おけら街道とは、賭け事に負けた人間がトボトボと帰っていく最寄り駅までの道のり。
今の競馬場帰りの道のりにそれほど悲壮感はないが、大昔はそんな悲しい「街道」だったのだろう。
今回の競馬本は、ただ負けての帰り道のおけら街道ではなく、現代にも通ずる深い競馬小説。
「おけら街道」
著者:藤枝肯徹
発行元:新風舎
発行日:2006年6月25日
舞台は1970年代で、主人公は正義感あふれるまだ若い会社員。
死亡事故まで起こしながら安全よりも売り上げ、納期を優先する会社側。
主人公はそれに反発し、現場責任者として安全第一を推奨して疎まれ、やがて自ら退職するように仕向けられる。
再就職も、かつての上司の妨害によりなかなか決まらない。
やっと採用が決まったが、妻が元上司に頭を下げて妨害をやめてもらったことを知り辞退する。
ここまでは正義感ある主人公対ブラック企業で、主人公に肩入れしたくなる展開だ。
そんなある日、気晴らしに寄った中山競馬場で運命が一変する。
ほとんどやったことのない競馬で、でたらめに買った馬券が大穴で的中したのだ。
その後も穴馬券ばかり買い外れ続けるも、競馬のスリルと興奮にすっかり魅了されてしまった。
そこからは転落の一途。
資産家である妻の実家の援助で生活は成り立つが、親兄弟から借金をして職探しもせずに連日の競馬場通い。
勝つ時もあるが次第に借金は膨れ上がり、ついにはマイホームまで借金で失う。
実家も義実家も立ち直ることを促し、子供を連れて実家に帰った妻も離婚はせず、「立ち直って迎えに来てくれる日を心よりお待ちしております」と言ってくれる。
その度に改心しようと決意するのだが、すぐに心が折れ競馬場へ向かってしまう。
「これが最後」と妻や母からかき集めた150万円で、己の運命を賭ける大勝負に出る。
昭和48年5月27日、第40回 日本ダービー。
大本命の怪物・ハイセイコーの相手に選んだのはタケホープで、枠連1点買いである。
タケホープが優勝したが、ここまで無敗のハイセイコーは3着に敗れた。
主人公はむなしく外れ馬券を投げ捨てる。
ここで最後まで救いのない物語は終わる。
ギャンブルの帰り道ではなく、人生のおけら街道。
ギャンブル依存症は怖い…とは思わなかった。
自分は競馬依存症かもしれないが、ギャンブル依存症ではない。
趣味の範囲で、負けて困る金は賭けないスタンスで40年やってきたのだから。