古い競馬ファンなら最上ホースクラブ(馬主)を覚えているのではないだろうか。

80年代から90年代前半にかけ、モガミヤシマ、モガミナイン、モガミチャンピオンなどの活躍馬もいたが、それ以上に会長のスキャンダラスな事件で世間の注目を集めた。

 

「競馬界 隠しておきたかった馬券術」

著者:古沢茂

発行元:KKベストセラーズ

発行日:1988年11月5日

 

著者の古沢茂氏は、専門紙のトラックマンを経てこの時は最上ホースクラブの業務部長。

タイトルからはよくある暴露話や、そこからの裏読みによる馬券戦術本のようだが、冒頭からの「なぜ“モガミ”はJRAから嫌われるのか」が特に興味深かった。

 

最上ホースクラブの会長・早坂太吉氏の本業は不動産業で、最上恒産社長である。

バブル期に「地上げの帝王」と呼ばれ財を成した。

しかし暴力団の恨みを買い、86年には自宅に銃弾を撃ち込まれる事件が発生。

JRAからは危険人物と見られていたようだ。

 

1988年の皐月賞にモガミナインが1番人気で出走。

アクシデントがあり6着に敗れ、続く日本ダービーでも8着に敗れた。

この結果に、「一番ホッとしているのはJRAではないか」と書いたのは当時の新聞。

その理由として本作の著者は、早坂会長が「G1の表彰式のときに散弾銃で撃たれでもしたら、たいへんな社会問題になる」と書いている。

 

モガミナインが1番人気に推された第48回皐月賞。

勝ち馬は1番のヤエノムテキ。

 

この後にかかれている馬券術とやらだが、勿体ぶるほどのものでもない。

「過去成績は着順よりも着差を重視」は自分が始めた頃に師匠に言われていたことで、「異常人気馬は買い」は昔から言われていることだ。

 

騎手や厩舎関係者の本音はトラックマンなどの現場記者にしかつかめない情報で、巷の競馬ファンには伝わらない。

馬券を買ってはいけない関係者が内緒で記者に馬券を頼んだり、懇意にしている騎手にパドックで馬の調子の良し悪しをサインで送ってもらうあたりが、タイトルにある「隠しておきたかった」ということか。

いずれにしろ、冒頭の早坂太吉氏の逸話ほどのインパクトは無い。

 

早坂太吉氏は1988年に所得税法違反(脱税)で有罪判決を受ける。

馬主資格を失い、最上ホースクラブも消滅した。