寒いなあと思いつつ、マフラーの隙間から長い息を吐く。
 月明かりの下でもそれは白く色を変えて、瞬く間に掻き消えた。
 お気に入りのコートに片手を突っ込んで、もう片方の手にはクリスマスカラーの紙袋。
 意外にも家事全般を得意とする我らがリーダーが、協会をお暇する際に持たせてくれたものだ。
 
 
「なにこれ?」
「クリスマスケーキだ。帰ってからでも食べてみてくれ」
 あ、保冷剤もちゃんと入れてあるからなという主婦な発言を聞きつつ、紙袋の口から中を覗き見る。
 ケーキ一切れ分にしては明らかに大きな箱。
「ねえマンカス、つかぬことを訊くけど」
「うっかり人数分焼いてしまったんだ。こういうときに限って現れないのがあいつらしいというか」
「…ようするに配達人をやれってわけだね」
「手間をかけて済まないが。どうせ会うんだろう?」
 それはどうだろう。いつも特に約束をしているわけではないし、なにせ僕らふたりとも気まぐれなものだから。
「会えば渡しておくよ。でも僕のお腹に入ったらごめんね」
 
 
 そう言って別れてから、もう2時間がたっている。
 一応訪ねてみた部屋は当然のようにもぬけの殻で、自分の家へと続く路をぶらりと遠回りして歩いて、とうとう玄関にたどり着いた。
「さてと。…もうそろそろ食べちゃってもいいよね?」
「おう、そうだな」
背後からにゅうっと延びてきた手に紙袋を奪われる。
「…キミどこから尾けてきたの」
「ああん? まあ気にすんな、それより持っててやるから早くドア開けろよぅあーさみィ」
 僕は無言で鍵を取り出して、ドアを開けて中に入る。
 もちろん無礼者は閉め出した。
「テメ、オイなにすんだよ! ケーキは!」
「僕に気付かせずに見事尾行を成功させたご褒美だよ、家に帰って一人で食べれば」
「そんな拗ねんなよ、んなガキじゃあるまいし」
「……」
「あ! いや! 今のは俺が悪かった! だから頼むぜココ開けろってば!」
「し、ら、な、い。自分で何とかすれば」
 
 近所迷惑な根比べがしばらく続いて、結局どちらが折れたかは敗者の名誉のため黙秘させてもらおうと思う。