また都知事選挙がらみになってしまうんですが

ネットで”経常収支比率”に関するコメントを見てつっこみたくなったので書きます。

 

経常収支比率とは、都道府県や市町村の財政に関する指標の一つで、

いつもの支出/いつもの収入 で算出するものです。

 

地方団体は毎年6月初めごろに総務省から決算統計と言う調査の依頼を受けます。

調査の中身としては、前年度の決算を分類し、整理して所定の様式にまとめることです。

その調査のうちの一つとして、いくつかの財政指標も算出されるのですが、その中に経常収支比率もあります。

決算統計の記入要領に「何がいつもの(経常的)支出/収入で、何がそうでない(臨時的)支出/収入なのか」が定義が記載されており、それに従って決まるものです。

 

この指標は、自治体の財政状況を表す際によく用いられます。

おそらく、シンプルだからでしょう。

なので財政健全化を謳う首長の成果としてこれが持ち出されるのは、いたって自然な流れではあります。

 

私の自治体では明後日までに県へ提出しなければならないため、どこももう令和5年度決算の数値が出てきていることでしょう。

 

 

さて、私がつっこみたくなったのは

ある首長の実績の一つとして、経常収支比率の改善がある、という言説です。

 

これについては大きく分けて2つの問題点があります。

 

まずは、経常収支比率というのは、そんな厳密じゃないという点です。

 

決算統計で経常収支比率を算出の基準となる経常/臨時の分けは、自治体職員が行っています。

この調査、締め切りまで短いし、

自分で言うのもなんですが自治体職員なんてそんな物凄い人が集まっているわけでもないので

まぁ、仕上がりとしてはそれ相応のレベルなんですね。

 

間違うことは当然あって、あるいは間違いを正して大きく変わることもあり得ます。

もっと言うと故意に「ちょっと比率下げ/上げちゃおっかな」なんて操作しちゃっても、別にばれることもないし

簡単にできてしまうわけです。

まぁ大して信頼できないということです。

じゃあ何でそんなん出してるんて思われるかもしれませんが、

「大体こんなもん」っていう財政状況は伝わるため、それはそれで結構有用な指標なのです。

 

 

そしてもう一点、これがどちらかと言うと本丸なんですが…

 

ある首長は、R2の途中に着任し、R5の途中で辞任なされました。

そうなると、R2の数か月で実績を測ると言うのも不可能に近いので、

実績として把握しうるものとすると現時点ではR3決算及びR4決算となります。

このR3決算において、R2より経常収支比率が下がっていたから「改善した」と、冒頭のコメントとなったわけです。

 

しかしこの論評は非常に危険です。

なぜなら、令和3年度は例年に比べて圧倒的なほど大きな額について、国が交付税を交付し、また臨時財政対策債を

発行して良いよと言ってきたからです。

 

市町村の財政指標は毎年総務省がデータを掲載していますが、これをソートすると

R2→R3で経常収支比率が悪化した自治体は89/1741団体、R3→R4で改善した自治体は178団体となり、

ほとんどの団体がこの影響を受けていることがうかがえます。

 

そしてこのコメントの対象である自治体も、令和4年度は悪化しています。

ぶっちゃけ「何もしなかったらR3は改善し、R4は悪化する」わけで、

数値だけ見ても何とも言えず、数値だけで実績とするのは全く説得力がありません。

財政健全化という観点から”いいこと”をしたかどうかは、結局はその中身、

「何をした結果いくら浮き、それがこの数値に影響してこうなった」というレベルまで掘り下げなければなりません。

 

 

ちなみに、「経常収支比率の悪化」=失政、と言う訳では全くございません。当たり前ですが。

一定の規模の財政出動を伴う継続的な新規事業を実行すれば、当然経常収支比率は悪化していきますが、

その事業が素晴らしければ評価されるべきですよね。

 

それはあくまで政策の評価であって、「経常収支比率が悪化したから悪い!」というわけでもないのです。

 

 

 

なお余談になりますが、最近は国が民のご機嫌取りであれやるこれやる、ちなみに地方負担ありで!のオンパレードなので、

令和5年度はまた一層悪化するでしょうね。

出産子育て応援事業や、保育士や介護士の給料増、会計年度任用職員の勤勉手当、

地方団体は本当にきつくなってきています。

 

これで国が言っているとおり、ちゃんと交付税措置すればいいんですけどね。

あれもこれもどれも交付税措置しまーすつって地方の財政に配慮しているみたいなツラして

交付税+臨財債の額は普通に減らしてきていますからね。

 

いちいち見苦しいのが交付税の予算を増やして殊更増えていることをアピールしつつ

臨財債については「自治体の財政健全化」とかいう理由にもなっていない言説に基づいてそれ以上に減額するところね。

あのね、元々その合計額を交付するって制度だったんですよ。減ってるじゃんって。

 

ひどいもんです。

国の姿か?これが…