ヒトの脳の記憶には大きく分けて2種類の装置があります。ひとつは重要なことを忘れないための記憶装置。もうひとつは仮想ディスクのようなもの記憶が入り、必要さの重要度合いと時間の経過によってに消え去る記憶装置。
生きていくのに必要な情報と不必要な情報を分けているわけです。
不必要な情報を捨て去ることによって、頭のメモリーに空きができます。
そうして生涯、入っては捨て入っては捨てしています。
あたしの仕事なんかも、書いた原稿の内容にあたる詳細をほとんど覚えていません。
これはあたしの脳の技能が、その程度でしかないからでしょうが。

昼間久しぶりに電話が鳴った。
見知らぬ番号でしたが、アマゾンで商品を買っているので運送屋さんかもしれない、ということで出ました。
聞いて記憶が瞬時によみがえりました。
ヒロという子でした。
もう何年振りかは分かりません。

相変わらずでした。
良い意味でも良くない意味でも。
嬉しさの半面、彼女を思うと不安な事柄があります。
身体は元気そうなので良しとしましたが。

ヒトは記憶を自ら消すことはできません。
何年経とうとその記憶の中を完全に消し去ることは不可能です。
そんな記憶の中に生きているヒロを見るとあたしはどうすることもできません。
そんなヒロと同じ経験をしているのですから。
ですから認めてしまうしかない、としました。

世の中から消えてもヒトの記憶からは消えない。
なんて理不尽で強情な脳なのでしょうか。

でも仕方ありません。
それが自分であり、ヒトであるから。