ポスターの件とは異なり
画像データで一部アップロードされている方を見つけた(有難うございます)ので読んでみましたが…
なんかちょっと分かりにくいと言うか、思ったより面白くない内容でした。
PDFではなく原文を書き写すのが面倒なので自分の言葉でかなりはしょって紹介します。
・事案の概要
被告は全員協議会で報道陣を前に、
市議会から※呼び出しをくらい、
そこで「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」(本件発言)と言われた、
これは恫喝に当たる、と言った。
また、その旨SNSに投稿した。
その後全員協議会(議会の本会議じゃないけどみんな集まってやる会議)において、
市長が市議会に対し、あれは恫喝だと思うがどう思うか、と質し、
被告に対しては名指しで「ご忠告」をいただいたとして、その意図等を質した。
で、多分この後に「本件発言の主は原告である」と指摘した。
(判決文では前後関係が分かりにくいですが、その後の判示内容を見ればこう解釈されます。)
…え~、事案の概要と言うべき部分はこれだけ。
なんですが、これだけだと味がしないので…
もうちょい事の経緯を記憶の限りで申し上げますと、
まずある議員が議会の本会議でいびきをかいてしまう(のちにご病気が原因だったと主張されています)
→市長がSNSで糾弾
→議会が市長を呼び出し(※)
という感じです。
・裁判所の判断+自分のコメント(基本、地裁の判断を記載します。)
原告は不法行為に基づく損害賠償請求権(慰謝料請求権)により訴えを提起しているため、
被告が
①故意または過失に基づき
②原告の法律上保護される利益を害し(違法性)
③それにより損害が生じた
といったことを主張立証する必要があります。
しかし名誉棄損事案の特徴は、名誉棄損というのは原則②に当たりますが、
それであっても
1公共の利害に関する事実について、
2もっぱら公益を図ったものであり、
3その事実が真実である場合、
は違法性が阻却される(②でなくなる)、
また、
4(真実でなくても)事実の重要な部分について真実であると信ずるに足りる相当の理由がある場合は
故意または過失がない(③でなくなる)、という判例法理があります。
つまり123か124が認められれば、不法行為は成立しないと言うことです。
これは元々は刑事法の判例の規範ですが、のちに民事にも”文面上は”そのまま輸入されてきました。
表現の自由と個人の人格的利益が相克するとき、どちらに軍配をあげるべきなのか?
そのバランスをとるための法理です。
そしてこれは不法行為の1要件である故意または過失、はたまた違法性、
つまり原告が立証した要件の否定となることから、
この規範の段にあっては被告側に立証責任があるということになります。
なので市長は、被告が「議会を敵に回すと~」と言ったことについて
真実だったとかって主張立証しないといけないんですが
裁判記録によると被告の主張の根拠は…
A.被告の供述
B.「Y-対立-政策-敵」などと書いた被告のメモ
C.その発言があったことを前提とする、全員協議会での答弁がある
D.問いただすメッセージに回答(反論)してこない
(など)だったようです。
ABDで十分な立証にならないのは当然ですが、
Cに関しては少し詳しく書かれています。
市長が市議会から恫喝を受けたと問題提起をして、
その発言の有無について意思表示を求めた後に、
本件発言(「議会を敵に回すと~」)を引用し、
市議会議員に見解を聞きたいと述べ、
その上で原告を名指しにして、「ご忠告」の真意や意図等を明らかにするよう求めている。
ここからすると、
この時点で恫喝の主体は市議会議員というレベルまでしか限定されておらず、
その上原告に対しては「恫喝」ではなく「ご忠告」という言葉を使っているし、
本件発言に関して釈明を求めているとは必ずしも解されず、
そして原告の答弁も、明確に本件発言を引用したり、したことを認めるような内容ではない。
とのこと。
つまり裁判所の認定を言い換えると、
「全員協議会の冒頭では、原告が本件発言(恫喝)したこと認識してなかったでしょ?」
ということになります。
まぁなんか、しっくりこないというか…
全然証拠がない中でなんとか結論を導き出している感が…
主張てきとーすぎない?怪文書みたいなメモを証拠と言われても…。
ポスターの件に比べると、
なるほどこういうことだったのか!って感じがないですね…。
さて、本件においては原告側から録音データの証拠が提出されています。
言った言わないの争いの中では、かなりクリティカルな証拠となったでしょう。
支持者の方がよく、「録音は切り取られたもので、そこに恫喝発言がある」と仰っているので
中身が気になるところです。
その点について高裁が、地裁が触れていない論点として補正しています。曰く、
…本件意見交換会(呼び出しのやつ)は30分間にわたり行われ、
録音は途中から終了までの約25分程度のもの。
その中に本件発言は含まれていない。
他の証拠によれば、冒頭ではT議員が本件投稿について発言していた。
録音データの最初の発言者はK議員(次に原告Y議員)である。
本件メモ(先述の証拠Bを含むもの)はT、K、原告の順に並んでいる。
(そのためその順番に発言したと考えられる)
その点から冒頭に原告の発言があったとは推認されない。
こういった点から、やはり発言があったとは証拠上認められない、と結論付けています。
これについてはなるほどなぁと思います。
30分のうち25分だったら当然「その5分の間に」と争われうるため、
そこもしっかり判断したということですね。
まぁ、その話し合いが始まる前にコソコソ話したりとかは普通にありそうですけど…
更に、全員協議会でのやりとりについても、より詳しく論じる補正が行われています。曰く、
~原告に対して釈明を求めた被告の意図が、本件発言の有無の確認という点であったとしても、
原告を「名指しするまでは」恫喝の主体を市議会と表現し、
呼び出し会議に出席していた議員全員の意見を聴きたいと言っていたのであるから、
「あの場で」「ご忠告」をくださったとして原告を指名したとしても、
原告がその意図まで理解して対応するのは容易でなかった~
とのこと。
やっぱりここは正直「う~ん?」という感じですね。
誰かは分かっているけどあえて全員に問うただけかもしれないし、
単に表現を(嫌味っぽく「ご」を付けて)変えただけかもしれないですし。
何にしても明らかに真実性の証明には証拠が不足していて…
判決自体は妥当だと思います。
いや真実は分かりませんよ?分かりませんけれども…ね。
・私が知りたかったけど、ない話について
民事訴訟はあくまでも当事者同士の主張立証が基本的な中身となります。
裁判官はあまり余計なおせっかいはしないのです。
なので主張に出てこなかった話は当然裁判記録にも出てきません。
私は、「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」という発言は
そもそも”恫喝”に当たるのかという点の解説が見たかったのです。
いや、なんかドスの利いた声で言われたら「ヒィィ(半天狗)」ってなりそうですけど
あのボソボソ声で言われてもなぁ…
しかし考えてみると、法的構成から言ってそんな点を判断する必要はありません。
恫喝だと言いまわったことが不法行為に当たる、というのが本件の請求内容ですからね。
というわけで全体的に腑に落ちない点ばっかりなので、
自分の妄想でストーリーを補完することとします。
・自分の妄想
私が一番不思議に思っていると言うか、腑に落ちないと感じているのは、
実際に録音を聴いていると、全然不穏な雰囲気を感じないことです。
昔市長の話を伺ったときは、さも凶悪な雰囲気に満ちた会合だったんだろう、
議員にガン詰めされたのだろう、酷い話だと思っていました。
実際のツイートでは、
「数名から、議会の批判をするな、選挙前に騒ぐな、事情を補足してやれ、敵に回すなら政策に反対するぞ
と説得?恫喝?あり。」とされています。が…
時折笑いが起こっていたし、
誰かが大声でがなりたてるようなこともなく、
あるいは議員側が市長の発言を遮るようなこともなく…
個人攻撃もあり得ると言う話があり、市長が「政治ってそういうもんでしょ」と言った際には、
議員からも「おっしゃるとおり」「そういうもんだと思いますよ」と賛同されています。
これで会合の冒頭で恫喝があったというのは、ちょっと私には信じがたいなと…
例えばK議員(のちに最も市長側に立つ議員)の発言は確かに
「(いきなりSNSで暴露とか)しない方がいい」というものでしたが、
終始そんな命令形ではなく、ぼかしながら婉曲な表現で話しており、
最終的には「やられたらやり返すという」市長のスタイルにも理解を示しています。
そうするとツイートの表現は結構誇張されているなぁ、と感じてしまうわけです。
本件発言についてもその思いが一人歩きして創られただけで、実際はなかったんじゃね?と
思ってしまうわけです。
じゃあなんだってそんなこちょったのって話ですが
まず、市長にとって、政治とはこうあるべきという想いが非常に強いのではないかと思います。
それからしたら、なぁなぁで行こう的な雰囲気のある意見がクッソ気に入らなかった。
そしてY議員の発言が(最も)気に食わなかった。
なぜなら、会話の雰囲気もそうですが、市長の発言の趣旨を否定する発言をしたからです。
そのため、まずは呼び出されたことを利用して漠然と恫喝を受けたと表現し、
全員協議会では出席者全員(裁判記録より)に向けてどうなんだと言い、
最終的には最も気に食わない発言をしていた議員が
ありもしない発言の主体であると着地させた、ということなのでは?と…
だってこんな感じに考えないと辻褄があわないよねぇ…。
って思うわけですが。
真実は分かりません(念押し)。
さて、本件については市は上告を断念しましたが、
元市長より上告受理申立てが行われています。
上告の方法は、
憲法違反等を理由とする上告提起と、
判例その他法令の解釈に関する重要な事項を含む法令違反があるとする上告受理申立て
があり、前者は無理なので後者にした、ということですね。
正直この辺の実務に関しては全然知識がないのですが、
受理してもらえるのかしら?
あくまで真実性の証明ができていないという判示なので、普通に考えたら無理ですよね。
どうなるか見ものです。