「オーラヴエノスディアス」
不意に聞こえた声。
一瞬、私の思考が停止する。
譜面に目を離し、顔を上げるとユーフォニアムパート三年生のK川先輩がいた。
深緑の太めのズボンに黒いTシャツ。
彼はいつも同じような格好をしている。農業実習帰りだろうか。泥がついている。
「1月21日のあけおめコンサートで演奏する『スペイン』、ファゴットは難しい?」
あぁ、そういうことか。私は妙に納得した。
スペイン……。
吹奏楽が好きな人なら、たぶん、聴いたことのある情熱的な主題と哀愁漂うソロ。
耳馴染みがあるとはいえ、難易度は高い。
ファゴットとユーフォニアムにとって、慣れていない演奏の技術を求められる。
現状に満足できていなかった私は、学生会館で個人練習をしていた。
「歌えるけど、ぜんぜん。テンポも速いし、運指もややこしい……。でも、かっこいい曲だし、ユーフォには負けませんよ。」
特に理由はないが、私は挑発するように答えてしまった。
「T室に負けないように俺も頑張る。グラシアス。」
私の返答になぜか満足そうなK川先輩。
そして、鼻につく異国の言葉。
「グラシアスってどういう意味でしたっけ。スペイン語?」
困惑を隠しきれない私は、K川先輩にきいた。
「グラシアスっていうのは……
『スペイン』はやたら難しくて大変だけど、聴いてる人も吹いてる人も、すごく楽しめる曲だから頑張って練習したら、きっとほんと楽しいって意味だよ。」
金木犀の香り、学生会館に響く低い声。
私は譜面に目線を戻した。
そして、K川先輩はスペイン語の単位を落とした。
※フィクションです。
次回の演奏会は2024年1月21日(←本当)!!
みなさん、来てください〜。
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