말모이マルモイ ことばあつめ  | 沸点36℃

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他愛のない日常と歴史散策、主観

2020年11月28日「マルモイ ことばあつめ」鑑賞

ずっと観たかった作品です
1940年代の日本統治下の朝鮮半島で、言語が朝鮮語から日本語に変わり、名前も日本式となっていく中、朝鮮語学会事件の史実を基に、母国語を遺したい思いで全国の言葉、方言を集めた「マルモイ(ことばあつめ)作戦」で朝鮮語の辞書を作るために奮闘した人々を描いた作品


朝鮮語学会事件とは、1942~43年に朝鮮語学会の会員33名が治安維持法違反として検挙投獄された事件のことです
うち2名は拷問のため獄死
日本語が「国語」とされ、朝鮮語の使用が禁止される状況の中で、朝鮮語を守り研究し普及することは皇民化政策に対する抵抗と看做され、過酷な弾圧を受けたんだそうです

そういえば朝鮮の詩人で尹東柱がいますが、日本帝国主義が禁じた朝鮮語で詩を書き続け、詩作の日付も西暦で記していましたが、それが独立運動につながるとし治安維持法違反で43年に逮捕、2年後に旧福岡刑務所で獄死されてます
私も詩を少し拝読しましたが、純粋で透明感に溢れてました

言葉や名前を奪われることは精神やアイデンティティを支配されることにも繋がり、ましてや言語は文化の土台であり民族の誇りでもあるんです

この作品はフィクションですが、そうしたものが背景にありますので、日本人側からみるともしかしたら居心地が悪くなるかもしれません


舞台は京城
無学どころか字も読めない非識字者のキム・パンス役にユ・ヘジン、朝鮮語を守ろうと朝鮮語学会の地下活動として辞書編纂を目指したリュ・ジョンファン役にユン・ゲサン


最初は言葉集めに何の興味もないパンスが、次第にその意義に共感し、辞書作りに欠かせない役割を果たしていくんですが、ヘジンはこういう役をやらせたら敵なしだな~と思うほどの好演でした


文字を覚えて片っ端から看板のハングルを嬉しそうに読む姿、飲み屋でマッチ棒でパッチムを復習している姿、


玄鎮健(ヒョン・ジンゴン)の短編小説「運の良い日」を読んで涙する姿…読み書き出来る喜び溢れる、とても良いシーンでした
識字能力を身に付けることで、世界は広がり見え方も変わってくるんですよね

因みに1924年に発表された「運の良い日」の作者ヒュン・ジンゴンは、東亜日報の記者としても活動していた1936年、ベルリンオリンピックでマラソン選手の孫基禎(ソン・ギジョン)選手の優勝を報じる写真から日本の国旗を削除した事件(日章旗抹消事件)で逮捕、1年間投獄されたことがあります

孫基禎選手をモデルにNHK大河ドラマ「いだてん」でもエピソードがありましたよね


パンスが働く映画館で上映されていたのが「朝鮮海峡」(1943年 朴基采パク・キチェ監督)という作品だったんですが、官制の朝鮮映画株式会社が徴兵制実施を記念して作られた全編日本語の軍国主義御用映画で、封切り当時、京城、平壌、釜山の三大都市で13万人以上の半島映画に前例のない興行成績を記録されたそうです
朝鮮総督府の検問のもとで作られた作品だということで、ちょっと驚きました


観ていて一番楽しかったのが方言集め
パンスの呼びかけで各地方の出身者が集まり、学会の人達と一緒に辞書作りに携わっていて活気にあふれてました


同じ民族同士が、集結して互いに助け合う姿に誇りと志を感じられます

また、子役もかわいい


ラストは悲劇的なことに見舞われたけど、その後のエピソードに深みがあり、多くの人々の想いが込められ、ようやく完成し刷り上がった辞書はとても美しかったです


辞書作りという地味なテーマですが韓国の近代史も分かり、尚且つエンタメ性も高く、流石韓流クオリティ
素晴らしい作品でした


何かと評価の分かれる日韓の歴史観ですけど、この作品は民族の精神を守るために命がけで辞書を編纂しようとした人達に焦点が当たっています
国と国がそれぞれ主張の違うセンシティブなテーマについて、両方の情報を知ってからが本当の理解が始まると思います

この作品が反日的だというのなら、感情的に善悪だけで判断せず、前後関係も含めた歴史を勉強し直す必要を感じました


2020年5月22日日本公開(コロナの影響により同年7月20日公開)
映画「マルモイ ことばあつめ」
監督、脚本/オム・ユナ
出演/ユ・ヘジン、ユン・ゲサン、他
上映時間/135分


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