を磨き上げて挑むというのもありだと思います。それであれば、12月の中旬にはメンバーの大半を定めて、年明け早々には本格的にトレーニングを始めたいところですね。

例年6月には、各国の代表テストマッチ月間が設けられますので、ワールドカップの後で日本代表が試合をするのはこの時期になるかと思います。この時期は、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ(イギリス・アイルランド4ヶ国合同チーム)が4年に1度行う南半球ツアーが行われることも決まっていますので、日本代表も試合ができるように取り計らってみてほしいです。イギリスのラグビー界では、ライオンズに選ばれることはワールドカップでプレーすることと同じぐらい名誉なことなのですが、今回のワールドカップの結果を考慮して日本ならばライオンズと試合をする格を有しているとみなしてくれるかもしれません。そしてそれは、日本ラグビー界にとっても名誉なことになると思います。

また、来年8月に行われる東京オリンピックの7人制ラグビーに向けた準備も大事です。単にチームを強くする必要があるだけでなく、大会までにラグビー界がちゃんとこれを盛り上げなければなりません。オリンピックはラグビーだけの大会ではないので、ちゃんと宣伝しないと一般のスポーツファンの関心を引くことはできませんので。

12月末からの国内大会、2月からのスーパーラグビー、6月の国際テストマッチ期間。そして8月の東京オリンピックでの7人制。これらに1つ1つしっかりと取り組み、コンペティションのレベルを高く保つと同時に、宣伝や盛り上げにも力を入れる。そうすれば、ワールドカップで生まれた熱を保ったまま、国内ラグビーのプロ化につなげることができると思います。

この度のワールドカップでの活躍を受けてスーパーラグビーの統括団体であるSANZAARが、サンウルブズの2020年以降のスーパーラグビー参加継続を検討しているとの一部報道があります。確かに、ラグビー最高峰の戦いを日常的に肌で感じることができるこの大会に加わり続けることができれば、それが日本のラグビー界にとって有益であることは間違いありません。

ですが、私は日本のラグビー界が一丸となってサンウルブズをスーパーラグビーで勝たせるという強い意志を示せないのであれば、この申し出を受けるべきではないと思います。サンウルブズが日本の国内ラグビーにおいて最も優秀な選手を集める権限を与え、そして選出された選手達はトップリーグの所属チームではなくサンウルブズでの活動を最優先させる。コーチングスタッフにも、スーパーラグビーのシーズンが始まる数ヶ月前からチームの準備ができるような環境を提供できなければ、とてもではないですがサンウルブズはスーパーラグビーでは勝てません。実際、それができなかった2016年からの3年間では、日本の選手達がトップリーグとスーパーラグビー、そして日本代表を行き来する形になってスーパーラグビーに集中できず、サンウルブズはスーパーラグビーで負け続けました。もし2020年以後もスーパーラグビーに参加するなら、サンウルブズを日本ラグビー界のプライオリティーにするくらいにしないと、また4年後に大会から除外されるでしょう。

問題は、サンウルブズには所属している選手やスタッフ全体に給料を払うだけの資金力がなく、形式上はトップリーグのチームや日本代表にから所属している選手やスタッフを貸してもらうという形でしかチームを運営できないということです。この形だと、選手達に給料を払っているのはトップリーグのチームと言うことになるので、選手達としてもトップリーグのチームでの活動をないがしろにはできなくなり、スーパーラグビーに集中することができない。所属チーム側も、自分達が給料を払っている選手達が違うチームでプレーすれば当然不満に思うでしょうし。2020年シーズンの1回きりなら、日本ラグビー界のためにトップリーグのチームが協力してくれるかもしれませんが、それ以降もスーパーラグビーに参加するのであれば、この辺りをきちんと整理しなければなりません。

今後スーパーラグビーに残るか残らないかは不透明ですが、どちらであっても日本のラグビーがティア1を目指すのであれば、そのレベルの相手に日常的に渡り歩けるだけの選手を育て上げるために国内のコンペティションを活性化させなければなりません。そしてそのためには、国内大会のプロ化は不可欠だと思います。そういった意味で、色々課題はあると思いますが、日本のラグビー界が舵を切ろうとしている方向が間違っているとは思いません。2023年のワールドカップの時までに日本が名実ともにティア1の仲間入りを果たせるように、日本のラグビー界が次の4年間を過ごしてくれることを、心から願っています。

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