今回、新たに「岡山大学 就職ガイドブック2016(平成28年度卒業生向け)」の就職実績データを入手することができた。これにより、平成22年度から26年度(2015年3月卒業)までの5年分の1名までの全就職先データを分析することが可能となった。
前回「大企業就職が意外に少ない?岡山大学経済学部の全就職先分析(その1)」でご紹介した際には、「岡山大学 就職ガイドブック2011」をもとに平成19年度の実績で詳細分析を行った。今回新たな資料を得たことにより、平成24年の政権交代後の実績推移について定点観測を行ってみたい。

 

今回の筆者の目的は、自民党政権復帰後の「アベノミクス」による大卒就職率の好転状況を、中・四国地域における中核国立大学において検証することにあった。事前の予想では、政権交代後の求人環境の好転で学生側優位の「売り手市場」となって久しいこと、ここ数年周辺の上位難関校が後期日程の募集定員を縮小したため岡山大経済の入試偏差値が着実に上昇を続けていること等から、当然大企業就職比率は前回分析した平成19年度に比べて大幅に上昇しているものと推測していた。
しかし、今回データをつぶさに確認して、まったく意外なことにそうなってはいないことを発見した。特に驚いたのは、本来「売り手市場」であるはずのここ2、3年の岡山大経済の民間就職先の内容「悪化」と、それを補うかたちで上昇している同校の公務員合格者数の急増である。


ためしに、岡山大経済学部の3名以上の就職先をすべてあげてみよう。今回、昼間主コース卒業生の、進路判明約170名について調べてみた。
その結果は、以下のとおりである。

 

〔岡山大学経済学部 3名以上就職先 2015年3月卒業〕 
①中国銀行(岡山県)----------------8名(うち3名女子)
②岡山市役所(岡山県)--------------5名
③倉敷市役所(岡山県)--------------5名(うち1名女子)
④百十四銀行(香川県)--------------4名(うち1名女子)
⑤自校大学院進学(岡山県)----------4名
⑥岡山県庁(岡山県)----------------3名(うち1名女子)
⑦日本生命(大阪府)----------------3名(うち2名女子)
⑧トマト銀行(岡山県)----------------3名(うち1名女子)
⑨国税局(所轄不明)----------------3名


大学院への進学を別にして8件である。
女子の地域限定職募集が合算されている日本生命、広島国税局以外の数字が複数合算されていると思われる国税局を別にすれば、3名以上の就職先は百十四銀行(香川県)を除いてほとんど地元岡山県の企業・役所に限定されている。
では、これを同じ年の香川大学の就職先と比べてみよう。

 

〔香川大学経済学部 就職先上位5社 2015年3月卒業〕

①中国銀行(岡山県)----------------14名
②百十四銀行(香川県)--------------12名
③香川銀行(香川県)-----------------9名
④伊予銀行(愛媛県)-----------------5名
⑤倉敷市役所(岡山県)---------------5名
http://ameblo.jp/ssasamamaru/entry-12054290012.html


香川大学場合は、これに高松市役所(4名)、岡山市役所(3名)、トマト銀行(3名)等が続く。両校とも、公務員、銀行が多いように見えるが、香川大の上位5社を岡山大側の同じ企業・役所の実績と比べれば、絶対数ではそれぞれ香川大のほうが多いか拮抗していることがわかる。
しかも、両校の就職先トップ企業である岡山県の中国銀行の場合、過去10年間にわたって好不況に関係なくホームチームの岡山大より、アウェイであるはずの香川大経済の方が就職者数が多い。
平成26年度、つまり2015年3月卒という学年は、香川大経済は福山市立大の開学のあおりを受けて志願者数が激減し、実質競争率は前・後期とも2倍を割り込んで、センター試験開始以来という大幅な易化に追い込まれた年である。そのことは、以前福山市立大との比較の頁で説明した。当然、香川大経済学部と岡山大経済学部の入試偏差値の差は以前よりも確実に拡大しており、その影響が4年後の就職先の差にどう反映しているのかが気がかりだった。が、就職先については例年とほとんど変わらず、「民間の香川、公務員の岡山」という傾向もそのまま続いていることがわかった。


《中国銀行(本店岡山市、預金量6兆円)への両校就職実績数比較》
卒業年次-------岡山大学(経済)------香川大学(経済)
2015年3月卒--------- 8名------------------14名
2014年3月卒--------- 8名------------------13名
2013年3月卒--------- 5名------------------13名
2012年3月卒--------- 8名------------------12名
2011年3月卒--------- 8名------------------12名
2010年3月卒--------- 7名------------------18名
2009年3月卒---------10名------------------16名
2008年3月卒---------10名------------------10名
2007年3月卒----------8名------------------14名

 

公務員分野では、岡山大経済の2015年3月実績は51名、これに対して香川大経済は34名である。学部定員は香川大のほうが大きいため、公務員就職率では岡山大経済が、香川大経済を圧倒している。ここでは、両校学生の入試偏差値の学力差が正直に出ているといっていい。
筆者がリストを分析した結果、公務員と信用保証協会のような準公務員的な職種をあわせると、平成26年度の岡山大経済学部の公務員等就職者は51名。進路が判明している卒業生数が約170名であるから、そのうち約3割が安定した公務員に就職していることがわかる。前回、平成19年度では岡山大経済の公務員実績は32名であったから、6割増の大躍進である。
ところが、民間企業就職についてそうした「隔絶」した実績差があるかというと、全然そうはなっていない。むしろ体感温度では入試偏差値では劣勢の香川大のほうに歩がある感じである。その証拠に、岡山・香川両県での岡山大経済の就職実績は決して偏差値ほど他に抜きんでたものではないからである。


《岡大経済の岡山県内企業・公務員への就職実績》

平成22年度→23年度→24年度→25年度→26年度

単位;人


(中国銀行)
8→8→5→8→8

(トマト銀行)
2→1→2→3→3

(岡山県庁)
3→0→2→0→3

(岡山市役所)
3→0→3→5→5

(倉敷市役所)
2→3→1→2→5

(中国電力)
0→0→0→0→0

 

《岡大経済の香川県内企業・公務員への就職実績》

(百十四銀行)
0→3→2→0→4

(香川銀行)
1→0→1→0→0

(四国電力)
0→0→0→0→0

(香川県庁)
3→3→2→1→1

(高松市役所)
1→2→0→1→0

 

上記のとおり、岡山大経済の香川県での定番企業・官庁への就職者数は、平成26年度ではわずか5名である。同じ年の香川大経済からの百十四銀行就職者数12名の半分にも満たない。香川県の第二地銀である香川銀行の「1→0→1→0→0」という就職実績推移に至っては、もはやお互いが相手を拒んでいるのではないかという印象すら受けるほど少ない。しかも、この傾向はひとり岡山大経済だけのものではなく、同じ年の岡山大法は、百十四銀行0、香川銀行0、四国電力0、香川県庁1、高松市役所0の計1名。2学部あわせても6名という結果であった。

筆者は、これまで四国の高校生がいったん海を渡って岡山大に進学したら、4年後に地元(香川・愛媛等)へUターン就職するのは難しいという印象を持っていたが、まさにそれが実証された気がする。
ただし「そのかわり、その分岡山大の東京・大阪の大企業への就職者数が増えているだろう」というのが筆者の事前予想だった。神戸・大阪といった上位校から切り下げてきた後期日程を中心とした高偏差値層は、就職先についてもブランド志向・メジャー志向が強いだろうと予想したのである。また、岡山から新幹線で大阪・神戸まで1時間足らずというのは毎日でも通える程の距離であり、地方大学としては就職活動のしやすいきわめて恵まれている立地条件である。しかし、今回岡山大経済の就職実績リストを見て、その予想が見事にはずれていることがわかった。
それでは、岡大経済の就職リストから、業界を代表する大企業への就職実績状況を見てみよう。
下記のとおりである。


〔岡大経済の代表企業への平成22年度~26年度の就職実績〕

 

(アサヒビール)

0→0→1→0→0

(クラレ)

0→0→0→0→0

(日立製作所)

0→0→0→0→0

(東芝)
0→1→0→0→0

(トヨタ)

0→0→0→0→0

(三井住友銀行)

1→1→2→2→0

(三菱東京UFJ銀行)
0→0→0→1→1

(野村證券)

3→1→0→1→0

(日本銀行)

0→1→1→1→0
※ただし25/3の1名は女性

(日本生命)

2→3→1→2→3
※ただし25/3の2名、26/3のうち2名は女性

(東京海上日動火災保険)

2→1→0→0→2
※ただし26/3のうち1名は女性

(ソフトバンク)

0→0→0→1→0
※ただし25/3の1名は女性

(NTTドコモ)
0→0→0→0→1
※ただし26/3の1名は女性

(ベネッセ)

0→0→0→0→0

 

岡山大の場合、男子学生に限ると、金融関係以外は残念なほど実績が少ない。アベノミクスの円安メリットを満喫した電機・自動車等の輸出関連企業もなく、岡山発祥の大企業であるクラレやベネッセといった企業への入社実績もこの5年間ない。景気回復を背景に、伊藤忠商事や日本生命など関東・関西の近江発祥の著名企業へ安定的に学生を送り込んでいる彦根の滋賀大経済学部との差は歴然としている。

 

旧制彦根高商の伝統を受け継ぐ滋賀大学経済学部

 

滋賀大はこの年、もともと強い金融機関だけでなく、景気の回復を背景として、伊藤忠商事、住友商事の各1名を筆頭に、日本郵船1名、日本航空1名、本田技研1名、クボタ2名、サントリー1名と、各業界を代表する著名企業へ卒業生を送り込んでいる。同校の前身は、戦前「近江商人養成学校」と呼ばれた旧制彦根高商である。伝統の面目躍如というところか。

それが同じ年、岡山大についてはご覧のような状況である。国の政権交代以降の景気回復状況や求人の好転等を考えれば、意外なほどの少なさである。これが、入試偏差値では中・四国で一、二を争う国立総合大学の就職状況なのである。筆者も、一瞬、岡山大経済に併設されている夜間主コースのデータと間違えたのかと目を疑ってしまった。

念のため、前回全数分析を行った平成19年度に岡山大経済から入社実績のあった大手製造会社について定点観測で比較してみた。なんと平成19年度には採用のあった15社16名が、7年後の26年度には全滅。全社あわせて実績0名という意外な状態になってしまっていた。

 

〔岡山大経済の平成19年度と26年度の就職実績者数比較〕

平成19年度→26年度

単位;人


三菱重工-------2→0
日本電気-------1→0
大塚製薬-------1→0
塩野義薬-------1→0
カシオ計--------1→0
北川鉄工-------1→0
京セラ----------1→0
CKD-----------1→0
大王製紙-------1→0
ダイハツ--------1→0
高田工業--------1→0
東ソー----------1→0
日本製紙--------1→0
フジクラ---------1→0
ブリジストン------1→0

 

これが1社、2社なら個別の企業側の事情によるとも思える。が、いくらサンプル数が15社と少ないとはいえ、国全体の雇用回復期に全部が採用0名になるというのは偶然であるとは思えない。26年度には、上場企業の川崎重工やレンゴーが各1名新たに就職しているとはいえ、同時に業界トップ企業の三菱重工、日本製紙が消えているわけであるから、競争相手の他大学の学生に弾き飛ばされて仕方なくそちらへ入ったという解釈もできるため、にわかには喜べない。大手企業への就職弱体化、そこには何か共通する問題があったのではないだろうか。

阪大、神戸大といった関西の上位難関校から、「心ならずも」志望を落してきた岡大経済の後期試験入学組が、4月の入学式後に「自分の入った大学が民間就職に弱い」というこの現実を知らされたらどう動くだろうか。彼らは聡いし、プライドも高い。当然、費用対効果の見合わない民間企業就職活動には早々に見切りをつけ、その後の4年間を「大学の看板」ではなく「自分の学力」だけで勝負できる資格試験や公務員試験に絞って大学入試の「リベンジ」を求めるのは自然の理である。筆者は、岡大経済学部の入試偏差値上昇とともに、平成26年の公務員就職者数が平成19年当時に比べて6割増と急増している理由は、そこに求めることができると考えている。

岡山大経済の就職先をつぶさに見て納得するのは、旧官立医大、中・四国最難関大学のプライドが邪魔するのか、就職先の幅がとても狭いということであろう。すなわち、極端に言うと、彼らにとって「公務員合格者か中銀以外は負け組」なのである。
このため、規模は大きくても、「小売り」の天満屋、天満屋ストアへの就職は22年度に各1名があったが、あとはその後4年間途切れている。パチンコのダイナムへの就職も同じく景気好転とともに途切れている。これらの企業については、就職事情が良くなった途端、岡大生側が見向きもしなくなったということだろう。こういうことをすると、人事担当の心証を害し、あとでまた景気が悪化して採用側優位の「買い手市場」にもどったときに会社側から手痛いしっぺ返しを食らうことになるのだが、どうも後のことは気にしていないらしい。

とくに、上記で明瞭となった岡山大経済の製造企業に対する就職の幅の狭さは、他人事ながら大いに気がかりである。

同年度の香川大学については筆者も詳細数字までは把握できていないが、民間に限った場合、公開されている上位企業の数字や学内の個別企業説明会の開催状況から類推して、上記の岡大に較べればまだ「まし」であろうことは想像できる。両校の入試偏差値の差を考えれば素直には理解しがたいが、そこは香川大経済の旧制高商以来の90年の歴史と伝統の強みだろう。旧制高松高商以来の香川大経済の卒業生人脈が、今日でも生きているのである。
むしろ、入試の高偏差値を頼みに「高望み」しすぎたのか、岡山大側の有名企業就職者は以前に比べて全然増えず、かえって製造業では平成19年度には実績があった三菱重工、日本電気をはじめとする有名どころが激減している。そのうえ、せっかく不況時に実績を作った小売りや非上場の地元優良企業への就職者数も減少し、かつては最低でも毎年1名が就職していた四国電力、中国電力などの地元インフラ系企業は原発停止のあおりを受けたためか、いずれも岡山大経済、法両学部からは22年度以降5年連続で採用が0名となっているなど、「足腰の衰え」だけが目立つ。

これは興味がある問題であるので、もし香川大側の詳細資料が手に入れば、改めて両者を詳細比較研究してみたい。

 

 

《参考資料》

岡山大学経済学部(昼間主) 平成26年度全就職先

「岡山大学就職ガイドブック2016(平成28年度卒業生向け)」より