入眠時幻覚、浮腫が示すもの | ウソの国ー詩と宗教(戸田聡 st5402jp)

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  入眠時幻覚
 
寝入り端(ばな)に
たまに見る
入眠時の幻視
決まって紫煙だ
くっきりと緩やかに乱れる
目を凝らそうとすると
ふうっと消える
そして意識は背景を映し
覚めてしまう
たまに聞く
入眠時の幻聴
決まって声だ
私の名を呼ぶ
何度も何度も
でも実際は二度か三度
そして覚めるか眠ってしまう
誰も呼んではいない
でも何度も何度も
誰も呼ばない声が
意識と背景の後ろから
呼ぶのだろうか
呼ばれたいのだろうか
 
(1998年2月7日)
 
 
  浮腫が示すもの
 
眼瞼の浮腫はいずれ破裂して
一番薄い皮膚を引き裂くであろう
不可逆であれ一時的であれ
原因がフェナセチンであれピリンであれ
腎障害や肝障害であれ
心機能の限界であれ
一度起これば次第に頻発し
前より重くはなっても
軽くはならないものがあるのだ
 
浮腫は破裂して皮膚を引き裂くだろう
裂け目から流れ出るのが
涙であろうと水であろうと血であろうと
裂け目に蔓延(はびこ)り残るのが
いかなる黴菌(ばいきん)であろうと
いかなる有機物や無機物であろうと
そのとき既に視力は奪われ
意識は喪失し
命は旅立つのだ
生命は性霊のように大切だから
意思は遺志のように儚く尊い
 
しかし浮腫(むく)んだ皮膚が
常に示してくるのは
再会も音沙汰もない生別と
死別の違いにも似て
滅びないであろうこの世に生きながら
自らが滅びるとき自らにとって
この世の滅びを問い続ける細い管から
漏れて戻り損なう循環だ
そう ゆえに
皮膚はいずれ破裂して
浮腫を緩やかに引き裂くであろう
 
(2001年07月28日)