昨年BOOK・OFFで100円(笑)で買った文庫本、奥付を見ると平成16年に株式会社幻冬舎から初版が発行されたようだが、読むのをすっかり忘れていて、ようやく読んだ。裏表紙に記載されている紹介文を以下に転記した。

 

試合で活躍した選手が心臓麻痺で死ぬという事件が起こった。セリエAの日本人プレーヤー冬次の依頼で調査に乗り出した小説家・矢崎は、死を招く最強のドリンク剤「アンギオン」の存在を知る。

 

イタリア、南フランス、キューバ…。いくつもの罠が待ち受ける中、ついに冬次の身にも危険が迫る。サッカーの面白さと物語の興奮が融合した小説。

 

文庫本の本文は約440ページ、34節に分かれており、なかなかの長編である。以下に各章のタイトルを転記した。

 

第1節 … 最初の犠牲者

第2節 … ブルガリのサングラスの女

第3節 … アルルの闘牛

第4節 … クロアチア人と愛犬の死

第5節 … 修道僧のホテル

第6節 … アンギオン

第7節 … 元レジスタンスの老紳士

第8節 … 灰色のアムステルダム

第9節 … ヴォルフガング・ラインターラー

第10節 … スタジオ・アルテミオ・フランキ フィレンツェ

第11節 … ジェノアのミルフィユ

第12節 … 悪魔のパス

第13節 … サルディニのピザ

第14節 … カンクンのプライベートビーチ

第15節 … ハバナ・嘘つきのトランペッター

と、途中まで転記したら疲れてしまったので、ここでやめた(笑)ともかく、全部で34節あるのだ。

 

読み始めて直ぐ「セリエAの日本人プレーヤー、冬次」は、中田英寿氏(巻末の解説は、中田英寿氏によるものだった)をモデルにしたのだとピン!と来た。

 

また、冬次が所属する架空名のチーム「メレーニア」は「ペルージャ」だと思ったが、読み進めるとそれは確信に変わった。また「小説家・矢崎」は、作者の村上龍氏をイメージしたが、読んだ人の殆どがそう思ったのではないか?

 

小説の所々には、冬次が出場するセリエAの試合の描写が挿入されるが、相手チームのチーム名も、選手達も多くが実名なのだ。ユヴェントスのデル・ピエーロ、ジダン、ダーヴィッツなどが登場するわけである。

 

その時代は、センセーショナルなデビューを飾った中田英寿選手活躍の影響が大きく、確か「セリエAダイジェスト」なる番組が毎週放映され、自分は欠かさず見ていたと記憶している。

 

物語は「死を招く最強のドリンク剤」の存在を追う小説家矢崎の話と、セリエAを戦う冬次の話が並行して進んで行くのだが、自分は何よりサッカーの試合の精緻な描写に引き込まれた。読めば、そのシーンの映像が目に浮かぶようである。

 

また、試合開始前、試合中、試合後のスタジアム周辺の情景や、キック・オフを待つサポーター、プレーに一喜一憂し感情を爆発させる彼らの描写も精緻で、自分がイタリアのスタジアムの喧騒の中で発煙筒の煙に噎せながら観戦している気にさせてくれる。

 

本のクライマックスは、第24節「天使のゴール I」で、試合は始まるのだが、それは322ページから。第33節「天使のゴール IX」で試合終了するのが434ページ。つまり、1つの試合が100ページ以上かけて描かれているのだ。

 

その100ページは、サッカーファンでなくとも、まるで自分がスタジアムで観戦しているような、というか、テレビ画面に小説の試合が映し出され、それを手に汗握って観戦しているような錯覚を味わせてくれる。

 

世の中には、読書は好きだがサッカーに興味が無い、って方もいるだろう。そういう方が読んだとすると「なるほど、サッカーとはこういうものなんだ!」とサッカーというスポーツの本質を捉えられるのではないだろうか?

 

試合の興奮だけにとどまらず「死を招く最強のドリンク剤アンギオン」が冬次にどう関わるのか?の謎もあるわけで、最初から最後まで全く退屈せず、と言うか、途中で読むのを止められず、一気に読んでしまった。とても楽しめた。