私の母は、クラシック音楽については、超がつく有名な曲であっても、何という曲なのかを殆ど知らなくて、今まで私がピアノで弾いていた曲も、知らないまま聴き流しているような様子でした。

もちろん個人の趣味なので良いのですが、以前から「それが流れると涙が出そうになる曲が一つある」と言っていた事がありました。しかし、どの曲なのか、別れの曲?悲愴?…等、涙を誘いそうな曲をいくつか挙げてみて、その触りを弾いてみると、どの曲に対しても「…ああ、それかもしれない。わからない」と繰り返すのでした。


ちょっと引っかかりながらも、年月だけが過ぎましたが、先日ようやくその謎が解けました。


週末に実家へ少し帰った時のこと。ひと通りいろいろ曲を弾いていましたが、幻想即興曲を弾いたところで、たまたまひと息ついて止めたら、母が「ねぇ、今の曲、何て言うの!?」と声を震わせながらピアノの所まで来ました。

ショパンの幻想即興曲だ、と私が言うと、「私、この曲、すごく好き…!!」と言って涙声になっていました。

…えっ、幻想即興曲なの?と私は内心かなり意外だったので、どの辺が好きなのか質問したところ、「んー、わからない」とのこと。

よくわからないけれど、涙が出てくるのだと。いずれ自分が死ぬときは、この曲を聴きながら死にたい、とまで言っていました。


どういう物事が心の琴線に触れるのか、本当に人それぞれだな、と改めて感じる瞬間でした。

母のことだから、聞いたそばから曲名は忘れているかもしれないですが、昔から感覚で生きているようなところがある人です。ショパンの幻想即興曲が超有名曲だという先入観も持たずに、耳に入った感覚で反応しているのでしょう、母らしいなと思いました。


私としては、長年のちょっとしたモヤモヤが晴れて、嬉しかったです。

(ちなみに、父の好きな曲は昔から、ショパンのワルツ7番、一択です)


今まで、それほど好きでなかった幻想即興曲。

母の好きな曲だとわかったので、これからも弾き続けて上達したいですし、ずっと弾き続けることで親孝行になるなら、それも嬉しいことだと思いました。