私が市の財政部局に配属されてから数年が経ちました。

財政部局の一つの仕事に地方交付税に関するものがあります。

地方交付税とは、地方団体の財源の調整機能・均衡機能を有するなどとされており、乱暴な言い方をすると税収の少ない田舎に多くお金をあげよう、ということですね。

制度の存在自体は小学校の社会か中学校の公民で習うことだったかと思います。なので、地方団体が財政的に厳しいという話をしても、「地方交付税制度を知らないのか」という反応があったりします。

実際を言うと、この制度があっても駄目な場合は駄目なんです。何故でしょうか?

 

その理由は算定の方法にあります。算定方法とは、「この地方団体はいくらくらいの出があって入りがある…ような感じの団体なので、その引き算」というものです。現実にどれだけ足りていないかではなく、理論上こんなもんじゃね?というものです(当たり前ではありますが)。

その一つ一つが理論めいた形をとっています。消防費、教育費、公債費…色々な項目が色々な計算に基づき算出されますが、計算式の中には謎の定数が大量に含まれており、どうとでも動かせます。つまり、ぶっちゃけテキトーです。

結局のところ、国が決めたルールに従って国の予算の範囲内で「お前んとこの財源不足額はこの額な」と決められるというだけのものです。「こんなもんじゃね」が制度の本質ということです。

「この制度には地方交付税措置をします」という文句がよく国から発出されますが、交付税のプールに入ってしまうと、結局どっかで減額調整しちゃえば結論は整合してしまうので、「その分多く貰える」とは必ずしもならないことになります。

まわりくどくなってしまいましたが、要するに分不相応な事業をバンバンやってる地方団体は交付税では救えず簡単に滅びてしまうということになります。

 

この制度の本質そのものは、批判に値するものとは思っておりません。

実際こういうのがないと田舎は没落するし、かといって本当に究極的に理論に基づいた配分を考えつくのは至難の業と考えられるからです。

欺瞞があっても仕方がない…そう思うわけですが、どうも最近、その欺瞞を逆手にとったようにもう何でもありになりつつあるのが気になります。

 

令和3年度において「臨時経済対策費」「臨時財政対策債償還基金費」と銘打った需要額を創設し、普通交付税の追加交付がありました。

前者はよく分からないけど国の補正に伴って発生する支出についてこいよみたいなもので、後者は将来の臨時財政対策債の償還費について一部措置しないからその分今まとめて払うわという、全くもって意味の分からないものでした。

ちなみに臨時財政対策債とは、国が普通交付税を払う現金がないので特別に地方団体に足りない分借金させてあげるもので、その償還費用について全額普通交付税措置をするから実質全額あげたのと同じだよね、という制度です。

しかし残念ながら臨時と言いつつ20年くらい続いており、償還費を交付税措置→その年も現金ないから借金させる→償還費を交付税措置→…というギャグみたいな状況になっています。

 

そもそも地方交付税は一般財源です。一般財源と特定財源というのは非常に技巧的と言うか、割とどうでもいい概念なんですが、「この費用に充てるからこその歳入」みたいなのが特定財源…国庫補助金などが典型例ですが…そうでないものは一般財源というものです。

ですから本来「こういうことに使え」というのはおかしいですし、将来の臨時財政対策債償還のためって、そもそもそれを毎年措置するってのが当初の制度設計だったわけですから、もう訳が分かりません。財政状況が厳しく、丸々借りてしまった地方団体は、「いくら分は将来普通交付税としてくるはずだった分だから使ってはいけないお金」ということで、これから長年にわたって、非常に面倒な管理を強いられることになりました。

 

先に申し上げた欺瞞を逆手にというのはつまり、ぶっちゃけテキトーな制度だしこれを利用するか!色々ぶちこんじまおうぜ!…そういう感じに見えるということです。

 

また、令和4年度にも「臨時経済対策費」と銘打った追加交付がありました。(R3ではR3のみって言ってたタイトルなのに…)

前年度と異なる点としては、財務省がお金積まれたくないから補正して(国のなんちゃら対策みたいなのに関する)事業やれって言ってきてるっぽいところです。私が電話を受けたわけではないので、伝聞だと全然意図が分からないのですが…。

 

それを聞くと、国は地方団体のやばさが分かっていないのかなぁと感じます。

本日…いや、書いている内に昨日になった…、大阪府が電気料金支払いをしぶって地裁で逝ったという記事を拝見しました。ざっと見ると燃料費調整単価の増を拒否ったみたいで、そりゃ無理だろって感じなんですが。いや、法律家の知事なわけだし、どっかに勝算があったのかもしれませんが。

それを見ると分かるように、公共施設の光熱費の爆上げが非常にやばいのです。

しかし今のところ、ここをカバーするという話は全然出てきておりません。これこそ、普通交付税の追加交付の出番なんじゃないの?と思います。燃料が、人が、あらゆる物が値上がりしているこんな状況下でアクセル踏むやべー団体いるのかなって感じなんですが残念ながら国は積極的に使えという考えのようです。

「国は」とは言いましたが、もしかすると総務省は地方団体の危機的状況が分かっているから、とにかく何か理由をつけて予算をとってやろうと思っている…で、とったはいいが経済対策費なんだから使わせろって財務省に言われてる…と考えることもできますね(単純に光熱費高騰とかも名目で予算とれなかったのかとは思いますが)。

恐らくほとんどの地方団体が、使うように見せつつも必要経費に実質は充てていくという対応…不毛な工夫を強いられることになるでしょう。

余談ですが国は4月に「学校の光熱費を…交付税措置するかも」と言っていましたが、今のところ続報がありません。忘れてるのかな。

 

 

やはり思い付きで書いているとまとまりのない文章になってしまいますね。

最後にまとめますと、

・地方交付税制度は地方団体の歳入のバランサーとして必要

・バランサーであるが故に柔軟、柔軟であるが故に国の思うがままにコントロールできるという側面がある

・近年はその柔軟さが発揮されすぎて制度趣旨に関係なく地方団体に金をぶちこむ装置と化している

 

というように感じます。