完全正方形分割 | すた・ばにら

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※ この記事は後書きされています。最終編集日時は 2008/01/20, 1:35 です。
一枚の正方形を別の正方形に分割することは、何も条件を付けなければ全く容易である。田形に切って4分割する、井桁の字に包丁目を入れて9分割する、あるいはその他の方法も含めて無限にあるだろう。

しかし「すべて異なる大きさの正方形で分割する」という付帯条件を付ければ、この種の問題は途端に難しくなる。隣接する正方形の大きさが異なれば、辺の差となる部分に段差が生じる。その部分を巧く埋めるように別の大きさの正方形を配置しなければならず、その方法も際限ないほど存在するように思えるからである。

1900年代前半の段階で、異なる大きさの正方形から成る長方形を見出すことはできていたが、正方形は一つも見つかっていなかった。モスクワ大学の教授 Lusin は、正方形を、いくつかの異なる大きさの正方形で分割することは不可能だと主張し、以後これは「Lusinの問題」として知られることになった。

ところが 1938年に入って69個の異なる正方形による解が見つかり、その翌年には更に少ない 55 個の解が見つかり、Lusin の主張は反証されることになった。

用いる正方形の個数に制限をつけなければ、このような「完全正方形分割」が無限に存在することが明らかである。それはある解が見つかったとき、分割を構成している任意の正方形について、更に既に知られている別の完全正方形分割を施すことができるからである。辺の長さを整数にするには、全体を適当な倍率で拡大してやればよい。

したがって興味の対象は、できるだけ少ない個数の正方形から構成される解を求める点に向けられた。

1978年のこと、オランダの大学博士である Duijvestijn がコンピュータを用いて21個の解を見つけた。それは次の辺長を持つものである:

2,4,6,7,8,9,11,15,16,17,18,19,24,25,27,29,33,35,37,42,50

更に21個から成る解は(向きや裏返しなどを考慮しないで)本質的にただ一通りであり、21個未満の異なる解 - 完全正方形分割 - は存在しないことも証明されている。

正方形を異なる大きさの正方形で分割することが可能であると示されたのだが、立方体を異なる大きさの立方体で分割することは可能だろうか?
実は試みるまでもなく、これは不可能である。以下の Wikipedia に簡単な説明が付されている。

「Wikipedia - ルジンの問題」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C


代わりに、無限平面を異なる大きさの正方形で分割することは可能である。Fibonacci 数列の値を辺の長さに持つ正方形を準備すればよい。そして中心から 1, 1, 2, 3, 5, ‥ の順番に渦巻きを成すように正方形を配置する作業を無限に続けていけば、平面上のいかなる点でもいつかはどれかの正方形の中に属することになる。

このとき、中央に辺の長さが1の正方形が2つ生成されてしまうから、このままでは題意に合わない。しかし既に Duijvestijn の与えた最小解をはじめとして、無数の完全正方形分割が知られているので、辺の長さが1の正方形のうちどちらか一つに適当な完全正方形分割を施せば、すべての正方形サイズが異なるように出来る。

正方形の部分を正多角形に置き換え、同種の問題を考えることはできないだろうか?

平面を埋め尽くすことが可能な正多角形の候補は、正三角形・正方形・正六角形に限られる。このうち「すべて異なる大きさ」という付帯条件を盛り込めば、明らかに正六角形では不可能であると分かる。異なる大きさの正六角形が隣接した場合、30度や60度といった鋭角部分が生じてしまうが、この部分は他のいかなる正六角形を用いても埋めることができないことは明らかだからだ。

正三角形の場合は厳密に確認していないが、まず不可能な感触がする。極めて大雑把な説明になるが、与えられた正三角形の内部に配置する一枚目の正三角形は、当然これより小さなサイズのものになる。次に、一枚目の正三角形に隣接する正三角形が必ず存在するのは自明だが、正三角形分割のルールより、一枚目の正三角形と辺の長さが同じであってはならない。必然的に一枚目より小さな正三角形となる。

この2個の正三角形を配置した時点で、与えられた正三角形の辺、一枚目と二枚目の正三角形の辺から六角形の3辺に相当する120度の角度を持つ折れ線が形成されるだろう。ここを埋めようとする過程でどうしても既に使ったのと同じ正三角形を用いざるを得なくなるか、さもなければ細長い溝状の領域が発生して、無限に小さくなる正三角形を無限個使わなければならない事態に陥ってしまうのである。
これは分割の方法が悪いのではなく、本質的に「不可能である」という点に原因があるように思える。

これ以上の情報は、以下のサイトか、あるいは M. Lines の書籍に詳しい。(この記事も Malcolm E. Lines の書籍を一部参考にして書いている)

「Mathworld - Perfect Square Dissection」
http://mathworld.wolfram.com/PerfectSquareDissection.html


21枚の完全正方形分割については、学生の頃に実際に厚紙を切ったモデルを製作している。この記事の冒頭に貼られている配置図を見ないで、21枚の正方形の板を与えられた状態からスタートして、一枚の正方形を作るのは、かなり頭を使うパズルとなる。私が最初に21枚の解を知った書籍には、構成される正方形のサイズしか掲載されておらず、自力で組み上げるまで45分かかった。

家庭教師をしていたので、幾人か生徒に解かせてみたことがある。多くの生徒は(そして生徒の母親も)ギブアップしたのだが、たった一人30分で組み上げた猛者がいた。彼は今頃どうしているのだろうか?