透明なボウルに盛ったサラダをふたつの小皿に取り分ける。その赤や黄色が食卓を少しだけ華やかに彩ってくれているように思えたので、パプリカを入れて良かった、とひとり満足気に微笑んだ。
「さ、食べよ!いただきまーす」
私はまず、冷や奴に箸を入れる。彼はきっと一番最初にメインのハンバーグに手を付けるだろう。見なくても分かる、ハンバーグは彼の大好物だから。それをもし子どもみたいだと笑ったら、きっと彼はそれこそ子どもみたいに拗ねてしまうから、私はただ微笑むのだ。
それはきっと、世界で一番に幸福な食卓。
「んん、おいしー!今日のお味噌汁ね、いつもの違うお味噌なの。すごく安かったから挑戦してみたんだけど、これ、なかなかの当たりだと思わない?」
そう言って味噌汁を進めれば、ハンバーグと白いご飯ばかりを口に運んでいた彼も、ようやく汁物に箸を伸ばす。コマーシャルのように小さな音を少しだけ立て、熱い味噌汁をゆっくりと喉へ長して、それから彼も、満足気に笑ってくれる。
うん、うまいじゃん。――そう言って。くしゃっと顔を崩して、人懐っこい猫のように笑うのだ。
「でしょ?あたし天才~」
バーカ。そう言いながらも、いつもと違うお味噌汁を気に入ってくれたようで、またお碗を口元へ運んで。そのあとはレタスとパプリカのカラフルなサラダにドレッシングをいっぱいかけて食べていく。細身のくせによく食べる彼は、冷や奴も味噌汁もハンバーグも白いご飯も生野菜のサラダもきれいに食べ切ってくれる。
「あーお腹いっぱい、おいしかったあ」
きれいに空になった皿を見ると嬉しくなって、私はまた、昨日より少し料理が好きになる。そうやって毎日、日に日に料理が好きになるのだ。彼と結婚したあの日から、毎日。彼のおかげで。
「ね、おいしかったでしょ?ごちそうさまは?」
――なのに。なのに、聞こえない。彼が言う、いつものあの、満足気な「ごちそうさま」が。いつまで待っても、催促しても、聞こえない。いつもならあっという間に空にしてくれる皿には、作ったときのままの料理が盛りつけられたまま。減ることもなく、ただ冷めていくだけ。
「ねえ、ごちそうさまって、言ってよ」
思い出の彼が笑っても、記憶の彼がご飯をおかわりしても、現実の料理はひとつも減らない。いつもと違う味噌汁も、彼の好きなハンバーグも、彼好みの少し硬めに炊けた白米も、何も。皿は空かないまま、時間だけが過ぎていく。
「おねがい、ねえ、おねがいだから、」
記憶と想像を混ぜ合わせた虚像が作り出す世界一幸福な食卓は、一度現実を見てしまえば一瞬で、世界一不幸な食卓へと転落する。
「っ声が、聞きたいよ」
こうして私はまた、昨日より少し料理が嫌いになる。そうやって毎日、日に日に料理が嫌いになるのだ。
彼が死んだあの日から、毎日。彼の、せいで。