(facebookより引用)
新型コロナウイルスのワクチンを接種した従業員に対し、手当を支払う店や企業が増えている。感染が下火になり飲食店などで働き手が不足するなか、求職者を引きつけるアピール材料になっている。ただ、接種に慎重な人への影響を懸念する声も出ている。
■国側「差別といえず」、未接種に重圧も
ワクチン2度接種なら、午後10時以降の時給を100円アップ。勤務3カ月後に1万円支給――。つけ麺専門店「三ツ矢堂製麺」池袋サンシャイン60通り店(東京都豊島区)は10月末から、通常より好待遇をうたい、求人情報サイトでスタッフを募集した。
同店を含む13店舗を国内で営むインターナショナル・ダイニング・コーポレーションによると、コロナ禍に伴う営業時間の制約などで、各店の従業員数はコロナ前の7割ほどに減った。中村清彦社長(49)は、「店を開けたくてもスタッフが足りない。早急に雇い入れたかった」と狙いを話す。
人手不足は飲食業界に広く及ぶ。バイトルなど求人情報サイトを運営するディップによると、飲食系の11月第3週の求人件数は、8月第1週の1・92倍に増加。こうした状況を受け、ワクチン手当の支給を掲げる求人も10月上旬の2万件から、15万件(19日時点)へと大幅に増えた。
同社の担当者は「幅広い世代にワクチンが行き渡り始めたころは、従業員に接種してもらい安心できる職場づくりのために手当を導入する企業が多かったが、人手不足が表面化するなか、求職者に目を止めてもらうためのツールに意味合いが変わった」と指摘する。
手当付きの求人を出し、手応えを感じる店も出ている。東京・神保町の「お好み焼・ねぎ焼十々」は10月下旬、接種済みか接種の意思を申し出た人に3カ月後、1万円の手当を支給するとの求人を出すと、26人の応募があったという。店主の渡辺哲さん(49)は「3、4人採用できればと思っていたが、予想以上の反応だった」と喜ぶ。
一方、ワクチン手当に慎重な意見もある。スタッフ募集中の都内の居酒屋店長は「ワクチン手当を導入するのは、接種しているかどうかによる『区別』でなく『差別』に思える」と否定的な立場だ。
新型コロナワクチンをめぐっては、政府が2月、接種しないことを理由に解雇や減給、配置転換など不利益な取り扱いをするのは不適切とする答弁書を閣議決定した。接種済みの人に対し、採用時に手当の支給を提示することの是非について、厚生労働省の担当者は「差別的な扱いとはいえない」との考えだ。非接種者のマイナスではなく、接種者への上積みと見なされるためという。「客側が安心材料にしたいというニーズもある。企業努力を制限する理由を見つけるのは難しい」と話す。
ただ、こうした動きを危惧する声もある。日本弁護士連合会人権擁護委員長の川上詩朗弁護士は「接種したかどうかで待遇を変えることが、接種できない人、接種しない人にどんな心情を抱かせるか。本来は丁寧な議論が必要では」と話す。体質などが理由でワクチンを打てない場合、「病気のことを知られたくない」との思いから、ワクチン接種の話題が出るだけで不安になる人がいるという。
日弁連が10月に行った相談会では「職場では接種者のみバッジを付けており、未接種の理由を同僚からしつこく聞かれる」「『なぜ打たないのか』との質問が重圧だ」との声が寄せられた。「『打つ、打たないは個人の自由』と言っても、実際には打っていない人がつらい環境になっていないか。手当を導入しなければならない目的を、事業者は具体的に説明する必要がある」と指摘した。(荻原千明)
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